Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

『ファウスト』でウェンディ・ホワイトがタラップから落下

2011-12-17 | お知らせ・その他
追記:事故の原因はプラットフォームとの接続のための金具が、もともと不良品だったか磨耗が激しかったかで、人の通行の重みに耐え切れなくなって壊れたためだそうです。
ウェンディは病院を退院したとのことで、とりあえず大事ではなかったようで、本当に良かったです。


12/17夜の公演の『ファウスト』の公演中、ウェンディ・ホワイトがタラップから落下する事故が起こりました。
事故が起こったのは第三幕で、ファウストがマルグリートを誘惑する間に、メフィストフェレスとマルトの会話が絡む場面で、
メフィストフェレス役のパペとマルト役のウェンディ・ホワイトが舞台上手側に設定されたプラットフォームから登場するシーン。
この公演、私は平土間の最前列で鑑賞していましたが、私が自分で目・耳にした範囲では、パペがプラットフォームに姿を現そうとした時、
がらがらがっちゃーん!という、かなりの重さの金属が落下するような音がして、パペが何か手でサインしているので、
私は最初、彼が何かにつまずいたか、セットの一部を破壊したかで、”すんません!すんません!”と言おうとしているのかと思っていたのですが、
彼が後ろを振り向いて、相変わらずその場に留まったまま、激しくそのサインを続け、しまいに”We have to stop!"と指揮者に叫び始めました。
この日の指揮はネゼ・セギャンではなく、これがメト・デビューとなるアシスタント・コンダクターのヴァレで、
当然のことながら、音楽のことで頭が一杯と見え、またパペがかなり舞台の奥にいるためなかなかパペの身振りや言葉を理解できなかったようなのですが、
舞台の比較的前方にいたカウフマンがパペのただならぬ様子に気づいて演技をやめ、彼の”I'm sorry but we have to stop."の言葉にオケの音が止りました。

キャストが舞台からはけた後、ステージ・ディレクターのアシスタントと思しき女性がマイクを持って登場し、”状況が判明次第、すぐにお伝えします。”
数分後に同じ女性から、”ここで早めのインターミッションに入り、公演の再開を追って連絡します。”とのアナウンスがありました。

この間、メトのオケは舞台上のアクシデントには慣れているので、ホワイトのことを心配しつつも落ち着いたものでしたが、
一番パニックしていたのは指揮者のヴァレで、楽譜をめくりながら、”この事態をどうやってまとめたら、、。”とボー然としている様子に、
額に脂汗を見たのは私の気のせいではないでしょう。
しかし、メトにはいたるところにきちんとプロが配置されていますから、
あっという間に、”再開時はこの場のこの章節から。”という指示がすぐに指揮者の手元に回ってきたようで、
”スタートする時は○○章節からお願いしま~す”とピットから出て行くオケのメンバーに叫びながら、心底ほっとしている様子でした。
それにしてもメト・デビューの公演でこのアクシデント、、、彼も本当に気の毒でした。

インターミッションに入るということは代役を立てなければならないということで、ホワイトが全く心配のない無傷ということは考えられず、
インターミッション中は”彼女、大丈夫だといいですね。”という声があちこちから聞かれました。
ホワイトはこれまでメトでたくさんの公演にサポーティング・ロールで出演しており、ほとんどメトのハウス・シンガーと化していますが、
どんな役にでも一生懸命取り組み、いつもきちんとした結果を出す彼女(これとかあれとか、、)は、私の大好きなハウス・シンガーの一人ですが、
同じ思いのヘッズはたくさんいると思います。

