[映画紹介]
ローマ教皇の選出選挙の舞台裏と内幕に迫ったミステリー。
信者数12億人を擁する
世界最大の組織の長だから、
影響力は大きく、世界が注目する。
カトリック教会のトップにして
バチカン市国の国家元首であるローマ教皇が、
心臓発作のため急死してしまう。
教皇が不在の状態を「使徒座空位時」という。
悲しみに暮れる暇もなく、
首席枢機卿を務める
トマス・ローレンス枢機卿は枢機卿団を招集し、
次のローマ教皇を選出する
教皇選挙(コンクラーベ)を執行することとなった。
100人以上の枢機卿がシスティーナ礼拝堂に集まり、
入口が封鎖された密閉空間で
投票が行われるが、
定足数の3分の2の得票数を獲得した人物が現れるまで、
投票が繰り返される。
立候補制ではなく、
100人以上いる枢機卿の中から
1名の名前を記入して、
投票するのだから、
よほどの強力な人物がいない限り、
なかなか決まらない。
この映画は、
その様子をじっと凝視する。
教会といっても、
信仰で団結しているわけではなく、
有力候補者として
リベラル派最先鋒の人物、
穏健保守派の人物、
保守派にして伝統主義者の人物
初のアフリカ系教皇の座を狙う人物、
など、多種多様。
しかも、枢機卿の中には、
教皇の死亡直前に解任されたらしい人物や、
教皇が秘密裡に任命した枢機卿が
開始直前に到着したりする。
途中、最有力とされていたアフリカ系の枢機卿が
30年前の性的スキャンダルで失脚したり、
それを画策した人物がいたり、
水面下では陰謀や差別、
スキャンダルがうごめく。
ローレンス自身が信仰に関する悩みを抱えている。
ローレンス枢機卿を演ずるのはレイフ・ファインズ。
ジョン・リスゴーをはじめ、
ベテラン俳優たちが枢機卿を演ずる。
全体的に株式会社や団体の長選びのような様相で、
宗教的匂いは感じられない。
まあ、人間が作る組織だから、
人間臭い暗闘はあると思うが、
一方で、彼らは宗教的指導者でもあるわけで、
その要素が抜け落ちているのは、
少々偏った描き方だ。
そして、法皇が選出された後、
衝撃の事実が明らかにされる。
これにはちょっと驚いた。
法皇庁は重大な秘密を抱えることになったわけで、
もし真実が露見したら、
それこそ教会を揺るがす騒動になるだろう。
まあ、原作はミステリー小説ですからね。
先のアカデミー賞において作品賞を含む8部門にノミネートされ、
脚色賞を受賞した。
ローバート・ハリスの同名小説を映画化。
5段階評価の「4」。
拡大上映中。
以下、映画では説明されていない、
コンクラーベに関するトリビアを。
教皇の逝去にはカメルレンゴといわれる枢機卿が立ち会う。
カメルレンゴ(Camerlengo)とは、
ローマ教皇庁の役職で、
教皇の秘書長。
枢機卿の中からローマ教皇によって指名される。
使徒座空位期間、教皇代理となる。
カメルレンゴは教皇の死の確認を済ますと、
元漁師であった聖ペテロにちなんで「漁夫の指輪」と呼ばれる
教皇指輪を教皇の指から外し、
枢機卿団の前でそれを破壊する。
「漁夫の指輪」には教皇が文書に押す印章が付いており、
これが教皇の死後に他者の手で不正に使用されることを防ぐためである。
教会法には教皇の生前辞任が認められているが、
実際には教皇が生前に辞任する事態は
ほとんど起こっていない。
しかし、2013年、ベネディクト16世が生前辞任し、
これにより719年ぶりに教皇の生前辞任を要件とする
コンクラーベが開催された。
教皇葬儀は死後4日から6日の間におこなわれる。
その後、教皇庁全体が9日間の喪に服する。
筆頭枢機卿は全世界の枢機卿を招集し、
次の法皇を選出する選挙を行う。
教皇選挙は通常、教皇の死後15日以降におこなわれる。
全枢機卿がそろわない場合、
