空飛ぶ自由人・2

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映画『とべない風船』

2023年01月18日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

                                   
瀬戸内海に浮かぶとある島。
その島に小島凛子という女性が船でやって来る。
島を終(つい)の住処(すみか)としている父・繁三に会うためだ。
繁三は定年まで教師を勤め、今でも「先生」と呼ばれていた。
母はこの島で亡くなった。
そんな繁三のために毎日魚を持ってくる青年がいた。
村田憲二と言い、何か暗い影を背負っている。
島には漁港以外何もなく、
小学校はあるが、生徒は6人しかいない。

凛子は元教師で、今は派遣の身。
契約満了を機に、父のもとに身を寄せて来たのだ。
教師の時、子供との関係や親たちとの関係で挫折し、
鬱病を患った過去を持つ。
今は、一度教職に戻ろうかと悩んでいる。

漁師の憲二は、妻と子供と楽しく暮らしていたが、
数年前に起きた豪雨災害によって、妻子を失い、
その心の傷からまだ立ち直れずにいた。

などという状況が、物語が進むにつれて、分かって来る。
憲二の家にはいつも黄色い風船が浮かんでいて、
凛子はそれを不思議に思っていた。
そして、小学生が行方不明になる事件や
漁港の行く末に絶望して、島を離れる青年や
繁三の心臓があやしくなって島から緊急搬送されたり、
亡くなった母の書いた日記などが出て来て、
憲二や凛子の心境が揺れ動く・・・

腹に一物を抱えた人物が
あるコミュニティーを訪ね、
そこでの人々と交流するうちに
自分が癒されて再起すると共に、
住民たちも変化させて去っていく。
というパターンはやり尽くされた感があり、
新味はない。
だが、それも一つのジャンルと考えれば、
この作品は、そのジャンルの中でも質が高いと言えよう。

起こる小さな事件の積み重ねの中で
次第に明らかになって来る一人一人の思いの交錯が
胸に迫る。
亡くなった凛子の母の存在さえ、
憲二の人生に関わって来る。
そして、凛子の上にも・・・。

そして、凛子が島を離れる時、
もう一つの別れが描かれる。
その映像表現は爽やかで、胸を打つ。

小品だが、映画的には良質な成果を上げた本作。
その成功の要因は、
瀬戸内海の島という設定の良さ、
それに、何と言っても憲二を演ずる東出昌大の演技によるところが大きい。


この東出という俳優、一定の地位と人気を得ながら、
スキャンダルで道を閉ざした、というのが世間の目だが、
こういう仕事で実績を上げていけば、
いつの日か報われる時が来るだろう。

監督は広島出で長編映画第1作の宮川博至
凛子を「ドライブ・マイ・カー」の三浦透子


父の繁三を小林薫が演ずる。

多島美」という言葉があることを初めて知った。

多島美(たとうび)・・・
瀬戸内海の内海に大小の島々が並ぶ様子を形容した言葉。
時間帯によって様々な色に輝く水面と
島々のシルエットが織りなす美しい風景は
古くから日本国内外の人々を魅了してきた。

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。