月のmailbox

詩或いは雑記等/小林貞秋発信。

十歳が言う、父を宜しくお願いします。

2010-03-19 22:24:43 | Weblog
こういうシーンは、見られるものではないのではないかな。ということでは、なにか感動を覚えさせられるようなことでありました。その場にいて良かったな、と個人的には感じましたね。

今日、早稲田大学の小野記念講堂で、講演会「坪内逍遥の歌舞伎・舞踊作品をめぐって」という催しがありまして、講師に歌舞伎俳優の中村富十郎さん。聞き手には、演劇博物館顧問で、私が大学エクステンションセンターの授業で教えていただいたことのある鳥越文蔵先生。
最初に舞台の「良寛と子守」のビデオ上映があり、それからステージ上で富十郎さんが、鳥越先生の問いかけなどに応じて様々なエピソードを交えて語られ、進行していったわけなんですね。

ところで富十郎さんは、1929年生まれの方なんですが、1996年に33歳年下の女性と結婚されて1999年、70歳になられる時にご長男を授かっている。そして2003年に女のお子さん。そのお二人のお子さんも、今日はご両親と一緒に来ていたわけなんです。ステージ前の席で、父親の富十郎さんが話されるのを見、聞いていたわけなんですね。

それで最後に、鳥越先生がお子さんたちをステージ上に呼んで、すぐ脇に来た長男で既に鷹之資名を襲名している大君に先生がマイクを渡して、「なにかおっしゃりたいことがあったたら、どうぞ言ってみて下さい」というようなこと、優しく言われたんです。
十歳の大君は、すぐには思いつかない様子でちょっと間があったんですが、それから、
「みなさん、どうぞ、父を宜しくおねがいします」
そのように、言ったんですね。

会場に、笑いが広がりました。80歳の父親、富十郎さんは、照れるのとうれしいのと、みんな一緒になったような笑い顔で、椅子の上、体をゆらせていました。それは、なんとも言えない思いだったのでしょう。
十歳の息子が、八十歳の父親を、宜しくお願いします、と言ったその場面。
記憶に残るでしょうね。
コメント
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