スペイン中がサッカーのエウロコパ(EUROCOPA/ヨーロッパ・カップ/欧州選手権)で盛り上がってる最中に、葬儀の話はないだろう、ですが忘れないうちに話しておこうと思いまして・・・。まぁ、世界中のサッカー試合がネットで観られる今日この頃、試合を僕が書くこともないでしょう。
でも、スペインは勢い付いてきました。初戦、対イタリア戦はパッとせずに引き分けで終わりましたが、対アイルランド戦ではスペインらしさを発揮しました。次はスペイン-クロアチアですが、イタリアはその試合でスペインとクロアチアが八百長試合をするんじゃないのか?と真面目に心配しています。クロアチアがスペインに頼み込んで2-2の引き分け試合を目論むと、イタリアがアイルランドに圧勝しても、ベストエイト(8強)戦へは生き残れません。国へ返るだけです。ポーランドのサッカースタジアムはスペインカラーで真っ赤です。調子が出てきたスペインチームの応援に行くのは勝手だけど、スペイン人はどこからそんな金が出るのでしょう?
スペインは銀行救済を欧州連合(EU)に頼み込んだばかりです。とても、銀行が旅費と試合チケット代を貸してくれるとは思えません。スペインテレビ局も現地(ポーランドとウクライナ)から試合中継をしていますが、不思議に思ったのでスペイン人応援グループにマイクを向けました。コツコツとこのために貯めたのさ、と皆答えていますが、仕事も休んで大丈夫なのか?僕なんて、貯金を叩いちゃってヤバイよ、これからスペインはもっと厳しくなるのに、と試合を見るたびに心配です。
そうそう、話はガリシアの葬儀屋さんでした。まずはガリシアがスペインのどこにあるのかを見てみましょう。イベリア半島の左上、ポルトガルの上にあるのがガリシア自治州(Galicia)です。今はスペイン王国の州の一つですが祖先はケルト人です。だからガリシア語を話し、独自の文化を繼承しています。大西洋とカンタブリア海(Mar Cantabrico)に面して、雨が無茶苦茶多いです。だから緑あふれる山が海岸まで続き、平地が少ない土地です。
マドリードに住んでいる日本人はカラカラになっているので、ガリシアへ行くと体が郷愁を感じるのではないでしょうか、安らぎます。ぬるいけど温泉もあります。湯けむりは立ちませんので、まぁ、サナトリウム(療養所)の感じです。雨の少ないマドリードとは対照的な風土がガリシアです。ガリシア人をガジェゴ(gallego)と呼びますが、男が海へ漁に出ている間は女(ガジェガ/gallega)は缶詰工場で働くか、浜でベルベレチョ(berberecho/ザルガイ(小粒のアサリのような貝))を採ります。
そんなガジェゴスが採った海の幸があふれているので、スペインで海産物料理と言ったら、このガリシア料理です。リアス式海岸なので、貝の種類が豊富で、カキやムール貝の養殖も盛んです。天然ものではホタテ貝やペルセベス(percebes)が珍重されています。ペルセベスは象の足みたいなカタチの貝ですが、エボシガイのように岩にへばりついています。荒波にさらわれそうになりながら採るので命がけです。タコやエビも豊富です。スライスした茹でジャガイモの上に、タコの足をハサミで切って載せたのがプルポ・ア・フェイラ(Pulpo a Feira)です。オリーブオイルとパプリカをかけますが、余りにも美味しいのでこれだけを食べにガリシアへ行くスペイン人も多いです。もちろんマドリードにも沢山のガリシアレストランがあります。
移民をするのも多いのがガリシア人でアルゼンチンには大規模のガリシア人会があります。日本で知られているサラ(Zara/ザラ)もガリシアのアパレルメーカーです。サラを興したオルテガ氏はイケアの創立者を抜いてヨーロッパ一の金持ちになりました。世界でも4位です。サラが成功したカギの一つがガリシア女の手です。男が漁に出ている間の家事は手抜きが出来るので女手はあまっています。ともかくガリシア女は働き者で知られています。世界ブランドとなったサラは中国やモロッコでも製造を始めていますが、本拠地は変わらないので雇用は続き、お金はガリシアに落ちます。
