月のmailbox

詩或いは雑記等/小林貞秋発信。

詩-Space  月を描く (from1976詩誌「様相」No.3)

2011-02-16 22:06:17 | 文学

              いつもの手口で 地平線まで
              丸味を帯びた平行線を引き
              その果てに 白灰の月を描く
              
              敵同士が巡り合い 一方は窃盗犯
              他方は 冬眠から覚めたばかり
              谷間を挟んで互いに飛びかかろうとするが
              暗黒の谷底に恐れをなす

              収穫期には 鎌を方に倒し
              祭の酣にひっそりとした語らいを
              驚愕の唇は岸辺に脱ぎ捨て
              菫色の草叢で 獲物を焼く

              見渡せば見るものに事欠かない程
              窖は空中に浮かび脅迫の心理構造が
              果実となって 樹の枝先に吊り下がっている
              都会の街並みは 大海の海底で 長旅を続ける
              隣家への移民団の最後尾に加わろうとし
              怒る海神の判断を胸震わせて待ち
              夜明けと夕暮れが 手を取り合って水浴びしている
              話し方を知らない文盲の酋長は 知恵の実で
              でっぷりと腹を肥やして 飛鳥のエンジンを造り上げ
              全てを愛すると断言して 飢えた人々を残らず
              生涯を通じて養う意志で
              地上に生まれる生命を浄化する
              病にかかった大陸は ちょっとした躓きで
              深夜の素朴な村々に響き渡る読経の喉元を
              潰してしまったが 真夜中の太陽は
              のんびりと驢馬の手綱をひきながら いつもの寛容さで
              迷路などは在ったためしがないと
              発端と無限の狭間で罅割れた唇を舐めている歴史に
              四次元の時計を吊り下げて見せる

              落書きは証拠として残り易く
              一本の指を五等分に分割できないので
              とりあえず 煌々と光る月に突き返す

              土壇場まで行き着くと 知恵と才覚が
              面白可笑しくもない事の次第に
              切れ味の良い暗示と教示を
              爆弾投下よろしく 例の嘆きの港で
              破裂させること 目論む

              平行線は雷鳴と共に贅肉をつけます
              瞬く間に周囲の色つき風景は くねり始めて
              前後に揺れ動き 至る所が異常震域
              奇跡だ 奇跡だと叫び出させそうになります
              予感過信症なる汚名と共に
              直立不動を強いられた幽鬼が
              頭上に局部を載せて 平衡を保とうとしました
              そのまま眼は閉じずにと 厳命が下っています

              身を翻して 地下道やら路上の
              物陰やら のっぺりした平地の荷車引き
              運命の俗悪商人たち 不毛と肥沃がこねり回され
              煮えくりかえる熱湯の中へ 一本の線よりなる剣を携えて
              収録する音域を極度に狭めながら
              食べ残したより現実的な獣肉 ずぶ濡れの自然食品を
              蹴り飛ばし 蜜樹を消化する胃袋に収め
              乾燥しきった快晴の吉日 丈夫な樫の木を圧し折る                                      
              過熱気味な情報蒐集に直も駆けずり回り
              頭打ちの人影無くなった試合場の夜闇に放り出されるまで
              倦きもせずに 軋む無数の骨の瑞々しい運動に絡まりついている
              唐変木などと駄洒落を 突然開いた扉の手前や
              赤信号の点滅する神出鬼没の移動舞台裏で読み上げ
              退屈を凌ぐには絶好と 好んで一喜一憂する道化た方角も
              強制された選択からでもなく
              不死らしい頑強さで息を吹き返す
              他愛もなく凡庸な光景に原色を塗りつけ
              鳥を猛獣に変え 水路に浮かぶ木彫の仏像を毒草に変える  

              階段を一足跳びに十段上がり
              窓辺から疲労した長編物のフィルムを
              花吹雪のごとく散らす
              街角で曲芸列車に乗り込んだ物静かな人の
              忠告通りに

              画布はこの辺りで切り裂きます
              架空のひとごろしを行うことでは あの好事家とおなじ
              煙草の揉み消し方が優雅にすぎて
              幽霊陳列館と名付けられた陰房に
              送り届けられた

              生みの親は植物採集に出向いたまま帰らず
              大方年老い 手の届かない高値につり上がった虹を
              仰ぎ見ながら泥沼ではね回っているはず
              指定席券売り場の婆さんに姿を変えた
              占師の予言によれば

              見え透いた結末を前に 性懲りもなく続けられるかに思える
              乱舞だとか 生身を雁字搦めにせずには置かない
              嗜虐の配置図だとか 興味深くとっぷりと眺めさせてもらい
              白旗を掲げるよりは 喝采を送る

                                         1976  



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