空飛ぶ自由人・2

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小説『切り裂きジャックの告白』

2023年01月23日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

中山七里による
警察医療ミステリー、刑事犬養隼人シリーズ第1作。
(シリーズは第6作まである。
 第5作「カインの傲慢」は、本ブログでも紹介した) 

深川署の目と鼻の先にある木場公園で、
女性の惨殺死体が発見される。
死体からは、内臓が全て取り払われていた。
現場に残ったおびただしい血のあとから、
その場で殺害し、解体作業まで行ったとみられ、
解剖の知識を備えた専門家の関与が疑われた。

事件からまもなく、
帝都テレビに犯行声明文が送りつけられる。
“彼女の臓器は軽かった―" という臓器についての言及と
“わたしは時空を超えてまたこの世に甦ってきた" という一文、
最後には“ジャック" という署名。
1888年、ロンドンを恐怖のどん底に陥れた、
5人の売春婦が鋭利な刃物でのどを掻き切られ、
臓器をもちさられた「切り裂きジャック事件」(ジャック・ザ・リッパー)を
誰もが思い浮かべた。

間を置かずに、
似たような惨殺死体が今度は埼玉県警管内で見つかる。
手口が同じであることから連続殺人事件であると判断され、
捜査は警視庁と埼玉県警の合同捜査となる。

警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人
埼玉県警の古手川和也とコンビを組んで捜査にあたることになった。
しかし2件の共通点は見出せない。
二人の生活圏は離れており、
接触の痕跡は全く見つからない。
そして、ジャックからの2通目の犯行声明が届き、
被害者の臓器の一部が一緒に送り付けられてきた。

二人の接触点を探る中、
犬養と古手川は、
被害者が2人とも過去に同じ死者から臓器を提供され、
移植手術を受けていることに行き着く。

功を焦った管理官がテレビで近日中に犯人を逮捕するという宣言をするが、
それを嘲笑うかのように今度は府中署管内で第3の死体が発見された。
今度の被害者も同じ人物から臓器移植を受けており、
担当の移植コーディネーター
高野千春という人物であることを突きとめた2人は、彼女の元へ向かう・・・

これに、犬養の娘で、
腎不全を患い、腎移植を控えた13歳の娘の話、
殺された被害者に臓器を提供した青年の母親の描写が重なる。

物語の背景にあるのは、臓器移植の問題
ジャックの提起により、
その背景が明らかになると、
マスコミはその問題を取り上げる。
臓器移植は、脳死判定された患者の
生きている臓器を摘出することから、
激しい論議を呼ぶ。
臓器移植の第一人者の医師と
僧侶との論争もテレビで中継される。

「臓器移植は生者の肉体から健康な臓器を抜くこと」
という事実の前、
遺族の説得、
ドナーからの臓器の摘出、
レシペントへの移植の現場など、
リアリティのある描写が続く。
執筆にあたって改めて取材はせず、
手術のシーンも以前テレビで見た心臓移植の番組を元に書いたが、
専門家に査読してもらっても医療的な記述でミスは無かったという。

犯行には専門的技術が必要なことから、
怪しいと思われる登場人物は早々に除外され、
この人しかいるまい、
という人物が犯人として逮捕されて、
おや、意外性がない、
と思っていたら、
最後にもう一捻りが準備されていた。

それにしても、動機は納得できない。
ある事柄を隠蔽するためだというが、
その事柄は、放置しておいても、
表に出ることはないと思われるからだ。
いくらなんでも、あんな動機で、
この陰惨な事件を起こすとは思えない。

捜査に当たる犬養と古手川のコンビの組み合わせが面白い。
古手川は中里の他の作品でも登場する人物。

小説の中にも描かれているが、
山中教授のiPS細胞実用化されれば、
臓器は自己増殖できるので、臓器移植そのものがなくなるそうだ。
ドナーを探す必要もなく、拒絶反応もない。
従って、免疫抑制剤も不要になる。
実用化まで5年ほど、というが、
この本の発刊が2013年だから、
あれ?

2015年にテレビ朝日系で「土曜ワイド劇場特別企画」として
テレビドラマ化された。
主演は沢村一樹。