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小説『ラウリ・クースクを探して』

2024年01月22日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

バルト三国のエストニアに生れた天才コンピュータ少年の生涯を辿る物語。

ラウリ・クースク
エストニアの首都タリンから車で1 時間ほどの
ボフニャ村で1977年に生まれた。
ラウリは幼い頃から数字に異様な執着を示していたが、
機械技師だった父から
工場下げ降ろしの故障中のコンピュータを与えられたラウリは、
プログラミングの技術をすぐに習得する。
当時、小学校にもコンピュータ教育が導入された時期で、
ラウリはプログラミングの稀有な才能を発揮する。
才能を見抜いた担任のホルゲル先生は、
ラウリに放課後、コンピュータを自由に使う許可を与えた。
ウラリは次々とゲームを開発し、
コンテストにも応募し、入賞する。
しかし、どうしても勝てない相手がいた。
ロシア人のイヴァン・イヴァーノフ・クルグロフという、
ラウリと同じ10歳の少年だった。
ある日、イヴァンがラウリのもとを訪れ、友情が芽生える。
同じ中学校に通うようになった二人は、
カーテャ・ケレスという少女を加え、
3人一組で行動する。
しかし、ソ連の崩壊が始まってイヴァンはソ連に帰り、
親交が途絶えてしまう。
そして、1991年、
ラウリ14歳の時、
エストニア独立の気運が高まり、
カーチャとの間にも亀裂が生れ、
デモ隊との衝突でカーチャが下半身不随の傷を負う。

ここまでが第1部。
ラウリはカーチャの傷害に責任を感じ、
コンピュータから離れ、
紡績工場で働くようになる。
しかし、かつての恩師と再会し、
再びコンピュータの世界に舞い戻る。
ここまでが第2部。

構成に工夫がなされていて、
あるジャーナリストがラウリの消息を辿る部分と
ラウリの少年時代が交互に描かれる。
そして、第2部の最後に、
そのジャーナリストの正体が明らかになる。

第3部は、エストニアの
国の情報インフラを支える企業で働くラウリが描かれ、
46歳になった
イヴァンとカーチャとの3人組の再会が描かれる。

背景にソ連崩壊に伴い、
独立を目指すエストニアの歴史がある。
20世紀の世界を変えた大事件だが、
ラウリもイヴァンもカーチャも、
その渦の中で翻弄される。

初期のコンピュータが白黒で、
データも保存できなかったので、
メモにプログラムを書き写し、
再度起動するたびに、
それを手入力するなど、
興味深い事柄も描かれる。
また、イヴァンが
あれほどの才能に恵まれながら、
何故コンピュータの道を行かなかったか、
という謎も、最後に明らかになる。

本質的なことを口にする通訳
ラウリの村の教会の飲んだくれの神父などが
彩りを加える。
神父の言葉。
「親友と会うのに理由なんかいらねえ。
何年ぶりか知らねえが、
話題なんかなくったっていい。
二人で空でも見てればいいのさ」

エストニアといえば、IT先進国。
「国とは領土でなく、データである」
との考え方のもと、
国民全てのデータを国外に保存した
稀有な国だ。
その中での一人の天才少年の軌跡を辿る旅。
興味津々で、あっという間に読了した。

先の直木賞候補になったが、受賞には至らなかった。

 宮内悠介の本は、
やはり直木賞候補になった
「盤上の夜」「ヨハネスブルクの天使たち」
を読んだことがある。
ちょっと肌に合わなかったが、
本作は題材と歴史的背景がなかなか魅力的だった。

 



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