Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

THE SINGERS’ STUDIO: ANNA NETREBKO

2010-10-12 | メト レクチャー・シリーズ
今日のシンガーズ・スタジオのゲストは、『ドン・パスクワーレ』の公演に向けてすでにNY入りしているアンナ・ネトレプコ。
彼女が華奢で可愛らしかったのはそんなに昔のことではないのに、
ブルーのブラウスに、ベージュのロング・カーデをはおって現れた彼女はもはやロシアのおばちゃんのような風格をたたえています。

今日のインタビュアーは、再びオペラ・ニュースの鉄仮面編集長ドリスコル氏。
オペラ・ニュースの最新号(11月号)にも、彼女のインタビュー記事がフィーチャーされていて、
今回の内容と重複する部分もあるのですが、
それ以外にも、非常に興味深い内容が多く、彼女というアーティストを知るのにとても有益なことが含まれていますので、
いつも通り、思い出せる内容をすべて意訳でご紹介したいと思います。
しばしば誤解されやすいところもある、彼女の人となりが伝われば幸いです。
彼女をAN、鉄仮面編集長をFPDと表記します。

FPD: もうすぐメトで『ドン・パスクワーレ』のノリーナを歌われますね。
AN:  ええ、マノンとかヴィオレッタのような死ななくてよい役なのでハッピーよ。
私はコメディーが大好きだし、なかでもこのノリーナのキャラクターが好きなので。
ベル・カントの、特に喜劇的作品は、音楽的演劇とでもいえばいいかしら?
アンサンブルが多く、一人で歌い上げる場面が少ない。でも歌っていて、すっごく楽しいわ。
また、より演技に集中する必要があって、歌詞を(音楽的な)音として発するよりも、
より言葉の意味をきちんとのせて歌うことが大事だと思う。
今回の(シェンクの)プロダクションは、ビジュアル的にもすごく綺麗ですね。
FPD: ドニゼッティとベッリーニの作品の違いについて、どう思われますか?
AN:  (鼻の付け根に皺を寄せて、”げーっ!”という表情)
FPD: (編集長特有のいつもの鉄仮面顔のまま)だから、音楽に関する質問もしますよ、と事前に申し上げたではないですか。
AN:  でも私もその場で、そういう質問、やめて下さいね、って言ったじゃないですか!(会場爆笑)
もちろん、どちらも素晴らしい音楽よ!でも、うーん、そうだな、、、ベッリーニの方が、歌声がより美しく聴こえるような気がするかな。
でも!私、聴くのは、ワーグナーの音楽が一番好きなのよ。(鉄仮面と会場、共にどよめく。) 『ローエングリン』とかね。
FPD: 話を『ドン・パスクワーレ』に戻しましょう。今回、ノリーナをどのように演じるつもりですか?
前回(2005-6年シーズンの公演で、フローレス、アライモ、クウィーチェンと共演)のあなたのノリーナは元気一杯、
フィアース(激しい)といってもよいキャラクターでしたね。
AN:  とにかく、スコアを見て、、直感に頼る!スコアにすべてが書かれているから、そこからあとは自分で色々取り出していくの。
FPD:  今までに歌った役の中で、これは自分に向いた役じゃないな、と感じたものはありますか?
AN:  特にないですね。声の変化のせいで、歌わなくなった、もしくは歌わなくなるだろうと思う役はあるけれど。
FPD: 出産を経験されてから、何か変わったことは?
AN:  声がすんごく大きくなったの!(笑)
FPD:  お子さんが生まれてすぐ?
AN:  初めて歌ったのはティアゴが生まれて数ヵ月後だったはずだけど、
何もしなくても以前の3倍くらいの声量が出るようになっていたの。
FPD:  これから数年で新しく挑戦したいレパートリーについて話していただけますか。
(少し躊躇する様子のネトレプコに)話したくないの?
