マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

プラド美術館の展覧会・再会

2020-07-07 17:00:00 | スペイン日記

プラド美術館(ヴェラスケスの像)

 七夕のような再会の話です。コロナウイルスが入り込まないように3月に扉を閉じたプラド美術館が再びオープンしました(あのタイプのウイルスは絵にも付着するのでしょうか?)。「再会」と名付けられた展覧会が開かれました。今は7月でスペイン国境閉鎖は解かれていますが、再オープンしたのは先月の68日でした。その頃のマドリード州はロックダウン中だったのでプラド美術館に入れたのはマドリード人だけでした。

 

 話の次元が落ちますが、リニューアルした居酒屋が常連客だけのために設ける初日の新装開店サービスです。そのプラド美術館のサービスに僕は、オオ!と歓喜の声を上げました。あのプラド美術館の作品をツーリストの頭越しなしにゆっくりと鑑賞できるチャンスが戻ったのです!

 

 早速プラド美術館のホームページにスペイン語バージョンでアクセスして再会/レエンクエントロ(Reencuentro)展覧会の入場券を求めました。一日の入館者数は1,800人と聞いていましたが、マドリード州のロックダウンが解除される621日前なら州外観光客いないので空きはあるだろうと探しました。が、連日満員でした(時間を持て余したマドリっ子たちが多かった)。このホームページは時代遅れで、ホテルの宿泊予約リストのように「空きの夜」のリストがありません。例えば610日が満員だったら、じゃあ611日は?と日にちを変えて進まないと空いている日が分かりません。

 

 そのような順繰りをしながらパタパタとキーボードを叩いた結果に分かったのは再オープンしてからの2週間は満員だ、でした。だったらそのようにホームページで書いてくれよ!でした。やっと空きが見つかったのは州ロックダウンが解除される622日以降でした。それだと、他県のスペイン人やEU圏のヨーロッパ人(615日からスペインに入国できました)も入館できるので、ウイルスが濃くなりそうで嫌だなぁ、と思いました。

「展覧会・再会」の入り口

 

 結局その週は僕の都合と入館時間が合いませんでした。その週を逃すと、71日からはスぺイン国境が開かれてしまいます。どっと外国人観光客が増えたら取りにくくなります。がっかりしながらパタパタ打っていたら、その71日が空いていました。やっと日にちが決まったので支払いのページに進みました。一般入館料がいつもの半額(8€)で、僕のような老人はさらにその半額になるので4€(500円)でした。

 

 あのプラド美術館の入館料にしては安過ぎるので、ネット詐欺?と一瞬心配しました。でもここまで進んだら(ホームページを)信じる以外に手はないので、午後3時入館のチケットを買いました。午後3時のスぺイン人は昼ごはんかシエスタ(昼寝)なので美術館は最も人が少ないはずです。

 

 ここまでの予見は正しかったと思いますが、当日の71日のマドリードは40度近くの猛暑になってしまいました。その時間の太陽は刺すように痛く“熱”かったので、通りを歩く人はほとんど居ませんでした。その炎天下を歩いてたどり着いたプラド美術館は僕がマドリードの美術学校生徒だった頃のように、その入口には行列はありませんでした。

 

 あの頃は学生証でフリーパスだったので暇ができるたびにプラド美術館に遊びに行っていました。当時は下の階のみの展示(と言うより陳列でした)で、上の階は保存絵画の倉庫でした。たびたび(ほぼ毎日)通っていたので管理人のおじさんとも親しくなり、彼が上の階は「雨漏りがひどいんだよ」と覗かしてくれました。確かに、ひどい状態でした。

再会の案内

 

 おっと、話は現在の「再会」でした。展示は美術館のメインストリートの廊下とそれと直に繋がる一部の部屋の公開でした。つまり、“ちょっとだけよ”の「さわり展」でした。廊下には世界中のツーリストがお目当ての超有名画家―ヴェラスケス、ゴヤ、ボッシュ、ルーベンスなど―の作品を並べ、続きの部屋では廊下展示画家の大作を鑑賞できる趣向でした。それらの部屋ではプラド美術館に欠かせないスペイン画家のスルバラン、グレコ、ゴヤもゆっくりと鑑賞できました。

