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空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『姥玉みっつ』

2025年05月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「心淋し川」(2021)で直木賞を受賞した西條奈加の作品。

名主の書役と言う職を得て
老後は歌など詠みながら
静かに過ごそうと思ってたお麓(ろく)。
その平穏な暮らしはわずか一年で終わりを迎えた。
長屋に50年来の幼馴染みが引っ越して来たのだ。
能天気なお菅(すげ)と、派手好きなお修(しゅう)。
二人の幼馴染みは毎日お麓を訪ねてきては、
どうでもいい話をしゃべり散らす。
果ては朝食は一緒に取ろうという。
何が悲しくて婆三人がつるまなくてはいけないのか。
お麓はこの先、二人とうまくやっていけるのか。
クセ強の二人に振り回されるお麓は、
安穏に暮らすはずの余生はどうなってしまうのか不安がつのる。

ある日、お菅が行き倒れの母子を見つけて連れて来る。
母親は亡くなり、口をきけない女の子が残った。
身よりを聞いても、答えられない。
名前も言えない少女に
とりあえず、お萩という名をつけて、
三人はそれぞれの得意分野を教えながら面倒みていくことになり、
知らぬ間に、孫のように愛情を持ち始める。
しかし、お萩は、どこか上品で、
いいところのお嬢さん風なのが気になる。
あることをきっかけに、
お萩が何者かが分かり、
三人は悪者と対決することになるが・・・

「女性の老後」という現代的なテーマを
江戸を舞台に、三人の婆さんたちの日常を
その周りで起こる悲喜劇として、
コミカルに描く。

歌の師匠の、子ども時代の祖父との会話。

「悲しいか、小一郎。
 その悲しみは、いま、
 おまえだけのものだ。
 世の何人にも、察してはもらえぬ」
そして、その気持ちを歌にするよう勧める。

「姥玉(うばたま)のかしましき声
 東風(こち)に乗せ
 夜着返す子の 夢に届けむ」
が題名の由来。


小説『浅草寺子屋よろず暦』

2025年05月02日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

浅草寺境内の正顕院で寺子屋を開いている大滝信吾。
実家は兄が継ぎ、350石で御前奉行をつとめているが、
信吾は深川芸者を母とする妾腹の弟。
そこで、家を出て、正顕院の住職光勝の世話で
子どもたちを相手に寺子屋をやっている。
その子どもたちのいろいろな問題を描く。
たとえば、父が博打をして借金を抱えている源吉、
博打場の用心棒をする父を案じる太一郎、
妾の子として苦しむおゆう、
突然得意先を失った棒手振り魚屋の息子三太、
その過程で、裏家業元締の
狸穴の閑右衛門との関わり。
更に、正顕院の住職光勝も元は武士で
敵討ちとして狙われている。
兄からは家を継がないかという話が来たり、
長屋の立ち退きや兄の食材調達にも支障が出る。
最後のくだりて、意外な人脈が発揮される。

ただ、訳ありの武士が市井の寺子屋を営む、
という話には既視感があり、新味はない。
が、下町の人々が生き生きと描かれる上、
四季折々の風景描写は、砂原浩太朗らしく、
読むのに心地よい。

角川春樹事務所の読書情報誌「ランティエ」に
2023年9月号から24年7月号に隔月連載したものを
一冊にまとめた。

 


小説『そばにはいつもエンジェル』

2025年04月28日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

先日紹介した「あこがれは上海クルーズ」と同じ
1984年に刊行された、
佐々木譲初期の作品。

レポート作成のため、
北信濃の高原のペンション「タンネンバウム」を訪れた
大学院生の小泉を迎えたのは、
初音という中学生の少女とエンジェルという名のシェパードだった。
少女は、もうペンションはしていないので、
他のペンションに移ってくれと言う。
今からでは困るとごねて、小泉が宿泊すると、
ペンションが置かれた状況が次第に明らかになって来る。
というのは、2週間前に経営者の両親が交通事故で亡くなり、
ペンションを売却して、
初音は横浜の伯父のところに身を寄せる準備をしているというのだ。
3年前、東京から引っ越して来た初音は、
田舎の学校には異質で、
孤立した存在だった。
居心地がいいので、ペンションに留まった小泉と
初音の間に次第に共感が生まれる。

