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<目次> (今回の記事への掲載範囲)
序 章 掲載済 (1、2)
第1章 帰還 掲載済 (3、4、5、6、7)
第2章 陰謀 ○ (9:2/4)
第3章 出撃 未
第4章 錯綜 未
第5章 回帰 未
第6章 収束 未
第7章 決戦 未
終 章 未
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第2章 《陰謀》 (続き 2/4)
「どうだ?」
側近からだけではなく、斥候からも報告させるのである、ルナは可能な限り、ニ系当の情報源を持つことにしていた。勿論、各系統の者同士は互いの存在を知らない。一方の情報源である側近は貴族であり、もう一方の斥候は市民の中から拾った。階級社会においては両者に直接の接点が無いため、思わぬ処で両系統の情報源が錯綜することも無い。互いが完全に独立した情報源である。
「ブリタニアは問題無いぜ、ルナ。統領の正直さ加減は馬鹿が付く程だな。それより、王室の動きの方が気になる。」
単なる緊急用の通信機だが、実はルナ専用の秘密の暗号通信装置を兼ねている。弱い国力では、各国に出せる斥候は少ない。それだけに、極めて優秀なスタッフを集める必要がある。そして、三年かけてやっと構築した情報網の中でも、ルナ子飼いの最も優れた斥候が訴えて来たのである。ルナとしても心して聞かねばならない。
「この時期に帝国との確執を表面化させるのは、どういった了見だ? 王がローマに出向いて皇帝と話をするだけじゃないか。」
王と皇帝の確執が表面化した事の発端は、皇帝が王をローマに呼んだが、それを王が拒否したことによる。斥候はそれに納得がいかないようで、更にルナに詰め寄る。
「皇帝が王をローマに呼んだのは、帝国の主流派になった王国との融和路線に則ったものと誰もが思っている。なぜ拒否する必要があるんだ? 何か他に理由があるんじゃないか?」
「そうは言っても、王国としては我が方が帝位の正当な継承者を自認している。こちらから出掛けられないのは理解できるし、充分な拒否理由になるだろう。」
「今でもそうだと思うのか、ルナ?」
「継承権のことか? それとも王が出掛けるハナシか?」
「後者だ。王が行くんじゃなく皇帝に来てもらわないと、体面上の問題があるか?」
「それもある。」
「王が出掛ける理由なんて、いくらでも作り上げられるだろうさ!」
「いや、それだけじゃない。王と皇帝が会ってしまっては、王としては皇帝に王家継承の証を示せと言わざるをえない。そうなってしまったら事態は取り返しが付かないレベルまで悪化してしまう。」
「つまり、帝国側も、来ないのを見越して呼んだとお前は考えているわけだ。」
「もっと言うと、神聖同盟側の圧力で、王国の孤立化に帝国が加担させられたと見るべきだろう。」
「それがお前の考えか。お言葉ですがね、そのご意見には賛同しかねる。俺の情報から判断するとね。」
「ちょっと待て、ブルータス、どういうことだ?」
「帝国では皇帝も元老院の主流派の意見を取り入れていて、敢えて今王国との確執を表面化させても何もメリットは無いだろう? つまり、これは王国側の問題と考えるべきなんだよ。」
ルナは、子飼いの斥候であるブルータスの言うことを聞くことにしている。彼にはそれだけの価値がある。沈黙によって彼が話しを続けることを促した。
「お前はさっき、王と皇帝があいまみれば、皇帝に王家継承の証を示すことを求めざるを得ない、と言ったな?」
「それで?」
「皇帝だって同じってことさ。」
「なるほど。王も証を示せと求められるわけだ。示してやればいいさ!」
「そんなに単純じゃない。皇帝は薄くとも王家の血を引いているのは間違いない。王家の秘蹟を施されさえすれば、継承の証は示せちまうのさ。」
「秘蹟を施すことなど不可能だ。王国の神官から選ばれた、たった一人の生娘だけが伝えられるもので、何人であろうとやれはしない。だからこそ秘蹟なんだ。」
「どんな秘密だって漏れるものさ。」
ルナの頭脳に、『王家の秘蹟』を受けた夜の記憶が生々しく蘇って来た。そして、自分が開眼した後、色白で美しかった彼女は引き続き神官を勤めているのだろうか、というこの時に相応しくない疑問が頭をもたげた。そう思うと何とも不自然な嫉妬心が沸き立つのを感じる。いや、秘蹟を施す神官の条件は『生娘』だ。誰かに引き継がれたに違い無い。そう考えることで、何とか意識をブルータスに戻した。
「ブルータス、確かなのか? 皇帝も王家継承の証を示すことができると言うのだな? それでは皇帝と王が双方ともに正当性を帯びてしまうじゃないか!」
「おめでたい奴だと言わせてもらうぜ、ルナ。そういうことじゃないだろ? 皇帝が本当に王国との共存共栄を望んでいると考えているのか?」
「違うと言うなら、根拠は何だ?」
「唐突に過ぎるってことだ。王国と帝国がともに正当性を主張して百年だぞ。基本的に敵対して来た相手を呼ぶには、事前にもっと地ならしするさ。」
「王国を帝国に統合するつもりなのか、あの皇帝は!」
「そう考えていいだろう。だから、皇帝が王をローマに呼ぶには、皇帝が有利に立てる何かがあるはずだ。それも決定的な何かがな。逆に言うと、王にはローマに絶対に行けない理由があるということだ。」
「皇帝が王を呼んだのは、皇位継承者として王が不適切だということを知らしめるため、ということなんだな。」
「そうだ。それには、王が王家の証を示すことができない、というのが最も効果的だ。だからこそ、王はローマ行きを拒否せざるを得なかったんだ。」
「秘蹟を無効にする方法があるって聞いたことがある。王は王家の証を放棄したんじゃないのか? それならその事実を主張すればいい。」
「何のために放棄するんだ? 例えそうだったとして、正当性を放棄した王が皇帝と同列のままででいられるか?」
「そもそも現在の皇帝一族は、秘蹟が神秘的だからこそ、それによる皇位継承の正当性を否定した一派の末裔じゃないか。それが今になって証を示せだのと言うのはおかしいじゃないか!」
「民衆もそう思うかな、ルナ?」
冷静なブルータスに、ルナは言葉を詰まらせるしかなかった。
「王家の秘蹟を施されたのは、今やお前と皇帝しかいないってことなんだよ、ルナ。」
ブルータスの言っていることは、王が正当な王位継承者では無いことを意味する。しかしながら、ルナは秘蹟を施され、証を示す能力がある。この話が事実だとすると、王はルナの実の父ではないことになる。王がすり変わったのだ。本当の父、本当の王はどうなったのか。今の王はいったい誰なのか。秘蹟を盗むことができるのはいったい誰なのか。数々の疑問が一挙にルナの頭を占拠していった。
「王が……」
「とてつもない大きな陰謀が渦巻いている。俺達の王国を取り返そうぜ、ルナ。」
「……王子はどうなんだ? あいつは本当の王子なのか?」
「それについては未だ確かな情報がない。」
「そうか、わかったら知らせてくれ。俺は、当面、何も知らない振りをすることにする。」
「それが賢明だな。」
通信を切った。想定外であった。あまりの事態に動揺している。そんな自分を可笑しくも思う。鬼神を自認している自分が、何と人間くさいことか。しかし、感傷に浸っている場合ではない。これから当の王がいる王室に出向こうとしている時に、動揺を誰にも悟られてはならないのだ。
ルナは、珍しく汗にぬれた衣服を正し、身だしなみを整えて王室に向かった。
<続きます>
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