マドリーの恋人

ヤマダトミオ。 画家。 在スペイン52年。

コンドームよ、お前もか・・・

2015-02-10 14:00:00 | スペイン日記

スーパーに入るための行列

 日本では消費者の多くが「中国食品が安心して食べられる代物なのか?」と疑っていると聞きます。原因は数年前の中国ギョーザ事件、防腐剤漬けのシイタケ、地下水に浮かんだ油の再利用、最近はマクドナルド事件など、わざわざここで事件の列挙には及びませんね。

 マドリードに住んでいる僕も中国食料品店で買い物をしますが、さすが冷凍食品や加工食品は買いません。スペインで栽培している中国野菜や日本メーカーがヨーロッパで製造している醤油とかを買います。ところで、中国製の日用品や雑貨などはどうなのでしょうか?ここスペインではクリスマス前になると、中国製おもちゃがドッと入ってきますが、ドッと処分されます。ニセモノ問題よりも、ヨーロッパ安全基準に合格しない粗悪おもちゃが多すぎるのです。

 マドリード州の南には、南ヨーロッパ最大の中国商品問屋が並ぶ倉庫街があります。そこが北アフリカや地中海の国々に卸すメイド・イン・チャイナの基地です。昨年末には、北京―マドリードの貨物輸送鉄道ルートが開通したので、100均商品がドンドン入ってきます。マドリード市内にも「全て1ユーロ」と呼ぶ中国人経営の100均ショップがワンサカとあります。

 スペインからはワイン、生ハムもドンドンあっちへ送られるので、近いうちにイベリコ豚の生ハムも北京経由で東京のスペインレストランへ届くでしょう。何しろ、全貨車が冷温か冷凍貨車です。心配なのは、スペイン名物の子豚の丸焼きが北京ダックにすり替わって東京へ届くようなことです。中身は違うけど、両方とも皮のパリパリ感は似ています。何事が起こっても、全てが起こりえるのが中国、と納得してしまいます。

 おっと、コンドームの話でした。南米ベネズエラでの中国製コンドームの話なのですが、その前にベネズエラの生活情況をちょっと説明します。キューバに習った「カストロ製」マルクス主義になってからのベネズエラは慢性的生活品不足が、この十数年間続いています。なので、ベネズエラは「行列の国」と呼ばれていて、スーパーや薬局で買い物をするのには、まず行列です。主婦だけではなく旦那も娘も息子も何時間も並んで待ちます。2時間や3時間待つのはざらで、やっと入れても棚はほとんどが空です。

 庶民の一日は必要用品を探してのスーパーのはしごで終わるようです。ミルクや卵や小麦粉などからトイレットペーパーやシャンプーまで、生活必需品は一人が買える量が決められているのにいつも棚は空です。政府も買い占め防止にレジの横での指紋取りを義務付けています。でも何故か、◯◯スーパーに荷が入る、と言う情報はトラックが倉庫を出る前に流れ、朝の6時にはそのスーパーに行列ができているそうです。何でもいつでもいくらでも買えるスペインや日本では考えられないです。

 妊婦や出産したてのママさんは、ベビー用おむつを求めて薬局を何軒も回るのは当たり前です。ネット時代なので、△薬局におむつがあった、とあるママさんがフェイスブックに載せると、ドッと行列になります。サイズは合わなくても、兎も角おむつは買っておくそうです。あとでネットで交換するようですが、自分の赤ちゃんのサイズのおむつを手に入れるのは一苦労です。なので、マドリードへ来たベネズエラ人は食料品や生活品で詰まったスーツケースを二つも三つも担いで帰へります。

 運び屋みたいですが、そのベネズエラの首都・カラカスの薬局で今、極端に不足しているのがコンドームと避妊薬です。仕方がないのでベネズエラの男どもは腟外射精を女房や恋人から強いられて、セックス・ストレスになっています。南米第三位のエイズ国・ベネズエラとしてはコンドーム不足は国の衛生問題です。それでなくても、南米ではブラジルと未成年者の妊娠数でトップ争いしている国ですからコンドーム不足は笑い事ではありません。

1ボリィバルコイン

 品不足の今、コンドーム一箱(36個入り)はほぼ5000ボリィバレス(ベネズエラ通貨)まで値上がりました。それは低収入層のベネズエラ人のひと月分の給料で、法外な値段です。産油国・ベネズエラですが、昨今の価格下落は石油の儲けで成り立っているベネズエラ経済を直撃しました。ベネズエラは世界一のインフレ国で、通貨ボリィバルは日毎に下がっています。どこまで下がるのか分からないので、輸入品は価格が決められず、輸出する方としては為替が安定するまで輸出は控えます。それが品不足の悪循環を産みます。

 ベネズエラでもコンドームを製造してますが、国民がその自国製の品質を全く信用しないので売れません。頼みは中国ですが、中国製のコンドームも全く信用がありません。ベネズエラ人が中国製コンドームを信用しないのは次のような事件があったからです。