しかし、周辺に不審な出来事が生ずる。
立て続けに人が死んでいるのだ。
初音を中学校でいじめていたリーダーの少女、
両親を騙してペンション経営に向かわせた役場の職員、
両親に融資し、次の客にペンション売却を進める銀行員。
10日あまりの間に次々と交通事故で死んでいる。
彼らは、両親を口車に乗せて、
ペンション経営に導いたにもかかわらず、
ペンション村計画を果たさず、
経営破綻させた人物だ。
もしかして、初音がそれに関与しているのではないか。
小泉は疑念を持つが・・・

という、ホラーあるいはサスペンス
初音は魔性の少女なのか、
エンジェルが果たした役割は・・・

ある初冬の土曜日から木曜日までの
わずか6日間の物語
ひねりはないが、すらすらと読めた。

 


小説『あこがれは上海クルーズ』

2025年04月20日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

広告代理店の制作部に勤める高城(たかぎ)祐二は、
学生時代、演劇を志すも、先輩の助言で、
「観る」立場に位置を定めていた。
24歳の時、ある新作芝居を観に行って、
連れの女性にすっぽかされ、
売り切れの切符を求めて劇場前に来ていた
17歳の新条奈美と一緒に観劇する。
その後、妙な経緯で、奈美の父親の工藤に引き合わされ、
東京に出て来る奈美の、かりそめの兄の立場に立たされる。
奈美は私生児で、
工藤は認知していない父親だった。
短大を受けずに演劇学校を受験した奈美は
上京して、女優を目指すのだという。
目標は吉田日出子。
物語は、二人が出会った芝居が上演されるたびに
二人が交流し、
祐二は会社で順調に出世していくが、
奈美は女優として芽が出ない。
そして決断する時が迫る・・・

佐々木譲という作家は、
警察小説の人だと思い込んでいたが、
こんな青春小説を書いていたとは。
「鉄騎兵、跳んだ」で「オール讀物新人賞」を受賞して、
作家デビューしたのが1979年で、
本作の刊行が1984年だから、
ごく初期の作品ということになる。
「笑う警官」や「警官の血」、
直木賞受賞作「廃墟に乞う」などを書く
遥か前のことだ。

24歳の青年と17歳の少女との、4年間の
みずみずしい交わりを、ある芝居を背景に展開する。
吉田日出子の名前は出て来るものの、
その芝居の題名は本編では書かず、
あとがきでその名を明かしているのは、
自由劇場の「上海バンスキング」

1979年1月、六本木自由劇場にて初演、
翌年の1980年3月、再演し、
1981年5月、銀座の博品館劇場に進出、
1983年3月には、博品館劇場をはじめとする各劇場においても上演された。
本作は4つの章に分かれているが、
上記上演時期と一致している時系列。
「上海バンスキング」は、
その後も全国公演など、
小劇場演劇としては記録的なロングランとなり、
当時の劇評家たちに絶賛された。

作者は斎藤憐で、
岸田國士戯曲賞を受賞、
演出は串田和美
主演は吉田日出子
昭和初期の日中戦争時の上海を舞台に、
時代に翻弄されたミュージシャンたちを描いた音楽劇で、
登場するバンドは、
プロのミュージシャンではなく、
劇団員によって編成されたものだった。


1984年と1988年の2度にわたって映画化されている。


バンスキングの“バンス" とは、
英語のadvance borrowing (前借り)を省略した日本語。

私は1990年のシアターコクーンでの再演を観ている。
立ち見だった。

吉田日出子の名前は、
昭和42年(1967年)の
NHKのステレオドラマ「叙事詩 曼荼羅」で知った。
ギリシャ悲劇をリオのカーニバルを舞台に映像化し、
1959年度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した
マルセル・カミユ監督の映画「黒いオルフェ」


