今、「統一教会」がマスコミを賑わせている。
安倍元首相の銃撃犯人の動機が
元首相が統一教会シンパだと思い込み、
母の財産を奪ったこと、家庭が崩壊したことの恨みを
安倍元首相に向けた、
という流れで、
統一教会の長年の悪行が暴かれ、
同時に、統一教会と国会議員との関係が
国会の場で正される、
野党とマスコミに恰好の攻撃材料を与えている。
自民党の幹部が、政治と統一教会との関わりを
「何が問題なのか分からない」
と発言して総攻撃されているが、
これは、国会議員は票が欲しいことから、
様々な団体の行事に出席したり、祝辞を送ったりするという
一般論から発言したものだ。
確かに、国会議員は、宗教団体や労働団体、業界団体との関係は深く、
中には宗教団体丸抱えの政党だってあるくらいだから、
そういう理論も成り立つだろう。
しかし、その発言者が見落としていることが一つある。
統一教会が、「あの」「悪名高い」「カルト教団」だということだ。
つまり、反社と同等の位置づけで、
そういう団体と関係を持ったこと自体が問題にされている。
(統一教会は名称変更して、「世界平和統一家庭連合」という名前なので、
報道では「旧統一教会」と注釈が付けられているが、
本稿では、本質は変わらないことから、
「旧」なしの「統一教会」という名称で記述する)
過去、統一教会がマスコミを賑わしたことは、
大きく3回ある。
一度目は1960年代後半の「親泣かせ原理運動」。
大学生たちが布教に熱心なあまり、学業放棄したために、
反対父母の会がマスコミに窮状を訴え、世間の耳目を集めた。
ただ、当時は学生運動華やかなりし頃で、
左翼セクトで学業放棄する学生もおり、
それに対して親が立ち上がる、
ということはなかったのので、
過保護な親たち、と批判する見方もあった。
そして、報道される学生たちの姿は、
真面目で、真摯で、
その共同生活は原始キリスト教の姿のようにも見えた。
2度目は1992年の合同結婚式。
アイドルの桜田淳子や山崎浩子らが参加したことで、
マスコミは連日、これを大々的に取り上げた。
と同時に、それまでまだマスコミが触れていなかった
霊感商法や献金などの集金システムが問題にされた。
そして、今回の安倍首相銃撃事件から派生した
統一教会の実態暴露。
それも、今までにないほど、かなり多岐にわたり、
全貌が詳細に報道されている。
最初の親泣かせ原理運動と合同結婚は、
本質的には信仰上の問題であり、
そういう信念の者は、それに基づいて道を行けばいいわけで、
それぞれの生き方の問題だといえる。
しかし、霊感商法や財産召しあげの献金問題は違う。
それは犯罪行為だからだ。
しかも、それが団体ぐるみの組織犯罪だったことだ。
なぜ、初期の頃の原始キリスト教の共同生活のような、
一種純粋な宗教活動から逸脱したのか。
それは、第一に「金」の問題がある。
教団の運営には金がかかる。
そして、韓国の教会は金が必要だった。
払い下げの土地購入の代金、
アメリカで豪邸を買うための費用、
キリスト教の牧師や大学教授たちを抱き込むための費用、
新聞社を立ち上げる費用、
華々しい大会を開催するための費用。
そして、教団の幹部たちが
好き勝手に事業を起こして失敗するのを支える費用。
お金を集める力のない韓国の教団は、
経済大国の日本の組織が金を集める能力があると判断すると、
そのための理論構築をし、
日本が韓国を支えるべしと、
集金の使命を与えた。
その結果、次々と重いノルマがのしかかってきた。
証券会社でも、
ブラック企業でも
ノルマの激しいところは、
構成員は、金集めに工夫する。
そのために違法な手段にも手を延ばしてしまう。
統一教会の場合、
人参茶の販売などをしているうちはよかったが、
壺や印鑑に宗教的意味を持たせて法外な価格で売りつけるようになった。
霊感商法の始まりである。
それは、「先祖の罪の清算」などという
教義から色付けされていた。
やがて、もっと直接的に
財産のある信者の資産を巻き上げる方法に発展した。
それも、「先祖の罪の血統からの解放」などという宗教的意味を持たせて。
賢人・曽野綾子さんが
宗教が正しいか、間違っているかを判断する基準は二つある、と言った。
一つは、お金を集める宗教は全て偽物である。
もう一つは、教団の上の者たちが、質素な暮らしをしているか否か。
お金については、聖書的根拠がある。
イエスは弟子たちを宣教に派遣する時、
指示を与えた中に、
「ただで受けたのだから、ただで与えなさい」
と言ったということが福音書に書かれている。
また、使徒行伝では、
救いの力を金で買おうとした人に、
ペテロは叱っている。
「神の賜物が金で得られるなどと思っているのか」
このように、神の救いは、金銭によらない、
一方的な恵みなのであり、
弟子たちが、救いを与える見返りに
金など求めてはならない。
