[書籍紹介]
独特な感性を持つ女子高生・
成瀬あかりの自由奔放な行動と、
それに振り回されつつも惹かれていく
周囲の人々の姿を描いた青春小説。
収録作の「ありがとう西武大津店」が
新潮社主催の第20回『女による女のためのR-18文学賞』で
史上初のトリプル受賞(大賞、読者賞、友近賞)に輝いて、
『小説新潮』2021年5月号に掲載され、
「階段は走らない」が
『小説新潮』2022年5月号に掲載された後、
書下ろしの4編を加え、
2023年3月17日に新潮社から刊行された。
このデビュー作が
発売から半年で書籍、電子書籍合わせて
発行部数10万部を突破し、
第39回『坪田譲治文学賞』、
2024年『本屋大賞』など数多くの賞を獲得。
なんともラッキーな展開だ。
滋賀県大津市を舞台に、
主人公・成瀬あかりの中学2年生の夏から
高校3年生の夏までの間の出来事を描く5編と、
スピンオフ的作品「階段は走らない」1編の全6編から成る。
「ありがとう西武大津店」
成瀬あかりは14歳の夏休み前、
近く閉店を控える西武大津店に
西武ライオンズのユニホームを着て毎日通い、
ローカル番組「ぐるりんワイド」の生中継に映り込む。
同じマンションに住む幼なじみの島崎みゆきを巻き込み、
二人組のユニホーム姿が話題となる。
「膳所から来ました」
西武大津店通いを終えた成瀬は、
「わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」と言いだす。
又も島崎が巻き込まれ、
「膳所(ぜぜ)から来た」ということで
漫才コンビ「ゼゼカラ」を結成し、
M1グランプリに出場、
いずれも一回戦敗退する。
「階段は走らない」
大阪に勤める敬太は、
西武大津店の閉店を知って、行ってみると、
小学校時代の同級生に次々と遭遇する。
家庭の事情で転校し
音信不通となったタクローを探し出そうとするが、
「閉店の日西武の屋上で」というタクロー名のメッセージが投稿され、
半信半疑で閉店の日に屋上へ向かう・・・
「線がつながる」
大貫かえでは進学した県内屈指の進学校・膳所高校で、
中学時代に苦手であった同級生の成瀬と同じクラスとなる。
成瀬は坊主頭になっており、
3年で何センチのびるかを検証するのだという。
その上、かるたのサークルに入り、活躍し始めた。
大貫は同じ東大志望の男子・須田と親しくなり、
一緒に東大のオープンキャンパスに行ってみた。
すると、そこで成瀬に遭遇し・・・
「レッツゴーミシガン」
滋賀県で開催される全国高校かるた大会に
広島県代表として出場した西浦航一郎は、
他校の出場者の成瀬に一目惚れし、
幼馴染の協力もあって成瀬とデートの約束を取り付け、
琵琶湖の観光船ミシガンに案内される。
「ときめき江州音頭」
成瀬と島崎の「ゼゼカラ」は、
地元自治会の「ときめき夏祭り」の総合司会を毎年務めるようになる。
父の転勤に伴って東京へ転居し、
東京の大学に進学すると島崎から聞かされた成瀬は、
受験勉強が手につかなくなる・・・
成瀬のどこが特別かというと、
興味のままに我が道を進み、
ブレないところ。
人の評価を気にしないところ。
しかし、意外なところで顔を出す人間臭さ。
そして、200歳まで生きる、と宣言する。
中学生、高校生が主人公だが、
書いたのは、大津在住の41歳の主婦・宮島未奈。
その続編で、
収録作の「やめたいクレーマー」が
『小説新潮』2023年5月号に掲載されたのち、
書下ろしの4編を加え、
2024年1月24日に刊行された。
前作に続き滋賀県大津市を舞台に、
主人公・成瀬あかりの高校3年生の秋から
大学1回生の年末年始までの出来事を描く全5編から成る。
「ときめきっ子タイム」
小学4年の北川みらいは、
総合学習のテーマが、
ときめき地区で活躍している人だと聞き、
憧れのゼゼカラの成瀬あかりを対象にすると決める。
通学路に成瀬の標語があったと聞かされ
現地に見に行くと、パトロール中の成瀬に遭遇する・・・
「成瀬慶彦の憂鬱」
成瀬あかりの父・慶彦は、
家族共用のパソコンの検索履歴から、
大学進学したら、
あかりが京都で一人暮らしを始めるのではないかと気を揉む。
京都大学の受験当日、慶彦はあかりに付き添う。
雪が降る芝生でテントを設営している受験生・城山に
あかりは「うちに来たらいい」と声をかける。
城山は、高知からヒッチハイクで受験に臨んでいるのだという。
あかりも城山も合格した。
「やめたいクレーマー」
近所に住む主婦・呉間言実(くれまことみ)は、
近所のスーパーにクレームを入れるのが、やめられない。
やめたいとは思うのだが、
ついつい目についたことを書いて、箱に入れてしまう。
呉間(くれま)という名字がいけないのではないかとさえ思う。
クレームを書いているときに
そのスーパーでアルバイトをしている成瀬に声をかけられ、
万引が多いのでパトロールの協力を頼まれるが拒否する。
しかし、万引きの現場を目撃してしまい・・・
「コンビーフはうまい」
篠原かれんはびわ湖大津観光大使に任命される。
成瀬も当選し、
一緒に行動するうち、
親子三代観光大使にまつりあげられる
自分の存在に疑問を持ち始める・・・
「探さないでください」
2025年(!!)の大晦日、
成瀬は「探さないでください」との書置きを残し突然姿を消す。
成瀬と年末年始を過ごす予定だった島崎は
慶彦と共に探しに出かけることになり、
自主パトロール中のみらいも捜索に加わる。
成瀬がスタンプラリーに参加している姿がニュースに映り、
名古屋に向かうも、すれ違いに終わる。
やがて、成瀬が意外なところにいることが分かり・・・
話としては、
前作より充実している印象。
自分の目指すところに向かってまっすぐ突き進んでいく
成瀬の姿が清々しくて気持ちいい。
読後感はすこぶるいい。
題名が新鮮。
ただ、中学生、高校生が主人公の小説は、
私のような大人には、
ちょっと食い足りない。
このシリーズ、
成瀬が大学を卒業して、
社会人になった時、
どんな行動を取るのか楽しみ。
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