試錬を耐え忍ぶ人は、さいわいである。
それを忍びとおしたなら、
神を愛する者たちに約束された
いのちの冠を受けるであろう。
「ヤコブの手紙」 1章12節
新約聖書 口語訳
人々は時に、食べ物以外のもので
飢えていることがあるものです。
私たちの子どもたち、夫、妻は食物、
衣服、住む所に飢えてはいないでしょう。
でも、彼らが一人っきりで淋しく、
見捨てられ、無視されている結果、
愛情に飢えていないとは断言できないのです。
こういう貧しさも存在しているのです。
マザーテレサ
(マザーテレサ『愛と祈りのことば』より)
★1%の富裕層を利する米国の民主主義
◆日本経済新聞2014年3月31日
(2014年3月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
不平等は米国の民主主義にとって悪いことだろうか。米連邦最高裁判所はそうではないと考えている。ウォーターゲート事件後に導入された政治資金規制に関して、最高裁は残っている規制を数週間以内に撤廃する見通しとなった。
▲コミュニティーサービスで食事を受け取るため並ぶ人々。シリコンバレーは米国で最も高い所得がある地域の1つだが、高いスキルを持たない労働者の賃金は伸び悩む(21日、サンノゼ)=AP
2010年には規制を一部廃止し、企業にも一般人と同じ言論の自由を認めた。今度は個人による候補者や政党への政治献金の上限を撤廃するとみられる。公平な社会であればさほど不都合は生じないだろう。だが、人口の上位1%が国富の3分の1以上を所有する経済状況では、そうした富裕層を生んだ共和制をむしばむことになる。人々が気に掛けるのは1%が支配する経済だが、それよりも1%の民主主義に注意を向けるべきだろう。
■少数が政治を支配する恐れ
このことが少数による政治支配につながるすることを懸念すべきだ。先週、共和党の複数の次期大統領候補者がシェルドン・アデルソン氏を表敬訪問するためネバダ州ラスベガスに足を運んだ。世界各地でカジノを経営する同氏は、脅威となるオンライン・ギャンブルの禁止措置を望んでおり、この主張を取り入れる候補者には数千万ドルを寄付する構えだ。実際には、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事やスコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事といった有望視される候補者は、うさんくささを感じているようだ。おそらくリック・サントラム氏のようなキリスト教保守派の候補が資金を受け取ることになりそうだ。一人の寄付で指名候補が変わるとしたら、共和党はだめになる。純粋な保守派は憂慮すべきだ。
※『ショックドクトリン』ナオミ•クライン(資料写真)
ヘッジファンドで巨万の富を築いたトム・ステイヤー氏の動きも懸念される。リベラル派の同氏は今度の中間選挙では地球温暖化対策を掲げる候補者に1億ドルを寄付するつもりだ。同氏の主張の是非はともかく、その狙いは世論を自らの意思に同調させ、オバマ大統領がカナダから米テキサス州に原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設計画を認可しないよう圧力を掛けることだ。
米国の最高司令官の周辺で容易にカネが動くとなれば民主主義は傷つく。不愉快な現実ではあるが、共和党も民主党も積極的にそうした働きかけを受け入れる姿勢で、あらゆる愛国者が憂慮すべき事態となっている。
■「王朝」支える豊富な資金
米国の建国理念は欧州の貴族的な腐敗の対極にあったはずだ。だが今や、米国では旧世界以上に世襲された財産がより確固としたものになり、かつて能力主義の象徴だったアイビーリーグ(米東部の名門大学)も遺物となっている。
政治でも「王朝」がかつてないほど定着してきた。16年の米大統領選がヒラリー・クリントン氏とブッシュ氏の一騎打ちになってもあまりおどろきはない。過去9回の大統領選のうち7回はブッシュ家かクリントン家から候補者が出馬した。次もそうなると実に10回のうち8回だ。
両家を支えるのは数十年かけて築いた資金援助者のネットワークだ。資金援助者がよくやってきたことは言うまでもない。まだ続きがある。ジェブ・ブッシュ氏の息子、ジョージ・P・ブッシュ氏はテキサス州公有地管理局の局長に立候補する。クリントン氏の娘のチェルシー・クリントン氏も政界入りの準備を進めているとみられている。
もちろん「王朝」はカネだけでなく、知名度の高さをもたらす。カネで選挙結果を変えられるわけではない。08年に無名だったオバマ氏がクリントン氏を破って民主党候補に指名されたように、米国の民主主義ではなお番狂わせが起きることもある。
※2012/12/27(木曜) 19:13
アメリカで一部の貧困層が車の中で生活
http://japanese.irib.ir/(資料写真)
しかしオバマ氏という例外がむしろ、動かしがたいルールを浮き彫りにした。同氏はより公平な社会を標榜したが、その努力は実を結んでいない。同氏の政権下で、米社会の格差は「華麗なるギャツビー」の舞台となった1920年代以来の水準まで広がっている。
■格差を抑えるのは政治の力
格差拡大が米経済の成長見通しに影響を及ぼすか否かでエコノミストの見方は割れている。上位1%が巨額の所得を得ることで中間層の消費意欲がそがれ、成長が阻害されるという主張がある。一方で、余剰利益を得た者はリスクを取るため、次世代の画期的な技術が生まれやすいという主張もある。
しかしエコノミストに議論を任せておくには重要すぎる問題だ。社会全体の純資産の中央値が1世帯11万3000ドルであるのに対し、米議員の純資産の中央値が100万ドル以上であることが果たして健全だろうか。1人1票から1ドル1票に変えるべきなのか。多くのエコノミストが同意するように、技術の進歩とグローバル化の効果で今後おそらく格差は想像以上に広がるだろう。現実にこれに対抗できるのは政治の力だけだ。
政治システムが社会の両極化を抑制するのではなく拍車をかけるのだとしたら、米国の民主主義にとって悲劇的なことだ。
By Edward Luce
(2014年3月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXNASGM31015_R30C14A3000000/
▲『逆説の経済学』三橋貴明(資料写真)
【今日の御言葉】