マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

下品な料理は旨い!!

2013-02-27 10:30:00 | スペイン日記

カジョス・ア・ラ・マドリレニャ

 日本から来た友達をマドリードの繁華街の裏にある“飲み屋街”へよく連れて行く。マドリードは石を投げればバルに当たると言われるほどバル(bar)と呼ばれる飲み屋が多い。バルはビールやワインだけではなくコ-ヒ-も甘いものも出すのでカフェでもあり、何よりもトイレが使えるのがありがたい。

 マドリードのソル広場(Puerta del Sol )やマヨール広場(Plaza Mayor)界隈は昔からバルが集まっている。東京の新宿で飲み歩く人は“しょんべん横丁”と呼ばれているヤキトリ屋の集まった飲み屋街を知っていると思う。何となくそこに似た一角がソル広場とサンタ・アナ広場(Plaza Santa Ana)の間にあるので、僕が勝手に飲み屋街と呼んでいるだけです(ちなみにマヨール広場界隈のは“メソン街”と勝手に名づけました)。カフェよりもタベルナ(taberna)と呼ぶ居酒屋みたいなバルが連なっています。


飲み屋街。軒並みバル、バル、バル

 マドリードは元々よそ者たちが集まって大きくなった街なので、スペイン各地の名物料理も集まりました。北のガリシアのゆでタコ、地中海のバレンシアのパエジャ、南のアンダルシアのガスパッチョスープなどなど、レパートリーは広い。ひと昔はやはり地元の味にはかなわない、と言われたが輸送機関がスピードアップした今日では地方の新鮮な素材がマドリードに集まるので、それは昔話となった。日本でも知られるようになった“タパス”と呼ばれるつき出しもマドリードでスペイン各地のタパスが味わえる。

 タパスではないが何故か不思議なのが、海の無いマドリードなのに、イカのリング揚げサンドイッチがマドリード名物なことだ。ボカディージョ・デ・カラマ-レス(bocadillo de calamares fritos)と呼びます。ボカディージョとはスペイン版サンドイッチで、小さいバゲットを縦に切り開いて中にイカリングを詰めます。マヨール広場界隈のバルやアトーチャ駅(Estación de Atocha)近くのバルのボカディージョ・デ・カラマーレスがマドリっ子たちのお勧めです。

 おっと話は飲み屋街だった。僕が通い始めた40年前の飲み屋街のバルにはまだまだ地方の味が残っていました。しかし近頃はマドリード全体の味が、ファーストフード的若者の味が当たり前になったせいか、はてはガイジンツーリストの激増のせいか、誰の口にも合う無国籍になってきてしまった。それだけではなく何にでもソースをかけてしまう。それは味を騙すだけではなく、素材の持ち味までも殺してしまう。


飲み屋街。左のバルの豚の耳が旨い。

 そんな現代の風潮のなかでも変わらないのが“豚の耳(オレハ/oreja)”です。日本からきた友達が「あれは何だ?」と指差すので注文しますが、反応はまちまちです。沖縄の友達は美味しいと顔をほころばせますが東京の友達は残します。同じ都会人でも東南アジアを旅する“ゲテモノ好き”は綺麗に平らげます。

 豚の耳のぶつ切りにニンニクのみじん切りを加えて鉄板焼きにします。よく見ると豚の毛などが付いたままですが気にしないことです。日本では豚足などを調理する前に火で毛を焼いてゲテモノの欠点をそれなりに処理しますが、スペインではそんなことには気を使わず丸出しです。焼きあがった豚の耳には好みでパプリカソースをかけてもらいますが僕はそのままが好きです。焦げた豚の皮のコリコリ感と白いゼラチン質を直に味わいたいからです。これはスペイン中央部から北部のタパスです。

 次に友だちが「あれは何だ?」と覗きこむのは、カジョス・ア・ラ・マドリレニャ(callos a la madrileña)です。昔から“マドリードの下品料理”と呼ばれ、貧乏人が食べる内蔵煮込み料理でした。牛の胃袋を脚の肉、豚の鼻先、豚の腸詰め等と6時間煮込みます。美味しい食べ方は二日前に作っておいて食べる時に温めます。材料は牛の胃袋や豚の鼻先と言う下品な代物ですが、それを綺麗にするのに手間がかかります。胃袋は酢やレモンと一緒に丁寧に水洗いして、茹でます。これを何回も繰り返してネバネバや臭いを取り除きます。

 僕は料理には手間暇を惜しまない方だと思います。例えば、マドリードの闘牛が始まると殺された闘牛の肉が市場に出るので、闘牛の尻尾のぶつ切り煮込み料理のラボ・デ・トロ(rabo de toro)も作ります。皮を剥いた尻尾のぶつ切りを赤ワインに浸し、すりおろした人参を加えて半日ほど煮込みます。スペイン人は白ワインで煮込みますが僕は赤ワインの方が好きなので自分でつくります。ワインを足しながらとろ火で煮続けるのも結構面倒で家を空けることもできません。