選挙の実施を最高で20日まで伸ばすことが出来る。
枢機卿(すうききょう、すうきけいと二つ読み方があったが、
今では、「すうききょう」に統一されている)は、
カトリック教会における教皇の最高顧問という位置付け。
重要な案件について
教皇を直接に補佐する「枢機卿団」を構成する。
従って、教皇の逝去で
次の教皇を選ぶ職務は枢機卿団に委ねられる。
つまり、教皇選出選挙の選挙権と被選挙権は、
枢機卿だけが持っている。
枢機卿は、原則として司教の叙階を受けた聖職者の中から
教皇が自由に任命し、任期は設けられていない。
男性信徒であれば誰でも枢機卿に選ばれる資格がある
ことになってはいるが、
実際にはほとんどが大司教または司教から選ばれている。
女性には史上、教皇になる資格が与えられたことはない。
今まで、日本国籍保持者の枢機卿は7名いる。
枢機卿は緋色の聖職者服を身にまとう。
緋色は、信仰のためならいつでも進んで命を捧げるという
枢機卿の決意を表す色。
キリストの血を象徴する色、という説もある。
枢機卿は、13世紀初頭にはわずか7人しかなかったが、
その後、増員し、
現在では、
教皇選挙の有資格者は80歳未満の枢機卿に限り、
その人数は120人までという制限が設定されている。
映画の中では107人分の資料を作っている。
教皇の選出には、名前の発声など3つの方法があったが、
今では、投票による決定のみとされている。
投票は、
バチカン宮殿内のシスティーナ礼拝堂でおこなわれる。
1978年10月のコンクラーベまでは、
投票を行う枢機卿たちはシスティーナ礼拝堂内に閉じ込められ、
新教皇が選出されるまでは礼拝堂から出ることを禁じられていたが、
2005年からは変更され、
枢機卿団はシスティーナ礼拝堂に缶詰にされることはなく、
バチカンに新築されたサン・マルタ館という
5階建ての聖職者用宿舎で生活しながら、
システィーナ礼拝堂に投票に赴くようになった。
しかし、外部との接触を厳重に禁じられ、
新聞社やテレビ局などのマスコミと連絡を取ることの禁止はもちろん、
携帯電話は預けられ(取り上げられ)、
聖マルタ館の電話やインターネット回線が切断され、
聖マルタ館とシスティーナ礼拝堂には、
携帯電話使用や盗聴を防止するためのジャミングが流されるなど
電子的にも厳戒態勢がしかれている。
選挙当日の朝、
枢機卿団はサン・ピエトロ大聖堂に集まってミサをささげる。
午後、枢機卿たちはバチカン宮殿内のパウロ礼拝堂に集合して、
そこから聖霊の助けを願う歌である「ヴェニ・クレアトール」を歌って
システィーナ礼拝堂へと移動する。
現代ではこの行列はテレビ中継される。
礼拝堂に到着すると、
首席枢機卿の先導のもとに宣誓文がとなえられる。
宣誓の内容は、もし自分が選出された場合
聖座の自由を守ること、選挙の秘密を守ること、
投票において外部の圧力を受けないことである。
続いて枢機卿は一人ずつ福音書に手を置き、宣誓を行う。
宣誓が終わると、
教皇庁儀典長の「全員退去」の宣言とともに、
儀典長と講話を行う聖職者を除き、
枢機卿団以外は礼拝堂から退出する。
退出を見届けた儀典長は
入り口に進んで内側から鍵をかける。
テレビ中継はここで終わる。
続いて講話者が、残った枢機卿団に向かって
現代の教会が抱える問題と
新教皇に求められる資質についての講話をおこなう。
講話が終わると儀典長と講話者は退室し、
枢機卿たちだけが残る。
投票は所定の用紙に無記名で行われ、
手書きで推薦者を記入し、容器に入れる。
第1日目の午後、最初の投票が行われる。
この第1回の投票で決まらなかった場合、
2日目以降からは毎日午前2回、午後2回の計4回の投票が行われる。
3日目になっても決まらない場合は、
1日投票のない日が挟み、