また同時に、”こんな階段を頻繁に上がったり下がったりするような余計な負担を歌手にかける演出が本当に必要なのか?”とか、
”リングでもまたとんでもないことが起こるのではないか?”という最近の演出への疑念の声も激しく聞かれました。
それを言えば、こんな事故が起こっているというのに、ゲルブ氏は全く表に出てきませんでしたが、彼は一体公演中どこをほっつき歩いているんでしょうか?
ステージ上での事故はステージ・マネージャーの仕事の範疇なんてことを言っている人もいますが、それは程度の問題であって、
公演が半時間以上も遅れる大きな事故になっているのに、オーディエンスの前に全く姿を見せない支配人というのは一体どうなのか?と私は思います。
それからついでに言わせてもらえば、ただでさえ過密なメトのスケジュールで、今のペースでの新演出の上演は、大道具の人数を倍にしない限り私は無理だと思います。
他の小さな箱とは舞台のサイズもモビリティも全然違うんですから、同じペース/バリエーションで上演する必要は全くないんです。
支配人にはオーディエンスに有意義な鑑賞体験をしてもらうという大きな任務がありますが、
そういった大切な役割は、まず第一に、演奏するアーティスト、関わっているスタッフの命や健康を守ることを大前提としているはずです。
今のような、アーティストやスタッフが安心して上演に関われないような状況を作っているのは支配人として失格だと私は思います。

公演再開後のメトのアナウンス(やそれに基づいて出されているAPなどの報道)によると8フィートの高さからのshort fall(短い距離の転落)で、
大事をとって救急車でERに運ばれたものの、ホワイトの怪我は深刻ではない、となっていますが、
実際は20フィート以上高さのあるタラップから8フィート落下した、という方が正しい、
(プラットフォームの高さから言って、タラップ自体が8フィートの高さってことはないと思います。)という指摘もあり、
とにかく本当に彼女の傷が大したものや後遺症が残るものでなく、一日も早くメトの舞台に復帰してくれることを願っています。

代役を務めたのはテオドラ・ハンズローで、ものすごい勢いで準備をしたのでしょう、メークも衣装もにわか作りな感じはありましたが、
事故の内容が内容だけに、落ち着かない気持ちに違いないのを、良く努めてくれたと思います。
件のタラップはおそらく事故後使用不可能になったと思われ、再開した後は同じ場面でパペとハンズローがプラットフォーム上ではなく地上の舞台裾から現れたり、
カウフマンとポプラフスカヤも、奥のタラップに消えて行く代わりに舞台手前に歩いて来てそこからはけるなど、いくつかの調整が見られました。
いや、おそらく、タラップが使用不可能になっていなくても、このセットはキャストの間でそもそも大・大不評だっただけに、
それ見たことか!ここからはこちらの好きにやらせてもらう!と、全員が地上でのみの演技になっていても何の不思議もなかったと思います。

公演そのものの感想はまた日をあらためて。

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6 コメント

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Unknown (チャッピー)
2011-12-19 20:30:36
>”リングでもまたとんでもないことが起こるのではないか?”
見出しを読んで私も同じこと思いました。
今回のようにスリムな歌手が多くても、みんな歌いにくそうなのに、ボータ系歌手じゃあのセット無理じゃん。それとも象系歌手排除のために作ったのか?

ウェンディ姐さん、本当に良い人で、出待ちの常連たちとはいつも長話してます。
とりあえず大したことは無くて良かったです。
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アラーニャのファウスト (NAOatNYC)
2011-12-24 15:04:53
まさかホワイト女史がそんな事になっていたとはつゆ知らず、METのファウストといえば本来アラーニャだったという事もあり、見て参りました。
何とその日有名になったかどうかはさだかではないですが、若い女性が袖から出て来てアナウンスを始めました!しかも休憩開けではなくこれまた4幕と5幕の暗転間に!
「アラーニャ調子わるいですが歌います」だとの事。
どうせ彼の事です。階段の上り下りが待っている5幕、タブルを用意させましたよ。
パペさまは1回目は御自身で上がられましたが2回目はこれまたダブル登場。
この演目は一体どうなるんでしょうかね。
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チャッピーさん (Madokakip)
2012-01-04 15:04:18
>象系歌手排除のために作ったのか?
>ボータ系歌手じゃあのセット無理じゃん

新リングでボータ系歌手のための枠は一つだけですね。
フリッカ(ブライスが演じた役)、彼女が座る椅子だけはでかく出来てますので、どなたでもどうぞ!

