Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

DON CARLO (Sat Mtn, Dec 23, 2006)

2006-12-23 | メトロポリタン・オペラ
今日はドン・カルロの最後の公演、かつラジオ放送の日。
それもSirius(衛星放送)ではなく、Toll Brothers(昔はTexacoだった
スポンサーが昨シーズンから、Toll Brothersに変わったのです。)
による全国FMネット放送の日。
しかも、傾向として、土曜日のマチネは比較的観客ののりがよいので、
今日は私の新法則によれば、よい演奏になるはず。。。

少し話が脱線しますが、そういえば、先週末のマチネのリゴレット、
ラジオで聴いたのですが、火を噴いてましたねー!!
本当にマイナーなかすり傷を除けば、ライブと思えないすばらしさ。
録音したのをiPodに落として通勤中に聴いていますが、ため息が出ます。
去年調子がよくなくて、いまいちだと思ったリゴレット役のカルロス・アルバレスが熱演していて、
すでに先日書いたとおり、若手の二人(CallajaとSiurina)がこれまたすばらしく。。唯一悔やまれるは、このマチネを実際にオペラハウスで聞かなかったこと。
くーっ!!私の馬鹿、馬鹿、馬鹿!!!

さて、気を取り直して、今日のドン・カルロ。
12/4のレビューにもあるとおり、前回聞きにいったときは、温度が低めだったので、
今日の公演にかなり期待して、オペラハウスに向いました。

で、まず、結論から言うと。。

すばらしかった!!
ほんとうに。今思い出すだけでも、胸が熱くなります




演出などについては軽く前回お話したので、今日は歌と演奏を中心に。

まず、前回ふれるのを失念してしまったのですが、
最初のほうの霊廟のシーンと一番最後のシーンのほんの少ししか出番がないが重要な、当オペラ中最もミステリアスな役=修道士兼先帝(実体不明。亡霊か?”この世の悩みは修道院の中でも同じ。ただ天上においてのみ平安を得ることができるのだ。”のフレーズを歌う人。)を歌ったAndrew Gangestadというバスが印象的でした。こんな少しのフレーズにもかかわらず、記憶に残るとは、すごい。韓国生まれらしく、見た目はすっかりアジア人。まだ若手のようなので、これから期待がかかります。

エリザベッタのRacetteは、むしろ前回見た公演の方が調子がよかったように思われましたが、
彼女のすぐれたところは、調子がいまいちでも、そのレベルが高いところに維持されるところ、さすがです。
比較的うるさ方が揃うStanding Roomというメトのオペラギルド付けのウェブサイトでも、
彼女の歌唱、というよりかはむしろ声質について、評価が若干分かれているようで、声質的にエリザベッタは合っていないと感じている人もいるようですが、
私はそうは思いません。
ただ、道化師、ボエーム、そしてこのドン・カルロと続けて歌唱を聞く機会があって感じたのは、
彼女の声は、声がなじむ前と後で、だいぶ違って聞こえること。
前にも触れましたが、なじむ前は、かなり金属的でかたい声質です。
ところが、そこを過ぎると、突然、ものすごく柔軟で温かい声にかわります。
なので、人によって、どちらの印象が強いかで、全然違った評価や感想を持たれているのではないかと思います。
実はムゼッタみたいな役や、道化師のネッダは、彼女の本領が出る前に終わってしまうことが多く、適役ではない気がします。
とにかくスタミナのある人で、噂によると、蝶々夫人を歌ったときも絶賛されたとか。聞いてみたいー!!!
今日も、特に最後のアリアから最後にかけては、最高の歌唱を聞けました。
また身のこなしがきれいで、この方は、舞台上の方が実際より断然きれいに見えます。(ほめてんだか、けなしてんだか。。。)



あの、道化師のときのあばずれっぽいネッダから、王室の人間に大変身、
ちょっとした所作に上品さが溢れていました。

ドン・カルロはぴんで歌うアリアっぽいアリアもなく、意外と難しい役ですが、
そつなく(っていっても、ものすごく高いレベルのそつのなさ、です。)Bohtaがこなしていました。
とにかく、この人は声量がすごいです。



彼はやはり、ワーグナーの作品向きであって、ヴェルディ・テノールではない、
という評価も見られましたが、
私には、しょぼいドン・カルロ役でこのオペラを見てかなり辛かった、という苦い過去の経験があるだけに、
細かいことよりも、とにかくパワフルに歌ってもらえただけで感謝。

