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映画『モリコーネ』

2023年01月22日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

映画音楽の大大大巨匠、エンニオ・モリコーネを巡るドキュメンタリー。
(日本題は「モリコーネ」だが、原題は「エンニオ」。)

彼の来歴を簡単に紹介すると、
1928年ローマ生まれ。
幼少期よりトランペットを習い始め、
サンタ・チェチーリア音楽院で作曲を学ぶ。
同音楽院卒業後、伊RCAレーベルの看板アレンジャーとして活躍し、
「ファシスト」(1961)で単独名義による映画音楽作曲家デビュー
セルジオ・レオーネ監督とのコンビ第1作「荒野の用心棒」(64)が世界的な注目を集め、
以後「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(84)まで
レオーネの全監督作で音楽を担当。
「ニュー・シネマ・パラダイス」(88)で初めてタッグを組んだ
ジュゼッペ・トルナトーレ監督とは
「ある天文学者の恋文」(2016、映画音楽での遺作)までコンビを組み続け、
生涯に500本以上の映画・テレビ音楽を手がけた。
「ヘイトフル・エイト」(2015)でアカデミー賞作曲賞受賞
2020年91歳で逝去

モリコーネ自身に対するインタビューを柱とし、
セルジオ・レオーネ、ベルナルド・ベルトルッチ、クリント・イーストウッド、
クエンティン・タランティーノ、テレンス・マリック、ピエル・パオロ・パゾリーニ、
ジョン・ウィリアムズ、ハンス・ジマー
ジャンニ・モランディ、ジョーン・バエズ、
ブルース・スプリングスティーン、クインシー・ジョーンズなど、
錚々たる顔ぶれの映画監督、作曲家、歌手たちのインタビューに加え、
映画の一場面とワールドコンサートの模様などを織り込む。
2時間20分と、この種の映画としては長いが、
それだけ素材があふれたということだろう。
時間の長さでの退屈は感じさせない。

監督は、「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ


「ジュゼッペ以外はダメだ」と、
モリコーネ自身が本作の監督に指名し、
密着取材は5年以上に及んだという。
ということは、インタビュー時は
85歳から90歳ということになるが、
眼光鋭く、かくしゃくとしており、
作曲した映画の経過と音楽を全て記憶しているのがうかがえる。
そして、回想と共に出て来る映画が、
太陽の下の18歳(1963)、荒野の用心棒(64)、夕陽のガンマン(65)、
アルジェの戦い(66)、ウエスタン(68)、シシリアン(69)
死刑台のメロディ(71)、デカメロン(71)、カンタベリー物語(72)
1900年(76)、天国の日々(78) 、Mr. レディMr. マダム(78)
エーゲ海に捧ぐ(79)、華麗なる相続人(79)、
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(84)、ミッション(86)


アンタッチャブル(87)、ニュー・シネマ・パラダイス (88) 、バグジー(91)、
海の上のピアニスト(98)、鑑定士と顔のない依頼人(2013)、ヘイトフル・エイト (2015) 
と、おお、あれもモリコーネだったか、これもモリコーネだったか、
と驚きを感じさせてくれる。
太陽の下の18歳では「サンライト・ツイスト(ゴーカート・ツイスト)」、
死刑台のメロディでは、ジョーン・バエズが歌う「勝利への讃歌」をヒットさせた。

驚きの話も多くある。
かつては映画音楽の芸術的地位が低かったため、
幾度もこの仕事をやめようとしたという衝撃の事実を告白。
10年ごとに「もうやめる」と言いながら、最後は言わなくなったと。

「荒野の用心棒」では、
最後の対決シーンで、「リオ・ブラボー」(1959)の中の
「皆殺しの歌」を使いたいというレオーネ監督に対して、
既成の曲を使うことに難色を示すと、
「じゃあ、似た曲を書いてくれ」との注文で、
あの曲が出来たという。
実に良く似た曲で、
トランペットの奏法も指定する徹底ぶり。
「皆殺しの歌」は、映画音楽家ディミトリ・ティオムキンの作曲。
メキシコ軍がアラモの砦を攻撃する前に流したといわれる曲を元に
ティオムキンが作ったもので、
「アラモ」(1960)の中でも使われた。

(この「荒野の用心棒」のくだりでは、
黒澤明の「用心棒」 (1961) の短い2カットが挿入されている。

というのは、この映画、
「用心棒」の断りなしのリメイクだったのだ。
その後、訴訟に発展するのだが、
そのことについては、
日を改めて紹介したい。)                                

「天地創造」(1966)の音楽は、
最初、恩師であるゴッフレド・ペトラッシに依頼されたが、頓挫し、
モリコーネに依頼が回って来た。
モリコーネはやりたかったが、
RCAとの契約に縛られて断念、
結果として黛敏郎が作曲した。
このドキュメンタリーでは、
天地創造のアダムの誕生のシーンなどにつけたモリコーネの曲が披露される。

毎日の生活も紹介され、
早めに就寝し、午前4時には起きて、
朝に運動や作曲を行うという生活習慣。
作曲は楽器を使わず、
直接五線紙に音符を書き込む。

アカデミー賞の作曲賞には、
1978年「天国の日々」、1986年「ミッション」、
1987年「アンタッチャブル」、1991年「バグジー」、
2009年「マレーナ」でノミネート。
しかし、いずれも受章に至らず、
「どうせ取れないんだ」などと愚痴ったりしている。
2006年に功労賞を授賞したのは、そのお詫びの意味もあった。
しかし、2015年「ヘイトフル・エイト」で見事受章


この時のモリコーネは本当に嬉しそうで、
やはり名誉賞では満足できなかったのだろう。

日本でも、2003年にNHKの大河ドラ「武蔵 MUSASHI」や
「特集ルーブル美術館」音楽を担当している。

というわけで、
偉大な映画音楽作曲家の軌跡を辿る奇跡のような映画
映画の歴史を辿るという意味もあり、
最後は深く胸を打たれた

5段階評価の「5」

TOHOシネマズ他で上映中。