 それに比べてもカジョスは面倒すぎます。カスケリア(casquería)と呼ばれる臓物は本来安いものですが、肉屋で綺麗に下ごしらえした胃袋パックを買うとそれなりの値になり、大人数分を作るなら自分で下処理から始めないと高いものとなります。だから1人分や2人分ならバルで食べるか、スーパーで出来上がったパック詰めを買ってきます。幸い近所に“スペインのお惣菜屋さん”の自家製カジョスがあるので買いますが、4人分で2~3千円くらいだと思います。

 やっぱり貧乏人料理を謳うには一人分百円じゃないといけません。パック詰めカジョスは1キロ千円くらいで、4~5人分です。高カロリー、高コレステロールと悪名高きカジョスなので、肥満のオヤジや痛風持ちのグルメには厳禁ですがたまに食べるには問題ありません。18世紀の王室画家・ゴヤの大好物でした。

 21世紀のマドリードでは高級レストランでも出します。一皿3500円も取るので白い皿に盛られたカジョスを銀のスプーンで食べますが、やはりカスエラ(cazuela)と呼ばれる茶色の土の皿に盛られたのがシックリします。パンをちぎっては浸して食べ、フォークとパンでカジョスを挟んで食べるのが僕は好きです。最後に残る汁もパンを浸して“下品に平らげます”。


カスエラに盛ったカジョスはパンを浸して食べる。ワインはコップで。

 で、何が美味しいか? 長時間煮込んだ胃袋や鼻先から出るあのとろみ、豚の耳のゼラチン質とは違う甘みじゃ無いでしょうか。辛いパプリカと甘いパプリカを合わせて煮込むので、それらが腸詰めから出た肉汁と絡まってあの胃袋の内部のヒダヒダにへばりついて、噛んだ感触と味はこってりです。これもジーと見ると、胃袋のシワやヒダ、海綿状のフワフワが目につきますが、あまり気にしないことです。

 カジョスが下品料理のナンバーワンならナンバーツーはコシード(cocido)でしょう。両方共ア・ラ・マドリレニャと呼ばれるようにマドリードを代表するごっちゃ煮料理でワインは赤でも白でも合います。庶民的にハウスワインをワイングラスではなくコップのがぶ飲みといきたいです。
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エウロヴェガスができる! 老後は年金を握りしめてカジノ三昧だ!

2013-02-12 11:00:00 | スペイン日記

高層ホテルの姿はマドリードの“M” です。

 エウロヴェガス(Eurovegas)とはラス・ヴェガス(Las Vegas)のヨーロッパ版です。マカオ、シンガポール、ラス・ヴェガスでカジノやリゾートの運営と経営をしているアメリカのラス・ヴェガス・サンズ(Las Vegas Sands)がマドリードにヨーロッパ最大規模のラス・ヴェガス“西洋”を造るのです。

 エウロヴェガスはスペイン人が勝手にネーミングしただけで正式名ではありませんが、この一年半余りの間、バルセロナにするかマドリードにするか、マドリードでもどこにするか、「すったぁもんだぁ」していました。バルセロナは大観光地だし、港もあるのでカジノにはうってつけの都だと思ったが、カタルーニャ州自治が用意した土地は空港に近すぎた。便利なことは便利だが、本場ラス・ヴェガスのような超高層ホテルが建てられない。

 マドリード州自治は3箇所を候補地に挙げた。一つは汚水処理場/ゴミ処理場に近いので風向き次第ではかなり臭う、それもキツ~ク。もう一つはマドリード・バラハス空港の近くなのでバルセロナ同様に高層建物が建たない。で、落ち着いたのがマドリードの西南にあるアルコルコン(Alcorcón)と言う街だ。回りは1200ヘクタールの野原なので、エウロヴェガが必要とする750ヘクタールには十分だ。

 バラハス空港とはマドリード中心地を挟んで反対側だがM40自動車環状線を使えば30分足らず、マドリードの中心地ソル広場からも20分の近さです。近くには空軍の飛行場がありますが、今はプライベートジェット機との使用を共有しているように規模は小さい。162億ユーロ(約2兆円)をかけて今年から15~18年間かけて大カジノランドを造ります。スケ-ルが大きすぎますが、宿泊施設は4万部屋、カジノの数は6つで、1000テーブルと2万台のスロットマシーンが並びます。


カジノだけではなくサーカスもマクロ会議場もある。

 どうもラス・ヴェガス・サンズの狙いはカジノだけではなく、ゴルフ場(3つ)も大会議場も劇場もサーカスもある大娯楽都市を創り上げるようです。ざっと26万人の雇用を生むようです。あまりにもスケールが大きすぎて現実味が無いので、ラス・ヴェガス・サンズにお金があるのは本当なのか?と出来上がるまでは半信半疑です。