 昨年お隣のキューバが中国からコンドームを輸入しました(きっと政府支給でしょうね)。キューバ向けにスペイン語で「モメント」と名付けられた中国製でした。モメント(momento)とは一瞬、好機の意味で、ネーミングとしてはハズレていません。ところが全製品が使用期限切れだったのです。中国のやることは日本向け賞味期限切れ食品だけではなく、世界中相手に同じようなことをしているのです。

 以前も似たような出来事がありました。百万個のコンドームを輸入しましたが、今度は小学校で百万個の風船になりました。日本でもニュースになったかも知れませんが、笑い話ではありません。コンドームのサイズが短くて役立たずに終わったのです。中国人のペニスよりも中南米人、とりわけ、キューバ人やベネズエラ人のカリブ海の男のペニスは長いのです。これが欧米の民間のコンドームメーカーならちゃんと売る市場のサイズを調べて製造販売をすると思います。共産主義者には頭からサービス精神は無いのでゴムであれさえすれば、後はペニスをコンドームのサイズに合わせろ、です。

 だからベネズエラ人も欧米のメーカー品しか買わないのです。なので、一月分の給料の値段になってしまいました。これでは、16世紀のスペイン人のように干した羊の腸をコンドームとして使う方がましです。キューバがアメリカ合衆国と国交を再開するので、カストロ(弟)に頼んで米国製コンドームをベネズエラに横流しして貰って急場をしのぐしかないですね。ベネズエラは石油があるので、まだしばらくは共産党独裁体制でいくでしょう。

 意外とコンドーム不足が深刻化して暴動が勃発、マドゥロ大統領は失脚! なんては、まぁ、ありえませんね。国それぞれ、違ったウィークポイントを持っているものです。ちなみに、日本のウィークポイントは働き過ぎでしょう。そうそう、日本では「アメリカ」と言えば米国のことですが、スペインで「アメリカ」は中南米を指すので、米国を「エスタドス・ウニドス(Estados Unidos)/合衆国」と呼びます。

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「チクタクとその時はやって来る」

2015-02-05 11:30:00 | スペイン日記

ギリシャ文明の誇り

 まわりのスペイン人のように宿酔いで新年を迎えたと思ったら、もう2月です。瞬く間に過ぎ去ったひと月ですが、イスラム国過激派の虐殺テロや日本人人質の殺害、ギリシャ選挙、スペイン軍基地でのNATO軍の戦闘機事故などなど、世界事件には新春も夏休みもないです。事件の政治がらみや社会問題の深い歴史などは専門家に任せるとして、異邦人の僕は思ったのですが、フランス人には旧植民地であったアラブ諸国の人々をおちょくる傾向があるのではないでしょうか?

 スペイン人も中南米人をからかうところがあります。歴史的に身についてしまった癖みたいなもので、西洋人には別に悪気はないのです。パリでのイスラム過激派による「シャルリ・エブド」の襲撃は「風刺には風刺で返せ」のフランス人には表現の自由の剥奪行為でした。それに同調したスペインのメディアも色鉛筆を高く上げて黙祷しました。確かに殺すことはなかったです。

 庶民派パパを自認するフランシスコ・ローマ法王の「“お前の母ちゃんでべそ”と言われたらそいつをぶん殴るでしょう」は彼らしい発言ですが、一理あります。言論の自由、表現の自由はありますが、節度も必要です。スペイン語のレスペト(respeto)やモデラシオン(moderación)がその節度に当たる言葉と思いますが、センティド・コムン(sentido común)と呼ばれる常識もメディアに関わる人には国際的レベルの常識が必要です。

 昨年の事故でしたが、墜落したマレーシアのエアーアジア機が発見された現場の海上には死体も浮上しました。同機にはインドネシア人乗客も多かったので、TVニュースでそれを見たインドネシア人家族は「遺体の写真はやめて下さい、宗教的に苦痛です」と訴えました。マレーシアのメディアはそれに応じて遺体の画像はカットしました。

 マレーシアやインドネシアのように背中合わせの隣同士でも感覚に微妙な違いはあるのです。世界に人種は色々で、それぞれの文化があり宗教があり、習慣も考えも違います。国際的レベルでの民族的常識が必要で、21世紀はネット上の誹謗も中傷も犯罪となる時代です。

 フランスほどではありませんがスペインにもイスラム教徒、アラブ人は多いです。モロッコ人はあっちこっちで見かけるし、マドリードにはヨーロッパ最大のモスクが20年くらい前にできました。本場の味のアラブ料理のレストランもあるそうで、宗教よりも食い気の僕にはそっちに興味があります。元来イスラム教は平和主義で、キリスト教と違って他の宗教を排除しません。だからここに住んでいるモロッコ人達は穏やかなイスラム教徒に見えますが、彼ら/彼女らがある日突然テロリストになるかどうかは誰にも分かないでしょう。

