宝探しの冒険談を一つ。宝探しは子供が誰でも夢中になる遊びだが、それを大人になっても続けていられたら「男のロマン」だ。そんなことをやっている「時代錯誤人種」は、やっぱりアメリカ人だった。
オデュッセイア(Odyssey)と呼ぶ立派な名前の宝探しの会社がカリフォルニアにあるとは驚いた。仕事は世界中の海底に沈んでいる船の財宝を探しまわる「海賊」だ。う~ん、素晴らしい!社員は顔じゅうヒゲだらけだ。それも素晴らしい!その昔、スペインが中南米から山ほどの金銀を奪ってきた話はあまりにも有名だ。話は1804年のことで、ペルーから金銀貨幣を運んでいたスペイン海軍の帆船が、大西洋上でイギリス海軍の砲撃を食らって沈んだ。その歴史的事実を頼りにオデュッセイアは何年も探し続け、とうとう、その財宝を探し当てた。
やったぜベイビー!!と叫んだ報酬は60万の金銀貨幣で、21トンの重さ。時価・4億万ユーロ(ざっと、450億円か)。5年前の2007年の出来事だった。ところがスペイン政府は男達のロマンを打ち砕いた。財宝の所有権はスペイン国家にあると、オデュッセイアに返却を訴えでた。おいおい、200年間も放っておいて、今頃になって「私達のものです」はないだろうよ。確かに大西洋の海底にはスペインの船がかなり沈んだままになっているので、それらを全て引き上げる資金は今のスペインにはない。それにしても、全部を返せ、はないだろう。せめてオデュッセイアに引き上げ代金くらいは払ってもいいのではないか。スペインの博物館にはこの手の貨幣は沢山あるではないか。オデュッセイアもすごすごと返さないで、発見した海の底に貨幣をぶちまけて、そんなに欲しかったら自分達で引き上げろ、と啖呵の一つを切ってもよかったのだ。それが海賊魂だ。
だが現代の海賊は紳士になってしまった。スペイン政府の訴えがカリフォルニアの裁判所で認められたのは、貨幣を運搬していた船がスペイン海軍の帆船だったからだ。商船だったら少しは海賊の方に有利な判決になびいたようだ。ペルーも所有権を訴えたが、金銀の延べ棒ならまだしも、リマで鋳造されたスペイン貨幣(カルロス四世の肖像入り)だったので主張は難しい。
財宝は昨日(2月26日)マドリードの空軍基地へ戻ってきた。でも、スペイン政府はあの船にはもっと積まれていたはずだ、とすんなりと返却に応じた海賊を疑っている。確かに、大西洋と言え、今回の発見場所はポルトガル南部の海底だったので、オデュッセイアは引き上げた財宝を一時、近くのイギリス領のジブラルタルに保管した。そこにまだ財宝の一部を隠し持っているのなら、それこそ大海賊だ。それは手間賃だ。疑り深いスペイン財務省は、これから60万の貨幣を一つ一つ数えて帳簿と照らし合わせると言う。
ただ今回の事件で驚いたことは、いい加減なヤツらだ、と思っていたまわりのスペイン人のお祖父さん達は結構几帳面だったことだ。きちんと船積み書を作って200年間も保存しておいたのだ。鋳造した貨幣の帳簿は財務省のお役人の仕事だが、どこの国でもしっかり者がいるものだ。男のロマンがどんどん消えて行くのが寂しい。