マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

雷雨のスペイン:野心家ペドロ・サンチェスと人種差別のキム・トラ

2018-06-11 13:00:00 | スペイン日記

ラホイ前首相

 

 

 たった3日間でスペインの政権が交替をしました。右派の国民党政府から左派の社会労働党政府に替わりました。6年半かけてスペイン経済を立て直した国民党(ペーペー/ PP)のラホイ首相(Rajoy)に社会労働党(ペーセオ/ PSOE)のペドロ・サンチェス書記長(Pedro Sánchez)が内閣不信任案を国会に出したので、ラホイ首相は「はい、そうですか」と辞めました。と書いても不思議でない、あれよあれよ、という展開でした。その裏には計り知れない政党間の駆け引きがあったのでしょうが、表面しかわからない我々庶民にはそう映りました。


 不信任案が出された原因は国民党の汚職事件です。「グルテル事件(caso Gürtel)」と呼ばれる汚職事件の判決が先月5月に出て、有罪でした。この時とばかりに社会労働党が内閣不信任案を出した訳です。不信任案が国会で可決されたのはバスク民族党(PNV/スペイン北東)の寝返りが決め手でした。その前に国民党の2018年国家予算案の下院の通過を助けたのがバスク民族党で、その見返りに特別予算(バスク新幹線の開通資金)を得ました。ラホイ首相が「わが同志バスク民族党、有り難う」と喜んだ、その一週間後に国民党を裏切って社会党の出した不信任案に賛成票を入れました。国会はタヌキとキツネの化かし合い、とよく言われますがその通りでした。社会労働党も似たような事件で訴訟をおこされています。その判決(有罪は確実)が出た時には反撃を食らうでしょう。


 歴史を積んでいる政党は傷を抱えています。うちはクリーンだ、と威張れるのは(今のところは・・)、スペインではシウダダノス党(Ciudadanos)やポデモス党(Podemos)などの歴史の浅い政党です。全国規模では少数派ですが、あまたある民族党も傷を抱えています。今回も「棚から牡丹餅」で政権を取った社会労働党ですが、前回もそうでした。スペイン経済を強くした国民党のアスナル首相の続投は確実視されていたのが2004年総選挙でした。その選挙運動期間中に起きたイスラム原理主義派の「マドリード爆破テロ」にショックを受けた国民は国民党をひっくり返してしまいました(イラク戦争に参戦をしたアスナルへの報復テロでした)。社会労働党のサパテロ書記長が首相になりましたが“棚ぼた”ではまだ用意ができていませんでした。サパテロ政権は迷路を歩み、住宅バブルを生んでスペイン経済はクラッシュしました。史上最大の出業者が出て、国民党のラホイ政府になりました。

 今回はテロではありませんが、自分の政策失敗ではなく党の失態で失脚をしたのがラホイ首相です。彼はガジェゴ(Gallego/ガリシア人/スペイン北西)ですがその血のせいか、仕事には熱心ですが口下手です。演説では、ステーキを噛みながらしゃべるな、とからかわれていました。不得意な演説は下書きを読んでいました。ラホイ首相はスペイン経済立て直しでは合格点ですが、政治一般では及第点にすれすれでした。その経済一辺倒政策のすきを突いたのがカタルーニャ民族党による独立運動でした。

サンチェス首相の新内閣

 さてペドロ・サンチェス新首相ですが、彼は社会労働党の歴代首相のように演説が上手です。それにグアポ(guapo/色男)です。社会労働党は党員の半数以上が女性なので、書記長はある程度の男前ではないとなれません。政治的能力よりも見た目です。先のサパテロ首相にも女性ファンが多く、内閣の半数以上が女性大臣でした。彼女らは就任早々シャネルやルイヴィトンのドレスをまとってボーグの表紙を飾りました。税金を派手に使い国庫は空にしたサパテロにつられた国民も、バブルで踊りまくり貯金を空にしました。ド~ンと借金が残りました。先に書いたように、これではいけない、と質素をモットーとする国民党に替わった訳です。この50年近くのスペイン生活で社会党では必ずインフレになるのを学びました。僕はその対策の一つとしてワインの買い込みを始めました(笑)。

キム・トラ・カタルーニャ州首長

 さて、もう一人の“時の人”はキム・トラ(Quim Torra)です。カタラン人(catalán /カタルーニャ人)以外は劣った民族だ、とナチのような人種差別をするのがキム・トラで、彼がカタルーニャ州首長になりました。絵にかいたような極右翼です。カタルーニャ州が独立したらスペイン人も含めた外国人を追放するつもりです。「スペイン中央政府からいじめられているカタルーニャ州」を演じていたのがカタルーニャ独立派で占められたカタルーニャ州議会です。でも、挑発に乗らず正攻法で攻めてくる中央政府に苛立ってとうとう本性をあらわしました。ヨーロッパ連合レベルでみると、極右翼のカタルーニャ州独立問題に油を注ぐのがベルギーの右翼やドイツの旧ナチです。


 やっと組閣にこぎつけたイタリア新政府ですが、力を持つのは右翼です。まるでガラスの皿に入った小さなヒビが拡がるみたいです。それは欧州議会の非効率に嫌気がさした「イギリスの脱会」のように、いずれかヨーロッパ連合の分解危機を生みます。それでなくてもスペイン、イタリア、ギリシャの地中海国とドイツやオランダの北の国とでは「共同体」の認識に温度差があるので、イギリス抜きのヨーロッパ連合の世界的イメージは旧ドイツ帝国になりかねません。


雷雨の菜の花の野原

 再びスペインのことですが、社会党に国会を乗っ取られてまだ一週間もたちませんが、国民党の反撃が始まりました。下院を可決した自らの予算案を上院(過半数以上が国民党)で否決にして再び下院へ戻すつもりです。そこでバスク民族党へ与えた特別予算を切り取ります。復讐です。スペイン男の恨みは女性の恨みよりも怖いです。正直、6月は、このブログのタイトルのように毎日が雷雨で、気温が下がります。「540日(610日のこと)まで衣替えはするな」はスペインの諺ですが、国会は衣替えをしてしまいました。

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