祈りと助祭枢機卿の最年長者による講話がおこなわれる。
次に7回の投票がおこなわれて決まらない場合、
再び無投票の日が入り、
今度は司祭枢機卿の最年長者が講話をおこなう。
続く7回の投票によっても決まらない場合も、
同じようなプロセスが繰り返され、
今度は司教枢機卿の年長者が講話をおこなう。
更に7度の投票によっても決まらない場合は、
最後の投票で最多得票を得た
上位2名の候補者による決選投票に移行する。
時には、何日も何日も時間がかかることがあり、
「コンクラーベ」は日本語で「根競べ」と言われている。
それぞれの投票後には、
1枚ずつ名前が読み上げられ、
票の集計、数の検査の後、
投票用紙は串刺しにされ、焼却が行われる。
つまり、投票結果は神のみが知るものとなる。
用紙焼却は午前午後それぞれ2回目の投票後に行われ、
新教皇がまだ決まらない場合には、礼拝堂の煙突から黒い煙を出し、
新教皇が決まった場合には、白い煙を出して外部への合図とする。
過去には未決の場合湿らせたわらを混入し燃やして
黒い煙を出すようにしていたが、
黒とも白ともつかない灰色の煙が出て
情報が混乱したことがあったため、
明確に色付けする目的で、
黒煙の場合は過塩素酸カリウム・アントラセン・硫黄の化合物を、
白煙の場合は塩素酸カリウムや乳糖、松脂の混合物を
投票用紙に混ぜて燃やすようになり、
さらに2005年の教皇選挙からは、
新教皇が決まった場合、
白い煙が出た直後にサン・ピエトロ大聖堂の鐘を鳴らして
正式な合図とすることになった。
1179年までは投票者の過半数をとれば教皇に選出されていたが、
その後、投票の3分の2以上の得票を得ることが条件とされた。
教皇選挙では自分の名前を書くことは認められないが、
無記名投票のため、事実上はあり得る。
しかし、自分自身への投票を防ぐ巧みなシステムが作り上げられた。
つまり、必要な得票数を3分の2+1票と定めたのだ。
これらのシステムは、カトリック教会の歴史の中で
何世紀もかけて、
他国の干渉を防止し秘密を保持するため練り上げられてきたものである。
投票によって、一人の枢機卿が必要な票数を獲得すると、
礼拝堂内に枢機卿団秘書と教皇庁儀典長が呼び入れられる。
首席枢機卿は候補者に対し、教皇位を受諾するかどうか尋ねる。
教皇に選出された者は、
就任時に自身の教皇名を自ら決める慣習になっている。
新教皇はあらかじめ用意されていた
3つのサイズ(誰が選出されるか分からないので、複数サイズを準備)の
白衣の中から自分の体に合うものを選んで身にまとう。
そこで枢機卿団が待機している礼拝堂に戻り、
カメルレンゴから、新しい「漁夫の指輪」を受け取り、
祭壇近くにすえられた椅子について
枢機卿団一人一人からの敬意の表明を受ける。
次に助祭枢機卿の最年長者が
サン・ピエトロ大聖堂の広場を見下ろすバルコニーに出て、
ラテン語で新教皇の決定を発表する。
そして新教皇がバルコニーにあらわれて、
「ウルビ・エト・オルビ」(Urbi et Orbi、「ローマと世界へ」の意)ではじまる
在位最初の祝福を与える。
かつて教皇は教皇冠を受けていたが、
ヨハネ・パウロ1世によってこの戴冠式は廃止されている。
コンクラーベを扱った映画は
「天使と悪魔」「ローマ法王になる日まで」
「2人のローマ教皇」など
多数ある。
今回のように、教皇選挙だけに絞った映画は初めて。
ローマを訪問した観光客は、
コンクラーベの開催期にぶつかると、
せっかくヴァチカン美術館を訪問しても、
システィーナ礼拝堂には入れず、
ミケランジェロの描く
「最後の審判」
も天井画も
見ることが出来ない。
という不運。
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