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『生き物の死にざま』

2024年08月04日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]
 
生き物がどんな死に方をするか、を
29の生き物(動物)の例をあげて、
生命の不思議に迫る本。

著者の稲垣栄洋氏は、
静岡大学大学院農学研究科教授。
専門は雑草生態学。
「スイカのタネはなぜ散らばっているのか」
他、著書多数。

29の生き物とは、↓。

1 空が見えない最期──セミ
2 子に身を捧ぐ生涯──ハサミムシ
3 母なる川で循環していく命──サケ
4 子を想い命がけの侵入と脱出──アカイエカ
5 三億年命をつないできたつわもの──カゲロウ

6 メスに食われながらも交尾をやめないオス──カマキリ
7 交尾に明け暮れ、死す──アンテキヌス
8 メスに寄生し、放精後はメスに吸収されるオス──チョウチンアンコウ
9 生涯一度きりの交接と子への愛──タコ
10 無数の卵の死の上に在る生魚──マンボウ

11 生きていることが生きがい──クラゲ
12 海と陸の危険に満ちた一生──ウミガメ
13 深海のメスのカニはなぜ冷たい海に向かったか──イエティクラブ
14 太古より海底に降り注ぐプランクトンの遺骸──マリンスノー
15 餌にたどりつくまでの長く危険な道のり──アリ

16 卵を産めなくなった女王アリの最期──シロアリ
17 戦うために生まれてきた永遠の幼虫──兵隊アブラムシ
18 冬を前に現れ、冬とともに死す“雪虫”──ワタアブラムシ
19 老化しない奇妙な生き物──ハダカデバネズミ
20 花の蜜集めは晩年に課された危険な任務──ミツバチ

21 なぜ危険を顧みず道路を横切るのか──ヒキガエル
22 巣を出ることなく生涯を閉じるメス──ミノムシ( オオミノガ) 
23 クモの巣に餌がかかるのをただただ待つ──ジョロウグモ
24 草食動物も肉食動物も最後は肉に──シマウマとライオン
25 出荷までの四、五〇日間──ニワトリ

26 実験室で閉じる生涯──ネズミ
27 ヒトを必要としたオオカミの子孫の今──イヌ
28 かつては神とされた獣たちの終焉──ニホンオオカミ
29 死を悼む動物なのか──ゾウ

普段、動物や虫の死に方など気にしていない人が
大多数だと思うが、
改めて生きること、死ぬことに注目させてくれる。

目についた主な内容を書くと、

○セミの命は短い、と言われているが、
 実は地中で7年以上生きて、成虫になった途端、
 ひと夏の命で終わる。
 セミは必ず上を向いて死ぬ
 昆虫は硬直すると脚が縮まり関節が曲がるので、
 体を支えることが出来ずに、ひっくり返ってしまうのだ。

ハサミムシは卵を守り、子育てする珍しい昆虫。
 石を持ち上げると、子どもを守るために威嚇する。
 孵った幼虫は、母親の体を食べて成長する。
 母親は自分の体を子どもたちに与えて死ぬ

サケは生まれた川に戻ってメスは卵を産み、
 オスは精子をかける。
 サケは繁殖行動を終えると死ぬようにプログラムされている。
 そして、その死骸はプランクトンを生み、
 孵った子どもたちは、それを食べて育ち、
 やがて海を目指し、再び帰って来る。
 こうしてサケの命は循環する。

○はかない命の代名詞のように言われるカゲロウは、
 セミと同様、幼虫の時代を何年も川の中ですごす。
 そして、成虫になると、数時間で命が終わる。
 成虫は口もなく、生殖機能しかない。
 そして、群れを作り、交尾する。
 コウモリがそれを狙って食べに来る。
 生き残ったメスは水の中に卵を産んで死に絶える。
 あとは魚のエサ。
 交尾し、子孫を残すためだけに
 数時間の成虫の時を過ごす。
 カゲロウが発生したのは3億年前。

タコのオスは生涯たった一度の交接をした後、死ぬ。
 メスは卵を生み、卵を守り続ける。
 絶食したまま、何か月もの間、卵を守り
 子どもたちが生まれるのを確認して、死ぬ。

働きバチの寿命は1か月余り。
 巣の中で清掃や子守などの「内勤」をし、
 その生涯の後半、2週間が花から蜜を採集する期間。
 一匹のミツバチは、働き続けて、スプーン一杯の蜂蜜を集め、
 どこかで天敵に襲われて、命を落とす。

シマウマは「天寿を全うする」という死に方はない。
 途中、ライオンに襲われて食べられてしまうから大。
 そのライオンも年老いれば、群れを離れ、死ぬ。
 その後はハイエナやジャッカルに食われる。

ブロイラーは効率よく成長できるように改良され、
 体重1キロ増やすのに必要な餌の量はわずか2キロ強。
 人間に食べられるために、
 生後40日から50日で出荷される。
 世界で200億羽が飼育されており、
 世界人口75億の2.5倍だ。

特に、次の「死」の発明の記述は瞠目した。

○単細胞生物は細胞分裂によって増えるので、
 「死」はない。
 生命が地球に誕生したのは38億年ほど前、
 全てが単細胞生物であった時代に、
 生物に「死」は存在しなかった
 しかし、それでは新しいものを作り出すことは出来ない。
 そこで、生物はコピーをするのではなく、
 一度、壊して、新しく作り出す方法を選んだ。
 しかし、全てを壊しては、元に戻すのは大変。
 そこで、生命は、元の個体から遺伝情報を持ち寄って、
 新しいものを作り出す方法を編み出した。
 それがオスとメスという性。
 その仕組みを生み出すと同時に、
 生物は「死」というシステムを作り出した。
 生物は命を永らえさせる方法として、
 新しい命を生み出し、
 古い命を殺す(死ぬ)という方法を選んだ。
 この方法の方が
 より種族を存続させることができると考えたからだ。
 こうして、生命は、
 「死」と「再生」という仕組みを作り出した。
 「死」は、38億年に及ぶ生命の歴史の中で、
 10億年前に、生物自身が生み出した偉大な発明なのだ。

セミやカゲロウやサケの生涯を通じて分かるのは、
生き物の使命とは、
子孫を残すこと
自分のDNAを次世代に継承させることである。
それには、二つの方法があり、
沢山の卵を生んで、
他の生物の餌食になりながら、
生存する確率を高める方法。
もう一つは、数少ない個体を大きく生んで、
餌食になる機会を減らす方法。
いずれにせよ、
子孫を増やすための方法論である。

単細胞生物から、
性が分離して、
死が生まれ、
遺伝子を継承していく仕組み。
その中で、
多様な生き物が誕生し、
様々な生態が生まれた。
まさに、地球は生命に満ちた惑星である。
その不思議さを思わせる本だった。

 



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