[書籍紹介]
28歳の女性・青瀬は、
ベアリング会社の川崎事業所の
総務経理統括本部に勤めている。
統括本部と名前だけは立派だが、
会社の左遷部署と言われ、
無能の烙印を押された社員ばかりが集められた掃き溜め。
他部署から来る、山のような雑事の処理に追われ、
残業に継ぐ残業を強いられている。
青瀬は、会社がいやでいやでたまらない。
それでも、重い体を引きずって会社に行くと、
上司の前川部長がパワハラ体質で、
ささいなミスをあげつらい、
「説教部屋」と呼ばれる書庫に連れ込まれて、
延々と叱責を受ける。
部員の5人も同じ目に遭っていて、
ひそかに「前川を殺す」と怨嗟の声をあげていた。
その前川が、
ある日、突然失踪する。
「一身上の都合により失踪します」
との社内メールを送って。
パワハラに遭わずに済む夢のような一週間が過ぎ、
再び前川が川崎事業所の全従業員宛にメールを送って来た。
「私は殺されました」という表題のメールは、
「私を殺した容疑者は以下のとおりです。」と、
総務経理統括本部の5名の社員の名前があげられていた。
その結果、5名の社員は
会社の他部署から疑惑の目で見られることになる。
その疑いを晴らすために、
5人は前川の死の確認と犯人捜しに没頭するが・・・
と一味違ったミステリーの展開。
探偵役は、総務経理統括本部に派遣されている三井仁菜。
定時で帰る派遣社員だが、
不思議な才能を発揮して、
事件の真相に迫る。
前川の机の施錠された引き出しも
ピッキングで開け、
前川が秋葉原の
海賊がテーマのコンカフェの店員にご執心だったことが判明する。
しかし、その店員は前川と同じくして失踪しており、
やがて、殺人死体で発見される・・・
青瀬の方も、夜中の騒音でアパートから追い立てをくらう。
しかも、なぜか、前川殺害の容疑者であることも住民に知られているようだ。
意識朦朧となる青瀬の生活はどうなるのか。
唯一の支えは、推理を進める仁菜と、
元カレの佐伯の存在だが・・・
やがて、社員の一人の犯行であると判明し、
前川の死体も発見されるが、
最後に仁菜から「真相」が披露され、
同時に語り部であった青瀬が
どういう社員だったかが判明し・・・
青瀬の破綻した生活と
ぶっ飛んだ仁菜の行動が面白く、
ちょっと変わったミステリーを読んだ印象。
背景に加重労働、職場の悪意、限界会社員、社畜があり、
現代社会の歪んだ就労状況が読み取れる。
著者の遠坂八重は、「ドールハウスの惨劇」(2022)で
第25回「ボイルドエッグズ新人賞」を受賞した人。
本書は3作目にあたる。
表題は、青瀬と仁菜の
「こんなことなら会社に泊まればよかったよ。
満員電車エグすぎ」
「あれ、電車で来たんですか?」
「めまいひどくてさ。車だと事故りそうで怖かったから」
「事故ったら会社休めますよ」
「たしかに。でも下手したら死んじゃうし」
「死んだら永遠に休めますよ」
「たしかに」
という会話から来ている。
それにしても、青瀬のように
いやいやいやいや会社に勤めている人はいるんだろうな。