青森のねぶた祭りを舞台に翻案した
寺山修司の脚本。
吉田日出子は主人公のチサを演じ、
声だけで、こんなに豊かな感情表現が出来るのかと
驚愕した覚えがある。
「叙事詩 曼荼羅」は、
今、私のパソコンで聴くことが出来る。

ついでに声だけで驚かされたのは、
市原悦子で、
昭和60年代の連続ラジオドラマを聞いて、
その声の演技の素晴らしさに、
この人はどういう人だろうと興味が湧いた。
その後の市原悦子の活躍はご存知のとおり。

題名の意味は、
吉田日出子を含む劇団のバンドと共に、
上海へ向かうクルージングのこと。
祐二と奈美は、参加できず、
横浜港でその船を見送るところで物語は終わる。

 


『ドイツの失敗に学べ! 』

2025年04月15日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

この本のタイトルは、
「ドイツに学べ」ではなく、
「ドイツの失敗に学べ」。


書いたのは、ドイツ在住の川口マーン恵美さん。
ドイツ人と結婚し、ドイツ在住40年。
辛辣にドイツの政治を観察している。
著作は30冊を越える。
拓殖大学日本文化研究所客員教授。
本書は2024年10月の発刊。

日本が学ぶべきではない、
ドイツの失敗は、主に4つ

その1、移民・難民政策

ドイツは移民・難民に国境を開いた結果、
治安が悪くなり、
援助のためのコストに歯止めがかからなくなってしまった。
詳しく書く必要もないほどよく知られていることだ。
やがて、生まれながらのドイツ人より
外国出身の人の方が多くなる可能性が高い。
つまり、国家は原型をとどめなくなる
だから、日本は移民を絶対に受け入れてはいけない

日本には、難民の受け入れをせっと進めろと主張する人がいるが、
そもそも、日本に飛行機でやってくる人が
真の難民であるはずはなく、

移民・難民を受け入れるということは、
その家族や子孫にも責任を負うことだ。
だから、目先の「人道的」正義感に目がくらんではならないのである。

その2、左巻きの政治への偏向

たとえば、2024年4月に成立した
「自己決定法」
それまでは、戸籍に記載された性別を変更するには、
一連の手続きが必要だった。
ところが自己決定法では、
医師の鑑定書は必要なくなり、
本人が役所に届けるだけでOKになった。
自分が男だと思えば男、
女だと思えば女になれる。
身体の形状、学問的な性別とは関係ない。
その前に、2017年、同性婚が従来の男女の結婚と
100%機同格になることが国会で決まった。
これらを推し進めたのが緑の党と民主党。
一体、ドイツはどこへ行くのか。

その3、脱原発と再エネ

その結果、電気料金が上がり、
電気を多く使う大企業が国外に脱出している。
風力発電はコストに合わない。
風頼みで、吹いても吹かなくてもコストがかかる。
現政権はエネルギーを絞り、
故意にドイツを脱産業に導いている。
世界の投資家はドイツを見限っている。
ドイツの国際競争力は24位にまで下落した。

4、中国に取り込まれた

16年間のメルケル政権で
中国との関係が深まり、
もはや抜け出せない地点まで来ている。
日本にも親中派の政治家が多い。
明日は我が身だ。


本書を読んで驚いたのは、
ドイツの政治家のお粗末さだ。
日本の政治家もひどいが、
ドイツもどっこいどっこいだ。

日本とドイツは似ている。
特に、歴史に対するトラウマ
ドイツはホロコーストの記憶だし、
日本は大東亜戦争の敗北だ。
その結果、押し付けられた歴史観に捕らわれ、
自国民独特の歴史観を持てないでいる。
だから、自国を悪く言う。
自国を誇ることは間違っていると思わされているのだ。

最後に著者は言う。

必要なのは、勇気と想像力だ。
そのための第一歩は、
日本の国土と国民を守ろうと思っていない政治家を選ばないこと。
勇気と想像力のない政治家はいらない。

ドイツの「失敗」に学びましょう。