AN:  (しどろもどろになりつつ)そうじゃないんだけど、、、
たぶんお考えになっているので合っていると思います。(注:『ローエングリン』のエルザのことか?)
これまで歌って来たレパートリーでまだまだ歌い続けたいと思っているのは、マスネの『マノン』ね。
『ロミオとジュリエット』(グノー)なんかもそうですが、作品が長いという意味では大変なんだけど、
私にとっては、無理をしなくても比較的楽に歌えるレパートリーがこのあたりなんです。
ただ、ジュリエットのキャラクターは段々歳をとりつつある自分にはきつくなって来ているかな、とも思うけれど。
FPD: 少しあなたの初期の経歴に目を移しましょうか。声楽の学校に行かれたのですよね?
AN:  音楽学校(musical college)に2年、コンセルヴァトワールに5年通いました。
コンセルヴァトワールでは演技はもちろん、バレエ、舞台上の動き、ファイティングの方法、
それから16世紀、18世紀等、各時代ごとの身のこなしの違い方、といったものまで勉強しました。
FPD:  当時、自分が歌手としてこれほど成功すると思っていましたか?
AN:  全然!! もちろん、そうなればいいな、とは思ってはいましたが、夢の夢だと。
FPD: 以前はモーツァルトのオペラもよく歌ってらっしゃいましたね。
AN: ええ。ただ、今は声の変化のために歌いにくくなって来たので、少しずつ減らしているところです。
FPD: 新演出ものとリバイバルの公演、どちらが好きですか?
AN: 実を言うと、新しいプロダクションで、スタッフや共演者と一緒に時間をかけて公演を作り上げていく方が、
リバイバルの演出にぽん!と入っていきなり歌うよりずっと好きなんです。
でも、子供が出来た今、2、3ヶ月の長期にわたって家を空けるのは辛い。
今はまだいいけれど、ティアゴが学校にあがる頃は、もう少しセーブしなければならなくなるかもしれないな、と思います。
FPD:  現在自宅はオーストリアでいらっしゃって、NYにもアパートメントをお持ちなんですよね。
AN:  ええ。でも、ほとんど家にいることがなくてあちこち飛び回っているような気がするわ。
ただ、ティアゴが旅行好きなのは助かっているの!
FPD: つい最近コヴェント・ガーデンと日本にツアーに出られましたよね?その時ももしかして一緒に?
AN:  ええ。日本にいる間に、ティアゴが日本語を喋り始めたわ。
FPD: ええ??まさか!?(笑)
AN:  もちろんまだ二歳だから、きちんとした意味の通る日本語を喋っているわけではないけれど、
*&^#@)^%^$(と日本語の語感を真似しながら)みたいな音をたてているのよ!
だから、”これは絶対に日本語を喋っているつもりに違いない!”って(笑)
FPD: あなたのパートナーでいらっしゃるアーウィン(・シュロット。ウルグアイ出身のバス・バリトン)の母国語はスペイン語、
あなたはロシア語、それから2人で会話される時は英語、なんですよね?
AN: そう!だから、ティアゴはかなり混乱してるわよ(笑)
FPD: あなたは最初から声楽を勉強したのですか?
AN: いえ、ピアノが最初、でも全然才能がなかった(笑)
音楽理論は右の耳から入ったと思ったら、すぐに左の耳から出て行くような状態だし、、。
オペラの公演を準備する時に、私にとって一番興味があのは物語の背景、歴史を知ることなんです。
FPD: そういえば、あなたは2011-12年シーズンの(オープニング・ナイト演目!)『アンナ・ボレーナ』に出演しますね。
そうすると、その準備も進んでますか?
AN: まだ一回もスコアを見てないわ。
(固まる編集長。)
もちろん、歴史的背景なんかは調べてますけど。
FPD: 2006年にオペラ・ニュースがあなたにインタビューを行った際、あなたはこのような趣旨のことを言っていました。
”大きな声で歌っている方が体がリラックスしている状態になるので楽なんです。
ピアノと指定されている音を歌う方がずっと難しい。”
AN: そんなことを言ってました?