 

 全館の作品は鑑賞できませんが、美術の先生に引率された“小学生の美術の時間”のスポット作品を廊下に集めた展覧会だったのです。だから入館料が半額だったのです。でも騒がしい小学生や団体客はゼロだったので、人込み嫌いの僕は大満足でした。全てを観ても2時間もかかりませんでした。うかつだったのは「カタログのない展覧会」を後で知ったことです(ホームページには入館料+カタログもありました)。

 

 あとでカタログを買えばいいと思っていたのでメモは取らなかったし、持って行ったのは老眼鏡だけでした。近眼メガネは家に忘れたので壁に用意された説明ボードが読めませんでした。おまけに、今回は撮影が禁止でした。しつこい性格の僕は売店の人に聞きました。売り切れではなくてカタログそのものを作らなかったことまでを確認しました。あったのは今回のポスターでした。ホームページにあった入館料+カタログは“+ポスター”だったのです。

 

 世界中の美術館であらゆる企画展が催され、必ずその展覧会のカタログをつくります。展覧会の主旨、責任者や文芸員の紹介、スポンサーも名を連ねます(日本では最後のページに名を連ねるスポンサーですが、スペインでは表紙です)。その展覧会カタログを集めるのも絵描きの楽しみです。

 

 プラド美術館も集客のために企画展を催します。常設展示の他に別料金を設けながらも常設展+特別展セットのお得な料金もつくり年金老人をひっかけます。プラド美術館の目玉商品(いえ絵画です)だけのツアー客が落とす入館料金だけでもかなりの収入ですが、入館料金+カタログ付きの割安料金もつくり、あの手この手で収入増加に努めます。それがないのは急に決まった企画展で、「100日間の外出禁止」の印刷屋も仕事ができなかったのでしょう。もったいない話です。

 

 この展覧会「再会」ですが、入館料と内容のコストパフォーマンスは500%です。貴方が日本に住む日本人(71日から日本在住の日本人はヨーロッパへの入国OKです。アメリカに住む日本人はダメです)ならすぐにでも飛んできて観る価値はあります。

またのお越しを・出口

 

 この「七夕(再会)展覧会」は913日まで開催されています。入ると、我々を迎えるのはデューラー(Duero)の「アダムとイブ」です。その横には修正が終わったばかりのフラ・アンジェリコ(Fra Angelico)の「受胎告知」が輝いています。僕は修正後のこの作品を初めて観ましたが、ブルーが綺麗でした。中央廊下に入ると両サイドの壁にはイタリア絵画、フランドル絵画が並びます。ボッス(Bosco,ティツィアーノ(Tiziano, ラファエル(Rafael, ティントレット(Tintoretto)などの名画です。

 

 ルーベンス(Rubens)の「三美神」もありました。廊下と直につながるベラスケス(Velazquez)の部屋の正面には「ラス・メニーナス」があります。いつもなら団体客が溢れていますが、今日はパラパラの人数なので廊下の入り口から大作を眺めることができました。ゴヤ(Goya)の「マハ」も「着衣も裸も」自分の家の居間で一人で観ている気分でした。グレコ(Greco)もムリージョ(Murillo)もスルバラン(Zurbaran)も彼らの作品に近付いても離れても鑑賞ができました。

 

 ゴヤの「カルロス四世の家族」もヴェラスケスの「ブレダ開城」も4メートルの大作です。大作は離れて観ないと全体の構図が読めません。これらの作品の物語を楽しむにも距離が必要なのです。いつもは僕と作品の間に人の頭が溢れかえっていましたが今回はストレスなしの鑑賞ができました。それだけも大価値なので近いうちにメガネを持って、再び観に戻ります。被害を被ったコロナウイルスですが小さいながらの“ラッキー”もありました。

コメント (1)
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