ロドリーゴ役のHvorostovsky、人気がありますが、
正直、何がそんなにすごいのか、今ひとつ私にはまだよくわかりません。
なので、ファンの方にどういうところがすきなのか、教えていただきたい。
声量もこのスター・キャストに混じると、本当にか細いし、
キャラクターにリアリティを与えるという面でも、まだまだだと思いました。
ただし、今日の方が、4日の公演よりはよかった。
特にドン・カルロを獄中に訪れるあたりから、
観客から大歓声をもらって本人も嬉しかったか、だいぶ”のって”もらえましたが。
おだてに弱いタイプかもしれません。

エボリを歌ったボロディナは、今日のヴェールの歌、満点でしたねー。



びっくりです。というのも、4日は全然違う出来だったので。。
というか、今日は声量まで違って聞こえました。
調子の良し悪しでかなり差が出ます。
ただ、そんなに調子がよかったのにもかかわらず、やっぱりやってしまった”呪われた美貌”。
どうしても最後のフレーズがうまくはまっていないのが、
本当にフラストレーション、たまります。
しかも、キーも下げて歌っていた模様。
もとのキーでも絶対歌えると思うのですが、やはり、ご本人的には、調子が悪かった(またはそんな思い込みがあった)のかもしれません。
でも、彼女が今日、比較的に調子が良かったおかげで、舞台がしまりました。
大事ですね、エボリ役。

そして、フィリッポのルネ・パペ。
役のイメージとしては、以前に聞いたギャウロフの方が合っていて、
やっぱりルネ・パペは少し若い感じはするけれども、
歌については現在でもその完成度は尋常でなく、
これで年齢を重ねていくとどんなことになるのか。。
素晴らしい歌手です。



今までにご本人が選んだ歌った役で私が聞いたものは、どれもはずしがないのがすごい。
普通、この役は合ってるけど、あれはいまいち。。。というのがありがちなのですが。
そして、調子が良いとか、悪いとか、がない。
いつも調子がよい、というかそのように聞こえる。これは本当に驚くべきことです。

そして、宗教裁判長のレイミー。
彼に関しては、断然4日の公演の方がよかったです。
ただ4日とも共通していたのは、低音でやや音が汚なかったこと。
感情をこめるとしても、汚くなるのはいただけない。
この役も本当に大変です。出番はそんなに長くないけれど、
そのなかで、目もみえなくなった、よぼよぼじいさんでありつつ、王よりもある意味、強大な権力を持つ、その迫力も出さなければいけないですから。。
4日のレイミーはいい意味で、背中に寒気が走る怖さがありましたが、
その迫力が今日は少し欠けてました。残念!

最初に今日は演奏を中心に、なんていいましたが、
演出に関してどうしても気になったこと=演技の付け方が変!
1)エリザベッタがロドリーゴと二人きりで会話しているところをフィリッポに見咎められ、おつきの役として、そばにいるはずだった、エリザベッタがフランス王室から連れて来た伯爵夫人がクビになるシーン。この女性が、まずものすごい大根でびっくり!どうにかしてください!
そして、その下手さをさらに引き出すかのように、エリザベッタが”泣かないで友よ”を歌う間、ひざまずいて泣き崩れていた夫人、最初の部分が終わると、おもむろに立ち上がるので、立ち去るのかと思いきや、繰り返しのところで、またしてもひざまずいて、同じポーズ。。。変です、これ!!!立ち上がったのには何の意味が???!!!まあ、この方が演技力があればそうおかしくもないシーンなのかも知れませんが、まるで、壊れた電動人形が立ち上がったり、座ったりを繰り返してる感じでとっても変でした。
2)ロドリーゴが死ぬシーン。石でできたベンチに崩れ落ちて死ぬのだが、体勢がとっても変!大事なシーンなんだから、もっと優美なポーズがあるでしょうに。。

今日のレヴァインの指揮は、かなりテンポが遅めだったようですが、
(ラジオ放送も、30分の余分を見ていたにもかかわらず、最後のカーテンコール、時間が足りなくて、途中でカットされたそうです。)
ちゃんとドラマに寄り添った遅さなので、聞いていて心地よかった。
むしろ、心地よい中でふと、あ、そういえば、ゆっくりめなテンポかも、と思うくらいで、決して、その遅さがダルな演奏になっていないところがよかったです。
歌唱&演奏の全体でいうと、ラジオ放送で聴いて感銘を受けた初日よりも更によかったかもしれません。
本当に、至福の一日。こういう演奏があるから、オペきちをやめられません。


Johan Botha (Don Carlo)
Patricia Racette (Elisabeth of Valois)
Dmitri Hvorostovsky (Rodrigo)
Rene Pape (Philip II)
Olga Borodina (Princess Eboli)
Samuel Ramey (the Grand Inquisitor)
Conductor: James Levine
Production: John Dexter
Grand Tier D odd
ON
***ヴェルディ ドン・カルロ Verdi Don Carlo***