空飛ぶ自由人・2

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映画『ノースマン』

2023年01月30日 23時00分00秒 | 映画関係

 [映画紹介] 

「ウィッチ」(2015)、「ライトハウス」(2019)の
超個性派監督ロバート・エガース
大資本にオファーされて作った
壮大なスケールのファンタジー巨編。

北欧の王国の世継ぎ、10歳の王子アムレートは、
父オーヴァンディル王を叔父のフィヨルニルに目の前で殺され、
母親のグートルン王妃も連れ去られてしまう。
アムレートはたった一人、ボートで島を脱出する。
それから十数年後、
アムレートは獰猛なヴァイキング戦士の一員となっていた。
ある日、スラブ族の魔女と出会い、
己の運命と使命を思い出したアムレートは、
フィヨルニルが、その後、国を奪われ、
アイスランドで農場を営んでいることを知る。
奴隷船に乗り込んだアムレートは、
親しくなった女性オルガの助けを借り、
叔父の農場に潜入し、しばらく正体を隠し、奴隷として仕え、
働きながら身辺を探る。
母は叔父との間に二人の子供をもうけていた。
そして、壮絶な復讐物語が始まる。

王子が、叔父によって殺された父王と
叔父の妻とされた母の復讐のために
叔父と対決する物語。

と聞くと、あれ、どこかで聞いた話、
と思う人もいるだろう。
そう、シェイクスピアの「ハムレット」ですね。
若い人は「ライオン・キング」の方か。

実は、「ハムレット」そのものが、
北欧に伝わるこの伝説が元になっており、
その証拠に、王子の名前アムレートAMLETHの最後のHを始めに持って来ると、
ハムレットHAMLETになる。

デンマークの歴史家サクソ・グラマティクスが
12世紀に書いた「デンマーク人の事績」(Gesta Danorum )に
その王子の原話が出て来る。

というわけで、
この映画は、北欧を舞台にした「ハムレット」の源流となる伝説の話。
10世紀初頭で、
まだキリスト教は伝搬されたばかりの、
北欧の主神オーディンが支配する世界。
ヴァルハラだのワルキューレも出て来て、
まさしくワグナーの「ニーベルングの指環」の世界。
過酷な環境の中、奴隷はいとも簡単に殺され、
彼らの日常には、暴力と死、理不尽さが蔓延している。
画面は常に陰鬱で、宿命や呪いの雰囲気が横溢する。
そして、エガースのケレン味たっぷりの演出は、
しばしば登場する長回し(それほど長くはない)に、
人物と背景を見事に配置して、
神話の雰囲気を造成する。
アイスランドの荒涼とした自然が
この復讐劇の舞台としてふさわしい。
装置、衣裳、そして自然を通じて、
しばし北欧神話の世界に浸れる。
セリフはシェイクスピアばり。

錚々たるキャスト陣も目に豊か。
アムレートには、「ターザン:REBORN 」(2016)の筋骨隆々たるスウェーデン出身の
アレクサンダー・スカルスガルド


殺される父王にイーサン・ホーク
王妃にニコール・キッドマン
道化にウィレム・デフォー
オルガに「ウィッチ」にも出ていたアニャ・テイラー=ジョイ
仇の叔父フィヨルニルにクレス・バング
アイスランドの歌手で「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)のビョークなど。
予備知識がなければ、あれがビョークだとは分からないだろう。

こんな北欧神話の話、日本人には縁遠いが、
北米では昨年4月に劇場公開されるや
5週連続TOP10入りを果たしたというから、
アメリカの観客の奥行きは深い。

脚本は、同じくアイスランドを舞台にした「LAMB」(2021)のシオン&ロバート・エガース。

5段階評価の「4」

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