結局ウェンディ姐さんはまだ舞台に戻って来てないんですよね。
テオドラさんには申し訳ないですけれど、ウェンディ姐さんとでは、脇役としての上手さ・力に差がありすぎです、、。
ウェンディ姐さんが演じていた時にすごく面白かったシーンがことごとくその良さを失ってしまいました。
Kinoxさんのコメントにも書いた通り、12/20の公演、すごく良かったんですが、ウェンディ姐さんが登場していたら、もっと良かっただろうに、、と、それだけが残念です、、。
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NAOatNYCさん (Madokakip)
2012-01-04 15:09:25
ご覧になったのは12/23の公演ですね、きっと、、。

>4幕と5幕の暗転間に

って、あそこは最もドラマのテンションがあがりまくるところではないですか!
それをわざわざぶち壊すようなアナウンスを入れるなんて、
相変わらず何を考えとんのじゃ、アラーニャは!ですね。
仮に本当に調子が悪かったとしても、今更そんなところでアナウンスを入れてどうなるものでもあるまいし、、。
28日の公演をラジオで聴きましたが、まだ調子が悪かったのでしょうか、、
満足出来る歌唱ではなかったです。
23日の日には確か最初の幕で側転を披露してたそうですが(ROHの公演の時もやってましたよね、確か、、)、
歌が伴わない側転なんて、メトはサーカス小屋じゃなくてオペラハウスなんだぞ!と言いたくなるってもんです。
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とうとう裁判沙汰になるの? (Kinox)
2012-10-09 09:12:10
こんな記事を読んでしまって、やり切れずにポストしてしまいました。
お客さんにいいものを見せようとして多少無理してでも最近の演劇畑出身の演出家の妙な舞台装置に付き合ってる歌手たち、彼らにもし何かが起こったとしてもゲルブ・メトはこうなの? ウェンディ・ホワイトはここに到るまで随分我慢したんでしょう。こういう形に表に出てきたのなら、あの日がメトでの最後の舞台になるかもしれないとの覚悟も? やるせないです。

http://www.nytimes.com/2012/10/02/arts/music/wendy-white-says-met-refuses-to-pay-her-after-injury.html?partner=rss&emc=rss
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Kinoxさん (Madokakip)
2012-10-11 14:28:35
はい、もうこれは本当にひどい話です、、。
メトのスタッフの方も悲しみ&怒りでエモーショナルになっている人が多いと聞きます。
ウェンディ・ホワイトはコンプリマリオ・ロールで本当に長い間メトを支えて来た人ですから、
嵐のようにやって来ては歌ってすぐまた別の劇場に去ってしまうスター歌手に対してよりも、
ずっと強い身内のような思い入れがありますからね。
大体、メトで仕事している時に怪我をしたわけで、そんなの言われなくても出来るだけの金銭的援助をするのは当たり前のことだと思うんですけどね。
しかも、彼女はこの機会にメトから金をむしりとってやろう、と思っているわけでは全くなく、
すでに契約済みのコントラクト分だけは買い取って欲しい、という、すごくリーズナブルな言い分ですよね。
本当、『ワーグナーの夢』を見た時に、ゲルブ支配人はメトのスタッフや歌手への思いやりのない最低男!と確信しましたけど、
私なら、仮に(本当に仮に、ですよ)ウェンディの事故に個人的なシンパシーを感じ得なかったとしても、
あくまでビジネスマン/マネージャー的観点から、ここで金を払わないということは、
“私はスタッフや歌手のことを大事に思ってませんよ。”というメッセージをみんなに出すことであり、
それがどれ位彼らの士気とか気持ちを揺るがすかを考えたら、絶対にそんな金額位捻出しますけどね。
リングの装置に数十億使いこんどいて、メトのために怪我をした歌手にびた一文払わない?
それ、ないでしょ。
だから、彼は人間としてもメトのような組織を運営するマネージャー、一ビジネスマンとしても最低最悪です。
最近、メトには何となく気のない演奏が増えてますけど、それは音楽監督の不在だけではなくて、
支配人のこういう姿勢が反映されているんだと思います。
ネトレプコとか一部のスターのけつだけ追い回して、スタッフや他の歌手のことはごみ扱い?
そんなことしてるから、劇場全体のモチベーションが下がるんですよ。
ボードのメンバーもHDが成功したくらいで浮かれてゲルブ礼賛してる場合じゃないですよ、本当に。
裁判して、ぜひ、ウェンディさんに勝って頂きたいです。

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