空飛ぶ自由人・2

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映画『瞳をとじて』

2024年02月10日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「ミツバチのささやき」などで知られる
スペインの巨匠ビクトル・エリセ
31年ぶりに撮った作品。

冒頭、ある邸宅を訪れた男が、
死期の近いユダヤ人の富豪から
人探しを依頼される。
富豪の血を引く中国人の少女を探し出して、
連れて来てほしいというのだ。

というのは、映画の中の映画で、
この映画「別れのまなざし」の撮影中に
主演俳優フリオ・アレナスが失踪したために、
未完に終わってしまったのだ。

それから22年。
「別れのまなざし」の監督だったミゲル(英語名はマイク)が
「未解決事件」というテレビ番組に招かれて、
失踪事件について語る。
取材後、ミゲルは過去にゆかりのある人物を次々と訪ねて、
昔を語り、倉庫で過去の文物を探る。
それは、親友でもあったフリオと過ごした
青春時代を追想するものであった。

ここまでがおよそ3分の1。
ほとんどが1体1の対話で、
やや冗長。

マドリードから長距離バスでミゲルが戻ったところは、
スペイン南部の寒村で、
そこでミゲルは漁業をしながら、
近所の住人とだけ交流の
隠遁者の生活をしている。

ようやくドラマが動き出すのは、
番組を観た視聴者から、
「失踪した俳優とそっくりな人がいる」
という連絡だった。

訪ねて行ったところは、
修道院が運営する高齢者養護施設
そこでフリオと思われる男は
建物の修繕などをして雇われている。
男は船乗りとして、世界中を回っていたらしく、
病気で施設に来た時には、
過去の記憶を失っていた
面変わりしているものの、
ミゲルが男はフリオだと確信したのは、
「別れのまなざし」で使用した
中国人少女の写真を持っていたことだった。
ミゲルはフリオと出会った水兵時代の写真を見せたり、
水兵独特の結び方をさせたりして
記憶を取り戻させようとするが、
うまくいかない。
フリオの娘アナを呼び寄せ、会わせても、
男の記憶は戻らない。
そして、最後の手段として、
ミゲルがしたのは・・・

ここで、最初の「映画の中の映画」が
登場する、巧みな構成。
この場面は、なかなかスリリングで、
興味をそそる。

アメリカ映画だったら、
もっと違う描き方をするだろうと思うが、
監督は古い映画手法に固執する。
たとえば、多発されるフェイドアウト。

フェイドアウト・・・
場面切り換えの手法の一つ。
「暗転」や「溶暗」といった方が分かりやすいだろうが、
場面を急速に暗くして次の場面につなぐ。
逆に暗闇から次の場面を徐々に明るくしていくのがフェイド・イン。
画面に次の画面が重なって、
前の画面と入れ替わるのがオーバーラップ。
ディゾルブともいう。
端から次の場面を出て来て、
拭うように次の場面につなぐのがワイプ。
黒澤明が多様し、その影響で「スター・ウォーズ」などに引き継がれた。
これらの場面転換は、
既に過去の遺物とも言え、
今は、カットでつなぐのが主流。

前半部分での1対1の対話での切り返しも過去の手法。
おそらく巨匠ビクトル・エリセは、
新しい映画を観ていないか、
観ていても、切り捨てているのだろう。
それはそれで立派なものだが。

映画そのものは、古い手法によるので、
今の手法を見慣れた観客には、少々もどかしい。
ただ、ストーリーラインである、
失踪した俳優の探索と
過去の回復というテーマは魅力的だ。
その回復のために
映画を使う、というのも、なかなかのもの。
ただ、最後はその結果は見せることなく、
映画は終わる。
フリオの表情の変化だけでも見せてくれればよかったのだが。

169分という時間は、さすがに長い
前半にあんなに時間を取る必要はないのでは。

ただ、真ん中に当たる監督の隠遁生活は、
ビクトル・エリセの日常ではないかと思うほど魅力的だ。

その仲間との交流で
「ライフルと愛馬」を歌うシーンが出て驚いた。
ハワード・ホークス監督、ジョン・ウェイン主演の
西部劇「リオ・ブラボー」(1959)の中で
ディーン・マーチンとリッキー・ネルソンが歌う。


ただ、歌詞の字幕が「ライフルとポニー」と出ているのは、
いただけない。

「ライフルと愛馬」を聴きたい方は、↓をコピーしてお使い下さい。

https://youtu.be/2FEbBUPO5OU?t=10

「ミツバチのささやき」で
当時5歳で主演を務めたアナ・トレント
フリオの娘アナ役で出演。
「私はアナ」と、当時と同じセリフを口にする。

冒頭とエンドロールで
印象的に映される双頭の彫刻は、
ローマ神話の神、ヤヌスの像
一つの顔は未来を、もう一つの顔は過去を向いており、
なにやら象徴的
ヤヌスはアルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの
短編小説「死とコンパス」出てくる。
エリセはこの物語を映画化するために脚本を書いたことがあるという。

フリオの今の名前、ガルデルは、
人気絶頂で飛行機事故によって急逝してしまった
アルゼンチンの国民的英雄で
伝説のタンゴ歌手、カルロス・ガルデルに由来。
フリオがよくタンゴを歌っていることから彼につけた呼び名。

手法は古いが、
なかなか味のある映画だった。

5段階評価で「4」

TOHOシネマズシャンテで上映中。
                                        



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