空飛ぶ自由人・2

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小説『救国ゲーム』

2022年08月23日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

SNSの世界で二人の男が論争して、
日本全国の注目を浴びていた。
一人は限界集落を奇跡の復活に導いたカリスマ・神楽零士。
もう一人は、女の能面をかぶり、
音声を変換した動画で、
過激な主張をする「パトリシア」。
二人はSNS上で激しくバトルを繰り返していた。
パトリシアは、ある提案を政府が実行しなければ、
60日経過後、行動を起こすと予告。

その61日目、神楽零士が殺される。
場所は神楽が復活させた僻地の奥霜里集落。
しかも神楽の死体は首が切断され、
体は発見後、炎上して黒こげになり、
首は配送不可能な場所で発見される。

パトリシアが犯行を明かし、
政府に対しての要求が果たされなければ、
ドローンで地方都市を攻撃すると宣言する。

事件のあった奥霜里集落の住人・晴山陽菜子は
真相解明のため、旧知の仲の官僚・雨宮に協力を要請する。
雨宮は、ある男が犯人だと指摘するが・・・

という、本格的謎解きミステリー。
神楽の殺害と、死体の猟奇的発覚の謎は、
雨宮によって解かれるが、
相当無理のある内容。
バトリシアの正体も、
予想の範囲。
途中、視点の混乱があり、
誰が主人公だか分からなくなる。
また、過去の話も混乱を呼ぶだけ。

というわけで、ミステリーとしては、
相当な瑕疵があるのだが、
注目したいのは、
パトリシアと神楽の論争内容
バトリシアの主張は、
日本の国家存続のため、
財政のお荷物である地方を切り捨て
破綻を回避せよというのだ。

そして、神楽殺害後、政府が自分の主張通りにしなければ
どこかの地方都市をドローンで無差別攻撃するから、
国民は命が惜しければ政令市か東京特別区へ移住せよと迫る。
つまり、国民全員(都市部を除き8000万人)が人質になる。
ちなみに、バトリシアとは、
愛国者=パトリオットと救世主=メシアをあわせた名称だと自称する。

パトリシアの主張は、ある点で当たっている。

経済的に不合理なすべての地方都市を放棄し、
あらゆる政策資本を大都市圏にのみ集中投下すべきではないか、ということ。
「あたくし、ずっと、疑問だったんでござんす。
どうして東京など“中央”がお稼ぎになった大事な大事なお金を、
この国の鄙びた場末の“地方”へせっせと注ぎ込んでおられるんだろうって」

政府への要求とは、
全ての過疎対策関連予算・施策お撤廃を表明し、
今後それらの政策資本を
政令市および東京特別区のために投じると宣言せよ、
というもの。
そして、その本丸は、
地方交付制度の撤廃だ。

地方救済か、はたまた切り捨てか

という命題。

そして、30日という日限を切ってのテロ宣言。

これに呼応して、「亡国教団」なるものが出現し、
大都市圏への移住を煽動する。
匿名掲示板には、
「いつまでも地方に住み続ける
国家的反逆者どもを皆殺しにする」
などという書き込みも現れる。
政令市および東京特別区のビジネスホテルは
避難民によって軒並み満室になる。

こうして、「大都市vs地方」という、国家的分断にまで至る。

パトリシアの主張で欠けているのは、
地方の農業など、
国の食糧を支える分担なのだが、
それについては触れていない。

そして、事件が終結した後の
日本の行方に対しても言及していない。

そういう意味では、
問題提起的には面白いが、
結局はうまい素材を最後まで料理しそこなった、というべきだろうか。