まさに、
「ただで受けたのだから、ただで与えなさい」だ。
先祖の解放のために、財産を捧げよ、
などというケチな神ではない。
罪からの救いを金銭で計るような神ではない。
神は「愛」と「ゆるし」の神である。
だから、救いの恩寵が金額で計られることはない。
イエスは、金持ちが献金するよりも、
貧しい寡婦がしたわずかなお金を見て、
「彼女は誰よりも捧げた」と言った。
仏教説話にも「貧者の一灯」という話もある。
そういう意味で、
統一教会は、まさしく偽の宗教である。
そして、幹部が質素な暮らしをしているかといえば、
そういう人もいるだろうが、
アメリカの豪邸、教祖の家族の豪勢な暮らしを見れば、
やはりニセモノだと言わざるを得ない。
そして、間違いのもう一つは、
政治と近づいたこと。
オウム真理教も、国政選挙に出て惨敗したことから、
その性格を過激な方向に変えてしまった。
統一教会は、政治家と結託することによって、
政治に食い込もうとし、
実は、それが堕落の始まりだった。
票田としてはたいしたことはないが、
運動員としては、真面目で真剣な若者たちだから、よく働いた。
海千山千の政治家たちとの利用し合う関係は、
宗教者としての魂を腐敗させていったのだ。
最後には、統一教会の悪名を払拭するために、
団体の名称まで変更した。
1994年の統一教会創立40周年にあたり、
文鮮明教祖は統一教会の時代が終わったことを宣言し、
新しい組織を発足させた。
その名も「世界平和統一家庭連合」。
その名前には、もはや宗教の香りはしない。
社会運動団体もどきだ。
しかも、「平和」「家庭」という
誰もが反対しない、心地よい言葉を用いて。
信者たちは疑問を感じなかったのだろうか。
自分たちの理想をかかげた団体名を変更する重大事件に。
統一教会の正式名称である「世界基督教統一神霊協会」とは、
キリスト教を統一し、宗教を統一し、
世界を統一するという
理想を掲げた旗印ではなかったのか。
そして、もう一つの欺瞞。
2012年9月3日、文鮮明教祖の死去。92歳。
妻の韓鶴子氏が組織全体の責任者となる。
しかし、おかしくはないか。
統一教会とは、
文鮮明教祖を再臨主とする団体だったはずだ。
2000年前、イエス・キリストが完遂しなかった救いの使命を
再臨主たる文教祖が成し遂げるということが、
中心の中心、骨の骨だったはずだ。
その再臨主が亡くなってしまった。
使命を果たないままに。
信者たちは、疑問と失望を感じなかったのだろうか。
文教祖の使命はご夫人に引き継がれたという。
現在79歳の夫人が亡くなれば、その子どもが引き継ぐだろう。
ところが、その文家の内情はどうか。
14人いる息子娘は四散状態。
特に七男の文亨進は、
「家庭連合幹部と母親韓鶴子女史が、後継権を奪い、
韓鶴子女史が自ら教主となり、相続権を奪われた」
と主張して、分裂活動を行い、
サンクチュアリ教会という分派を設立。
これが「世界平和統一家庭連合」の内実である。
今回の問題は、
統一教会の問題を白日のもとにさらしたい、
という銃撃犯人の思う壺になった。
しばらく統一教会は立ち直れないだろう。
それにしても、
手製の銃を使って、
たった2発の銃撃で、
標的に致命傷を与えることが出来るとは。
普通、拳銃で至近距離でも当たらないとされているのに。
その上、犠牲者は、日本の憲政史上最長の在任期間を果たし、
世界的にも影響力を持つ人物だったとは。
もし、他の政治家が標的で、
また、負傷をさせただけなら、
こんな大問題にはならなかっただろう。
信じられないような常識破りの警備体制も含め、
万に一つの銃撃成功。
オカルト的で恐縮だが、
何か、目に見えない力がそうしたとしか思えない。
ただ、「親泣かせ原理運動」の頃の彼らは、
共同生活を楽しくすごし、
廃品回収で生活費を稼ぎ、
パンの耳を食べて質素な生活をし、
布教活動に全てを捧げていた。
それは、福音書にあるイエスの集団のようなものだったかもしれない。
原始キリスト教とは、そういう原始共産制の集団だった。
イエスの当時でも、ペテロのように漁師をやめて集団に身を投じる人などいて、
きっと社会的には問題があったに違いない。
統一教会は、組織が大きくなるにつれて、
金と政治という二つの「魔物」に魅入られて変貌してしまった。
キリスト教も大きくなるにつれて同じ道を行き、
最後には、南米のインカ帝国やフィリピンなどで、
侵略者に手を貸してしまった。
どんな宗教も
小さい時は美しく、大きくなると堕落する。
もし、1960年代後半の「原理運動」の若者たちが
質素な生活のまま、
正当な仕事で金を稼ぎ、
その金を世のため、人のために使っていたら、
こういう異形な教団にはならなかっただろう。
そういう意味で、
宗教の陥る危険を回避できずに終わった一つの集団の
終焉を見る思いがする。