 スペインもモロッコのジブラルタル海峡側にはセウタ(Ceuta)とメリージャ(Melilla)のスペイン領都市を持っています。そこを狙ってカメルーン人やセネガル人などの中央アフリカ人達が200人単位で不法入国をするので、黒人のイスラム教徒も増えています。数年前にはマドリードで列車爆発テロがあったように、政治が絡んでくると何が起るか分かりません。

 心配なのは自称「イスラム国」の挑発に乗った欧州極右翼政党がイスラム人をヨーロッパから追放することで、それをしたら彼らの思う壺です。憎悪と憎悪がぶつかり合うようになれば、イスラム過激派は西洋社会とイスラム社会の戦争をジハードと認めます。イスラム教の教えに「迫害を受けたら抗戦を許す」とあります。

ツィプラス(左)の選挙応援に駆けつけたイグレシアス(右)

 話は変わりますが、「イスラム国」の話よりはましだと思います。スペインもヨーロッパのユーロ圏諸国と同じようにギリシャの借金踏み倒しに怯えています。一月の総選挙ではギリシャ急進左派連合・シリザ(SYRIZA)を率いるツィプラス首相(Tsipras)が政権を勝ち取りました。

 スペインの新興左派政党・ポデモス(PODEMOS)のイグレシアス党首(Iglesias)とツィプラスはイグレシアスが選挙応援にアテネへ行った程の仲良しです。今年の末はスペイン総選挙ですが、このところ急速に支持率を上げているのが、そのポデモス党です(投票率、たったの43%だった欧州議会の総選挙2014)。アンケート調査の予想では同じ左派の社会労働党(PSOE)を追い抜いたポデモス党と与党・国民党(PP・右派)との互角の選挙戦になりそうです。

 イグレシアスがスペイン首相になったら、彼も反緊縮なのでギリシャの借金を帳消しにするでしょう。左派のツィプラス首相が右派の独立ギリシャ党のカメノス党首(Kammenos)と肩を組んだのにはビックリしましたが両派とも反緊縮で一致しました。通常の国政よりもトロイカが押し付けた緊縮策の見直しを最優先するつもりです。トロイカとは借金漬けのギリシャを救済したEUユーロ圏グループ(EU委員会グループ)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の三銃士です。

 40兆円とも言われる救済資金の6割(ざっと24兆円)は13国のユーログループが捻出しました。ドイツ、フランス、イタリア、スペインの4国で全体の8割をカバーしています。ツィプラス内閣の新財務大臣バルファキス(Varoufakis)はトロイカとは借金交渉をしないで、個別に交渉を始めました。返済期間の引き伸ばし(と言うよりは払えるようになったら払う)と利子の引き下げと言うギリシャの手前勝手な要求が受け入れられれば債務減免もユーロ圏からの脱退もないようです。

 ヨーロッパ民族のよしみにギリシャ人は甘ったれています。確かにギリシャの財政再建に年金減額、増税、公務員リストラを国民に強いました。その結果貧困したギリシャ社会には生活困窮者が増え、明日に夢を持てない毎日に地中海民族は人間的に荒廃してしまいました。彼らと同じになったスペインの困窮者層に訴えかけているのがポデモス党なのです。スペインは銀行救済のみで財政救済までは至らなかったが、ラホイ内閣(国民党)の財政再建の3年間は僕も増税に喘ぎました。そのためにワインのランクを下げました。トホホホ~ですが、ベネズエラのようになるよりはましです(ポデモス党の資金ルーツはベネズエラ)。

 紀元前からのギリシャ文明は「働かずとも誇り高き自由 なギリシャ人」が産み、育てました。アテネの市民は貧乏人を軽蔑せず、貧乏に甘える人間を軽蔑しました。おっと、話が紀元前に飛んだけど、今は21世紀です。金融は一緒でもそれぞれの国の財政が異なる問題を先送りにしてスタートしたのが統一通貨ユーロでした。

 それでもどうにかユーロの維持をドイツ筆頭に頑張ってきた欧州諸国としては、すでに何回もギリシャの債務減免に応じてきたので「またかはないでしょう」です。太陽が輝くエーゲ海でワイン飲んでる「ギリシャ公務員の月給が30万円」と聞いて、暗い真冬にジャガイモを齧っている東欧のEU諸国の人たちが「ケッ」とつばを吐き出す気持ちが分かります。

 ギリシャ人よ、もうちょっと働いてくれ! イスラム国過激派も8世紀のサラセン帝国再建と言う、ロシアのプーチン大統領の旧ソビエト連邦再建みたいな夢は捨ててくれ! 過激派となったイラク戦争の子供達も借金漬けのギリシャ人達も、喚いて発散したら大人しくなってくれよ。それでなくても、イグレシアスはラホイ首相に「チクタクチクタクと時限爆弾が爆発するように改革の時間は迫っている」と脅しているのだから。誰か、静かな毎日を老人にください。

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