多分、私が言いたかったのは、ピアノのように音の緊張度が高まる場面ではついナーヴァスになってしまう。
リラックスした方が良い音が出る、という程度のことだったんだと思います。
でも、ここ5年くらいかな?自分には経験がある、とやっと思えるようになったの。
今年のザルツブルクで(グノーの)ジュリエットを歌った時、ある日、朝起きてみたら、声が出なくなっていたことがあったの。
でも、主催者側には、どうしても出演してほしい、と言われて、
とりあえず会場に向かう車の中で、アーウィンに”どうしよう、こんなで歌えないわよね。”と囁き声で話していたくらい。
でも、これで地球が滅亡するわけでもあるまいし、今の私には経験があるんだから!
と思い切って舞台に立ってみたら、私が朝にそんな状態だったとは誰も気づかなかったわ。
FPD: 声が出なかった理由はなんだったんでしょうね。
AN: 今でもあれがなんだったのかよくわかりません。
ベッリーニの『カプレーティとモンテッキ』は本当に美しいメロディで、いつも泣いているような感じね。
でも、難しくて、、、多分、もう歌わないと思うわ。
グノーの『ロミオとジュリエット』は対照的に、とても強いキャラクターで、
私の声にも向いていて、声楽的には良いと思うのだけれど。
FPD: 特に思い入れのある役、良くレッスンで歌う役というのはありますか?
AN: ないわね。練習は10分くらいして、後は、、(ぱたん、とスコアを閉じる仕草。)あまり好きじゃないの。
(普段よりも一層鉄仮面状態、歌手としてあるまじき姿勢!とばかりに、憮然とした表情になる編集長。)
大事なのはリハーサル!!すべてはリハーサルの中にあるの。
だから、役を覚えるのは一気にやって、あとはリハーサルで細かい肉付けをしていく感じです。
私の耳は、学ぶのにはあまり向いてなくて、聴いたものをそのまま再現する力の方が強いと思うの。
役を覚えるのは本当に早いわよ。ロシアにはあまり自国のレパートリーが多くない、というのも一因かも、、。
キャリアの初期には、本当にたくさんの非ロシアもののレパートリーをすごい速さで覚えなければならなかったですから。
FPD: かつてメトで合唱のスタッフもつとめていた私の同僚が、バーデン・バーデンで
あなたが出演した、チャイコフスキーの最後のオペラ作品である『イオランタ』(注:2009年7月)を鑑賞したんですが、
私の生涯に聴いた中で、最も記憶に残るオペラの公演の一つ、と言っていました。
彼の経歴からもわかるとおり、ものすごくたくさんのオペラの公演を聴いて来た人ですし、
その彼がそのように言ったというのは、ちょっとしたことだと思います。
AN: ありがとうございます。でも、あの『イオランタ』も一週間で覚えたのよ。
FPD: 一週間?! (また、この女は、、という呆れ顔とまじ驚きと賞嘆が混じったような、
滅多に見ることが出来ない人間的な表情を浮かべる編集長。)
AN: ええ、一週間です。
FPD: 私なら一週間CDを聴き続けても、一緒に歌うことすら出来ないでしょうに、、(会場、笑いと頷き。)
ところで、『エフゲニ・オネーギン』の全幕に出演する予定があると伺いましたが?
AN: ええ、やるわよ、ここメトで!!
『オネーギン』はずっと避けていたんですけど、ピーター(・ゲルブ支配人)に説得されてしまって、、(笑)
『オネーギン』をやるなら、絶対メトでやらなきゃ!と、、。
FPD: 今までNYでは、ガラでディミトリ・ホロフストフスキーと抜粋を歌ったことがあるだけですよね?