 「ラス・ヴェガスは売上げが落ちているがマカオでそれをカバーしている」と会社の経理内容までも新聞で暴露されて、スペイン庶民は「夢物語で終わるんじゃないのか?」と恐れています。それに、世界経済の軸は2050年までに欧米からアジアへ移行する予測なので、庶民よりはお利口さんのスペイン経済人はインド人や中国人の金持ちは引き続きマカオやシンガポールで遊ぶだろうと懐疑的です。

 確かに、何故スペインのマドリードを選んだのか?です。もっと世界規模での候補地生き残り戦があって、それに勝ち抜いて残ったのがマドリードだったのなら誰でも納得できます。それは時間がかかるオリンピックの開催地選考みたいなものですが、今回の降って湧いたような話だと夢を見ているようです。

 謎は写真のユダヤ人達が明かしてくれます。今回の成り行きにはユダヤ人社会の「事を大げさにしない」と言う慣習が働いたようです。確かに新聞にエウロヴェガスの記事が載るようになったのは一昨年あたりからですが、ある二人の間では6年以上も前に計画された夢の事業だったのです。その二人とはラス・ヴェガス・サンズの会長・シェルドン・アデルソン氏(Sheldon Adelson)とマドリードのユダヤ社会の重鎮・ハッチウェル・トレダノ氏(Hatchewell Toledano)です。


中央の杖の人物がアデルソン氏。氏の左が奥さん、右が朋友・ハッチウェルの息子。


 二人に共通するのは異国で働くユダヤ人同志であるのとイスラエルに注ぐ強烈な祖国愛です。ハッチウェル氏は大富豪の実業家でマドリードに住むユダヤ人のためにユダヤ人学校を寄付したり、ユダヤ人墓地を造ったり、イスラエルとスペインの外交にも貢献しました。その功績でスペイン政府が授けるアスツリアス皇太子賞を受けています。

 一昨年亡くなりましたが、彼の息子が遺志を継いでアデルセン氏とこの“エウロヴェガス”計画を続行しました。マドリードに決めたのはアデルセン氏の奥さんです。アデルセン氏をラス・ヴェガスで成功させた“あげまん”です。田舎のカジノ場に過ぎなかったラス・ヴェガスにヴェネツィア風カジノを夫に造らせて、カジノだけではなく他の娯楽でも楽しめるアメリカ一のエンターテイメントシティにしたのです。彼女のお目にかなったのがマドリードでした。

 ヨーロッパ連合(EU)の国々には27国の代表が集まれるコンベンションセンターはありますが、娯楽も同時に楽しめる規模の施設はありません。カジノはモナコをはじめあっちこっちにありますがバクチだけです。そこに目をつけたようです。大規模の建設事業なので3段階に分けて進めるようで、第一段階はこの年末から始まり2017年までに出来上がります。その資金・67億ユーロ(ほぼ8千億円)はラス・ヴェガス・サンズがすでに集めました。この第一段階だけでもカジノとホテルが4軒建ち、部屋数は1万を超えます。それだけでも8万人の雇用が生まれます。

 第一段階が終わってから第二段階を始めるのではなく、第一段階の建設工事が軌道に乗った時点で第二段階も始める計画です。すべてが完成したら年間一千万人を超える客を見込んでいます。こうして設計図を描いた人物や構想が明らかになってくるとだんだんと現実味を帯びてきます。もしマドリードが2020年オリンピックの開催地になったら、夢プラス夢で天国まで上りそうです。

 僕も全くこの夢構想計画に無関係ではありません。ごくごく微小ですが、プラスマイナスがあります。マイナスは恒例のキノコ採りが出来無くなります。野原はカルディージョ(cardillo)と呼ぶシメジみたいなキノコが豊富でした。プラスは、キノコ採りのためではありませんが野原の近くの村にアパートを持っています。この数年間「売ります」の看板をぶら下げていますが、全く売れずに困っていましたが、これで期待がもてそうです。売れたら、お返しにカジノで遊びます。年金も倍に出来るかもしれません。老人が年金を握りしめてのバクチ打ちは裏寂れたギャンブラーの姿ですが、自分の金で遊ぶのだからいいのです。

 このところスペインの政治話ばかりでうんざりですが、一つだけ愚痴らせて下さい。政府与党・ペーペー党(PP)の裏金が発覚しました。党資金としてスイス銀行に2千2百万ユーロ(約26億円)も隠していました。財政危機を救うために国民には増税を押し付けておいてスイスに隠し金庫とはとんでもないです。冗談じゃないので「清貧生活はやめ!」で、誰も政治を信じなくなりました。

 たったひとつのいい話はブログ「家検はコワイです」で書いた罰金が利子付きで返還されました。マドリード州自治が間違いを認めました。ヤッホー。
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