[書籍紹介]
「心淋し川」(2021)で直木賞を受賞した西條奈加の作品。
名主の書役と言う職を得て
老後は歌など詠みながら
静かに過ごそうと思ってたお麓(ろく)。
その平穏な暮らしはわずか一年で終わりを迎えた。
長屋に50年来の幼馴染みが引っ越して来たのだ。
能天気なお菅(すげ)と、派手好きなお修(しゅう)。
二人の幼馴染みは毎日お麓を訪ねてきては、
どうでもいい話をしゃべり散らす。
果ては朝食は一緒に取ろうという。
何が悲しくて婆三人がつるまなくてはいけないのか。
お麓はこの先、二人とうまくやっていけるのか。
クセ強の二人に振り回されるお麓は、
安穏に暮らすはずの余生はどうなってしまうのか不安がつのる。
ある日、お菅が行き倒れの母子を見つけて連れて来る。
母親は亡くなり、口をきけない女の子が残った。
身よりを聞いても、答えられない。
名前も言えない少女に
とりあえず、お萩という名をつけて、
三人はそれぞれの得意分野を教えながら面倒みていくことになり、
知らぬ間に、孫のように愛情を持ち始める。
しかし、お萩は、どこか上品で、
いいところのお嬢さん風なのが気になる。
あることをきっかけに、
お萩が何者かが分かり、
三人は悪者と対決することになるが・・・
「女性の老後」という現代的なテーマを
江戸を舞台に、三人の婆さんたちの日常を
その周りで起こる悲喜劇として、
コミカルに描く。
歌の師匠の、子ども時代の祖父との会話。
「悲しいか、小一郎。
その悲しみは、いま、
おまえだけのものだ。
世の何人にも、察してはもらえぬ」
そして、その気持ちを歌にするよう勧める。
「姥玉(うばたま)のかしましき声
東風(こち)に乗せ
夜着返す子の 夢に届けむ」
が題名の由来。