AN: これからも、タチアナはそんなに多く歌うつもりのない役です。
タチアナ役は、テッシトゥーラがあまり高くなくて、ほとんどの音がファースト・オクターブの中にあります。
『オネーギン』の主役はオケだと私は思っていて、手紙の場なんかも、
美しい旋律を奏でているのは実はオケで、ソプラノは合いの手みたいなものですから。
FPD: ロシアのオペラで、、
AN: (と質問する編集長を遮って、冗談めかしながらも、もうロシアのオペラに関する質問はやめてほしい、という雰囲気で)
どうしてロシアのオペラの話ばっかりするの?
FPD: わかりました。じゃ、ロシア以外のオペラでは何が好きですか?
AN: ドイツもの!!!なんてね。
まじめな話、『ルル』(作曲家のベルクはオーストリアの人ですが)は大好き。
ただ、私は他の言語に比べてドイツ語の単語を覚えるのが苦手だから、そこが大問題ね。
それでなんでウィーンに住んでいるかって?だってみんなが英語を喋ってくれるんですもの。
私の英語は完璧じゃないけれど、一応生活するに苦労しない程度には話せますから、、。
もちろん、ワーグナーの作品には大きな敬意を持っています。
ワーグナーの作品に出演することになったら、準備も一週間というわけにはいかないわね(笑)。
実際、私になんとか歌えるかもしれない役は『ローエングリン』のエルザだけなんですが、
もし、歌えることになったら、ティーレマンに指揮してほしい!!
それから、めちゃくちゃ厳しいドイツ語の先生も必要だわ。
FPD: あなたはビジュアルも重視されるようになったオペラのトレンドの中で非常に有利な存在で、
あなたを羨ましく思っている同僚もたくさんいると思いますが、
ライブ・イン・HDのような試みについてどう思うかお聞かせください。
AN: HDは嫌い。(あまりにもはっきりとした一言に息を呑む編集長と会場)
だって、あまりにもストレスが大きすぎるんですもの。
HDが好き!なんて本気で思っている歌手や劇場のスタッフは一人もいないわ。
HDの舞台をつとめる歌手は一週間くらい前からみんな胃が痛くなるような緊張に悩まされているのよ。
ストレスは体に余計な緊張を生み出して、一層歌うのが難しくなるし、
舞台裏(HDの司会役の歌手のこと)や客席では他の歌手が見ている、、タフでなきゃ、とてもつとめられないわ。
FPD: そんな状態を解消するのに役立つことはなにかありますか?
AN: ないわ、何も。経験と鉄のような強い神経、それだけが味方。
FPD: 公演がない日にはどんなことをしてますか?
AN: 演奏会に顔を出すこともありますが、あとはショッピングと料理、そう、料理ね!
時間があれば料理をしてます。美術館とかにはあまり行かないわ。
え?何を料理するかって?ロシア風サラダとか、、即席で新しいメニューを作るのが好きなの。
特に家族とか親しい友人のために料理するのは、とてもリラックスできるし楽しいわ。
映画は最近はティアゴの喜ぶものばかりを観ているので、漫画オンリー!頭がどんどん悪くなってるわ!(笑)
FPD: 過去に活躍した歌手、現役の歌手を問わず、ロール・モデル、目標にしている人はいますか?
AN: ええ、それはたくさんいるわ!現役の歌手は全員よ。
現役の歌手の方たちが出演している公演を観にいくと、いつも必ず何か学ぶものがあるもの。
現役以外の人だと、カラス、テバルディ、フレーニ、スコット、、
そして、ジョーン・サザランド!!(注:この日はサザランドの訃報が出た翌日のことでした。)
あの美しい声とコンピューターのように完璧なコロラトゥーラ!
あんなことを今出来る人はいないし、これからもいないと思うわ。
FPD: 今専任のヴォーカル・コーチはいますか?
