空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『パリ タクシー』

2023年04月29日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

タクシー運転手シャルルは、
金欠で首が回らず、
実家の家を売ろうかと迷っている。
兄に借金もしている。
低賃金・長時間労働で家族と過ごす時間も取れない。
しかも、もう一度違反をしたら免停になる状況で、
びくびくしながら町を流していた。

そんなシャルルに、長距離客の話が舞い込む。
パリの南東部から北西部の養護施設まで
入居予定の老婆を送り届ける仕事だ。
マドレーヌという女性は92歳で、
長年住み慣れた家を名残惜しそうに見上げて乗って来た。
パリを斜めに横断する間、
マドレーヌはあちこち寄り道を指定する。
それは彼女が生まれた町、父親がナチに処刑された場所、
アメリカのGIと恋に落ちた思い出、
結婚して、DVの夫と息子と住んだ町など・・・
マドレーヌは、それぞれの場所との因縁を語って聞かせる。
それは、今の上品な容貌とは正反対の、
過酷で大変な人生だった・・・
ただのおしゃべりなおばあさんではなかったのだ。

というわけで、主な登場人物はシャルルとマドレーヌの二人。
車の中での会話に、
過去の情景が挟み込まれる。
そして、鬱屈を抱えたシャルルの心が溶け始め、
二人の間に心が通う。

どんな老人にも、
若い時があり、
未来への希望を抱く時があり、
恋に燃えた時がある。
その人生の断片
一人の老婆の口を通じて語られた時、
観る者も、その人生を辿ることになる。
そういう人生の機微を切り取った心に残る映画

乗客と運転手の心の触れ合いを描く作品は、
「ドライビング MISS デイジー」(1989))や
「グリーンブック」(2018)、
「パリの調香師 しあわせの香りを探して」(2020)、
「人生タクシー」(2015)などがあるが、
その一角に、本作が食い込んで、堅固な位置を占めた。
こういう話は、俳優の演技力がものを言う。
シャルルを演ずるコメディアンのダニー・ブーン
マドレーヌを演ずる国民的委シャンソン歌手リーヌ・ルノーの二人の味で成立する。
まさに配役の妙。
特に、リーヌ・ルノーは、撮影時、役と同じ92歳であったというから驚く。
46歳のシャルルと92歳のマドレーヌ。
丁度倍の年輪の差がかもしだす雰囲気が観客を酔わせる。

男尊女卑の暗い時代もあり、
老婆の生涯を通して、現代フランス女性史も描かれる。
重いテーマを絶妙なユーモアでくるむ、
脚本と演出が素晴らしい。
脚本・監督は、クリスチャン・カリオン

時折挿入される、シャンソンやジャズボーカルが耳を潤す。
パリの美しい街並みや交通事情がよく分かる。
タクシーの中の描写は全編スタジオで撮影された。
パリの道路を走った映像をスクリーンに映し出して、
窓外の風景として描いた。
ブルースクリーン撮影ではなかったのだ。

ラストは予定調和的だが、
それで観客はほっとする。
心に染みとおる映画だ。

編中出て来る110万ユーロは、
日本円にすると、1億5千万円。

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。