空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『出版禁止 死刑囚の歌』

2023年12月10日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

以前に紹介した「出版禁止」(2014)はシリーズ化され、
この「出版禁止 死刑囚の歌」(2018)は、第2弾
第3弾「出版禁止 いやしの村滞在記」(2021)へと続くが、
お互いに関連性はない、別の話である。

1993年、柏市で幼児殺人事件が起こる。
6歳の女児と4歳の男児が殺され、
雑木林に埋められていた。
犯人は、近所に出没していた43歳のホームレスの男性で、
幼児から脱がせた服を手に、派出所に自首して来た。
地方裁判所で無期懲役の判決が下ったが、
検察が量刑不服で控訴、
高等裁判所で死刑の判決が出たが、
犯人の望月辰郎は上告せず、判決が確定。
(望月は無期懲役より死刑を望んでいた)
2011年、望月の死刑が執行される。

2015年、向島で一家三人殺傷事件が発生。
夫婦が殺され、15歳の一人娘は首を絞められ、
意識不明になった。

事件が異色なのは、
この夫婦が22年前の柏市の幼児殺害事件の被害者の父母であったことで、
普通に見れば、不幸な事件に2度も巻き込まれた運の悪い夫婦、
なのだが、
やがて、細部が明らかになっていくと、
3人の口に印刷物の紙片が押し込まれており、
その紙は、望月辰郎が刑務所の中で詠んだ短歌を掲載した雑誌
該当ページだった。

22年前の事件と今度の事件は関係があるとしか思えない。
しかし、事件の犯人は既に処刑されている。
一体、誰が、何の目的で夫婦を殺害し、
昔の事件と関連があるような措置をしたのか。
こうした謎を追うために、
様々な資料を駆使して展開する。

雑誌『流路』に掲載された「鬼畜の森」は、
柏市の事件の犯人、望月辰郎の生涯を追跡するもの。
望月の父は殺人事件を犯して自殺、辰郎は寺院の施設に預けられ、
苦学して大学を卒業、教師の職を得て、結婚、家庭にも恵まれた。
しかし、一人娘の今日香が、
高校でいじめの首謀者とみなされて、自殺
そのことで家庭は崩壊し、辰郎はホームレスになり、
犯行に至る。

『季刊和歌』は望月の獄中で作った短歌を掲載し、
その結果、世間の批判を受けて本を回収、
倒産に追い込まれている。

月刊誌『インシデント』「隣室の殺戮」は、
向島の一家三人殺傷事件の捜査の経過を追うもの。

ノンフィクション『私が失踪調査人をしていたころ』に掲載された
「妻が消えた理由」は、
柏市の事件の8年前の女性の失踪者の居所を調査した人の手記。
夫の暴力から逃れる女性が失踪したのを依頼されて追跡捜査し、
友人のもとに身を寄せた女性を発見するが、
暴力夫にはその居場所を知らせなかった。
その女性と友人は結婚したが、
それが柏市と向島で被害を受けた夫婦だった。

再び雑誌『流路』に掲載された「検証──二十二年目の真実」は、
望月の娘・今日香の「いじめ」事件が、
実は冤罪だったことを解明。
そして、望月が残した和歌の中に隠された意味も解明。
それは、復讐が終わり、命を断つことが自分の願いであり、
これで今日香に会えるという謎の内容だった。
と共に、向島事件の被害者の中学生が
ノートパソコンの中に、日記が残されており、
それは、父母を殺すことを何者かに教唆されていた内容だった。

これらの資料を元に、
「編纂者」年表を作成し、
資料の中に隠された疑問点を列挙する。

『インターネットの個人ブログ』は、
何者かが獄中の辰郎に面会し、
真実を述べてくれることを哀願する内容。

最後に編纂者は、和歌が掲載された6首だけでなく、
あと4首あったことを明らかにする。
その結果、事件の核心といえる人物にたどり着き、
会いに出かける。
(4首に隠された意味は、
 小説の中では、あきらかにせず、
 読者自身で解明せよ、との体裁。
 実は、そこには、ある人物の名前が明らかにされている)
そして、その人物の主観で、
最後に、事件の真実が明らかにされる。

それは、真面目な読者には、驚愕の内容。
読み返してみると、
様々な伏線が記述されていたことが分かる。
殺された幼児の父のセリフ、
「見つかった遺体は2人だけなのか」
「どうして遺体が裸になっているのか」
「捜索は続けられるのか」
など。
そもそも、編集者が作った年表を注意深く見れば
矛盾はみつかる。

ルール違反すれすれの所をやった
「だまし」の作品
この作家の特色がよく表れた、
最後の13ページ。
だまされた快感を味わうか、
「そんな馬鹿な」と怒るか、
それは、読者次第。
とにかく要となる望月辰郎の心が理解不能というか、不自然
後に要となる人物のある人物へのアプローチも、少々無茶

ただ、私が何度も前のページをめくって、
いろいろ確かめたのは、
見事に術中にはまったといえよう。

いろいろな出版物を網羅するという、
意欲的な構成だが、
あまりスムーズではなく、
煩雑さを増しただけのような気もするが。

作者の長江俊和は、
テレビディレクター、ドラマ演出家、脚本家、小説家、映画監督で、
フェイクドキュメンタリー、ホラー、サスペンスものを得意とする。
本作も、その経験を生かし、読者を誤誘導させる
「だまし」のテクニックを駆使している。
                            



最新の画像もっと見る

コメントを投稿