AN: 今はいません。5年前くらいまでは、とにかく、いつも、もっと勉強しなくちゃ!早く!早く!という感じだった。
やっとこの5年くらいで、自分にもそれなりの経験がついてきた、という自信のようなものが出て来たかな、、。
契約を結ぶときは、マネージャーたちとあまりに違う種類の役の間を行ったり来たりしないように注意しています。
また新しい役については、5年くらいの余裕をみるようにしています。
FPD: 今シーズン登場する、デッカーによる(メトにとっては新演出になる)『椿姫』は、
当初あなたを念頭において企画されたものでしたね。
AN: 2005年にザルツブルクでかかったものと同じ演出ですが、
あのザルツブルクの『椿姫』は私のキャリアで最も大切なパフォーマンスで、
私にとっては、あれで完結してしまったような気がするのです。
あれ以上出来ることは私にはもう何もない、、。
だから、別のソプラノの方にお願いした方がいいな、と思ったのです。
FPD: 良い健康状態と体型を保つためにしていることは?
AN: 私は食べるのも飲むのも好きだし、それをごまかすつもりもありません。
ジムに通ったり、健康的な食事を、たいていの場合は(笑)心がけています。
ただ、脅迫観念のように、”痩せなきゃ!”と自分を追い込むつもりもないの。
もちろん、ある程度、舞台上で魅力的に見えるように自分をきちんとメンテする責任は感じていますが。
FPD: 『ドン・パスクワーレ』で指揮をするのはマエストロ・レヴァインですね。
AN: 彼は非常にクリアな独自の音楽的ビジョンを持った指揮者ですね。
私たちにとって多少歌いにくい部分があったとしても、彼のテンポの設定などはすごくいいな、と思います。
結局、指揮者がボスだと私は思っていて、
時に指揮者たちが望むものが、私の望むものと違っている場合もありますけれど、仕方ありません。
FPD: 指揮者もそうかもしれませんが、演出家でも同じことが言えるかもしれませんね。
あなたの場合は素晴らしい演出家と仕事をしてきていますから、そういうことは少ないかもしれませんが、、
AN: 良い演出家、、、?んー、中にはそういう人もいたかな、、、(笑)
役作りに当たっては、自分なりに”こうしたらいいのにな、、”と思うこともあるけれど、結局、私は演出家じゃないですから。
ただ、一つ、いつも言うのは、ださい衣装は持ってこないでね!ということ。
別にきらきらと私が目立つような衣装、という意味ではなくて、何か、面白さを感じる衣装じゃないと嫌なの。
FPD: いわゆるレジーを含めた、現代的演出についてはどう思いますか?
AN: 全然OKよ。好きです。
例えば先ほど話にあがったデッカー演出の『椿姫』なんか、ミニマリスティックだけど、
ちゃんと物語の要素がパッケージされていて、素晴らしい演出だったわ。
日本にも持っていったロイヤル・オペラのペリーの『マノン』も、私にはきちんと筋が通った演出に感じられる。
ただ、当初のアイディアでは、ペリーはもっとマノンを小さなティーンエイジャーみたいな感じで描こうとしていたの。
それで、私が”それは無理だわ。”と言ったら、彼は快く調節してくれたわ。
FPD: あなたとローランド・ヴィラゾンは長い間、良きオペラの舞台上でのパートナーでした。彼とは今でも話をしますか?
AN: 彼とはコンタクトが途絶えてしまいました。
正直、私が自分で受話器をとって彼に電話をしたわけではないけれど、
私サイドのスタッフの誰が連絡をしても、彼は出て来ないんだそうです。
彼は私にとって、とてもとても特別な人でしたし、ずっと、皆さんと同様に、彼の幸せを願っています。
(この言葉の後に彼女が口をつぐんで流れた数秒の沈黙から、彼女が心からそう願っていることが伝わってくる瞬間でした。)
FPD: 公演当日に気をつけていることは?