サラのオルテガ氏やラホイ現首相が今のガリシア人なら、ひと昔は独裁者フランコでした。スペインにはアンダルシア人、カタルーニャ人、バスク人など色々と居ますが、ガリシア人は黙々と働いてコツコツと小銭を貯める人たち、とイメージされています。オルテガ氏もそのタイプで、派手なイメージはありません。野菜も庭で育つものは作って、ちょっと野原があれば牛も飼ってしまいます。家庭の自給自足度は高いです。
だから魚料理にピッタリのサッパリ白ワイン・リベイロ(Ribeiro)やブドウの香りがあふれるアルバリーニョ(Albariño)が生まれました。この地ワインをチビリチビリやりなからタコの足をかじっていると、スペインの財政危機なんてどうにかなるよ、ってな気分になります。サンティアゴの路(Camino de Santiago)で知られているサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)があるのもガリシアです。
前置きがかなり長くなりましたが、スペイン国内でもひと味違った土地なのです。代々漁師の家庭が多く海で死ぬ者も多かった土地柄からか、葬式にも独自の風習とこだわりを持っています。日本人が「送り人」のようにこだわりを持つのと同じです。スペインでは火葬は一般的ではないので、埋葬の前に亡くなった人と家族は一晩過ごします。お通夜みたいなものですが、それを葬儀場/斎場(Tanatorio/タナトリオ)でします。
ガリシア人は自分の村で葬儀をするのが習わしなので、どんなに小さい村でもホトケさんは自分の村の斎場で一晩過ごします。隣り村の斎場では沽券に関わるのです。だから地方選挙で、ある村の村長に当選したかったら、村に斎場を造ると約束すれば村民の票は集まります。ガリシア自治州には315の市町村がありますが、風習と票集めの結果で斎場は350もあります。人口数と斎場の数の比率はスペイン一、いや世界一でしょう。
そんなガリシア州のオウレンセ県(Ourense)には15キロメートルの円内に9もの斎場が集まっている土地があります。ひと村一斎場ではなく、ちょっと大きな村には3つもあるのです。ちょっと大きな村、と言っても村民4千人足らずです。こんな調子で、年に4人しかホトケさんが出ない村や村民60人!の村にも立派な斎場が建ってしまいました。
火葬設備が無いとはいえ、斎場を一つ建てるのに大体50万ユーロ前後(大雑把に5千万円)かかります。借金を抱えた中央政府(ラホイ首相は同郷ガジェゴ)は地方財政の緊縮をしています。葬式業務は村民に任せますが、全額にせよ一部にせよ斎場建設には税金が使われます。ガリシア人は葬式費用をケチりませんが、葬儀場の使用料は500ユーロ(5万円くらい)が相場なので採算が取れません。
確かに、景気とは関係なく人は亡くなりますが、このまま増え続けたら「斎場倒れ」になりかねない、と業界は対策を考え始めました。そこで現れたのが、移動式斎場です。ホトケさんの安置室や親族が集まるサロン、トイレも全てエアコン完備で、家の玄関先で葬儀が出来ます。足腰が弱った老人からは喜ばれていますが、若者には不評です。身内、親戚、知人、友達が集まる葬式は、若者にはやっぱりバルの付いた斎場でないと物足りないのです。出来れば、ガリシア名物のタコのタパスもでるバルもあれば大喜びでしょう。
さて、月曜日はスペインークロアチア戦ですが、八百長試合になるでしょうか?ブロックごとの最終試合になるので、一応、八百長をさせにくくするために2試合は同時間に開始です。僕がスペイン選手で、クロアチアから一人1千万円あげるからさぁ、と持ち込まれたら八百長しますね。スペインはブロックのトップで、どう見てもクロアチアに負けるとは思えない。2-2の引き分けでもブロックNo.1を維持してベストエイト戦に進めて1千万円がフトコロに入るなら、こんなうまい話はないです。
でもスペイン人って結構誇り高いし、この手のことには正直ものが多いので本気で試合をするでしょう。正直に戦っても結果が2-2の引き分けになったら、イタリアは一生スペインを疑いますね。ここはやっぱり、スペインがクロアチアに勝つしかないです。負けたら困るし、1-1の引き分けじゃ、イタリアーアイルランド戦の勝敗結果次第で敗退です。変なプレッシャーがかかってしまったスペインチームです。