AN: 開演までは一切お酒を飲まないこと、外出もしないこと、重いものは食べないこと、
相手役のテノールのために、にんにく厳禁!鶏肉やパスタなど、蛋白質を多く摂れる食事を心がけています。
公演のない日は朝早く起きて、息子と遊んで、ただ母親であることを楽しむようにしています。
ティアゴが生まれるまでの私は、いつも退屈してましたが、今は退屈するということだけははなくなったわ!
FPD: 先ほどボーカル・コーチはいないという話がありましたね。
AN: 自分自身に耳を傾けるようにしています。自分が舞台に立っている様子を収めたDVDは良く見ます。
良い所、悪い所、全てそこに記録されていますから。
ロシア時代のコーチには、オーケストラに流されずにどのように自分の声をきちんとのせるか、など、
今でもとても役に立っている色々なことを教えてもらいました。
CDも聴きますよ。ただ、音に関しては、自分のではなく、過去の優れた歌手のものを聴くようにしています。
あとは出来るだけ早く自分が学んでいる役で舞台に立つこと。
役を本当に自分のものにするためには、実際に舞台に立つことでしか学べないことがあります。

続いて恒例のオーディエンスからの質問タイム。
Q: 舞台で緊張はしますか?
AN: もちろん!舞台裏では猛烈に緊張しています。でも、一旦舞台に立ったら無我夢中で、あまり何も考えないですね。
Q: リサイタルやCD、DVDの発売の予定はありますか?
AN: リサイタルはあまりやらない方向に進んでいます。
というのも、色んなレパートリーからの、違った言語の曲を短時間の間に歌うというのは結構大変なんですよ。
リサイタルとオペラの全幕を行ったり来たりするということが上手く出来ないし、時間もないので、
どちらかを取らなければいけないのなら、私はオペラの全幕公演をとります。
そして、CDですが、作る以上、何か私にしか出来ないものを作らなければいけないと思うのです。
私はCDを生み出す機械じゃありませんし、
今は録音できる段階にあるようなレパートリーも手元にないので、その時期が来るまで待ちたいと思います。
Q: 来シーズン(2011-12年)の予定は?
AN: アンナ・ボレーナ、愛の妙薬といったあたりが決定しています。
Q: 若いオーディエンスにメッセージやしてあげたいことはありますか?
AN: まず、生の舞台に接しましょう!ということ。
CDもいいですが、やはり生には叶いません。私が生まれ育った場所にはオペラハウスさえなかったの。
とにかく、生にふれてほしい、と思いますね。
ただ、オペラのチケットが非常に高価だ、という問題は私も感じています。
ザルツブルクなんて400ユーロですから!主催者、オペラハウス側も、
一公演だけは学生のために安価なチケットを提供するなどの企画を考えてほしいですね。
歌手を目指す若い人たちのために何ができるか、、私はあまりコンクールというコンセプト自体が好きでないので、
私の名前のついたコンクールを作るようなことはないと思うわ。
Q: オペラハウスによってオーディエンスの雰囲気に違いはありますか?
AN: ウィーンが一番スノッブね。”さあ、どれ位歌えるのか見せてごらん。”みたいな(笑)
Q: 相手のテノールによって歌唱が左右されたりしますか?
AN: もちろん!例えば日本で一緒に『マノン』を歌ったマシュー・ポレンザーニとはすごく相性がいいわ。
彼は情熱的で本当に素晴らしいの!
Q: オペラ歌手が実生活のパートナーというのはどういう感じですか?
AN: 色々と大変(笑)。やっと会えない間にたまっていた話を全部し終えた、と思ったら、
またどちらかが別の場所に移動、という感じで、、。
私が長距離電話する時に限って、彼が急がしくて電話を取れなかったりして、
”もう、何してんの!?”って思うことがしょっちゅうよ。

The Metropolitan Opera Guild
The Singers' Studio: Anna Netrebko with F. Paul Driscoll

Kaplan Penthouse, Rose Building

*** The Singers' Studio: Anna Netrebko シンガーズ・スタジオ アンナ・ネトレプコ ***