報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

怪音

2006年03月29日 23時47分51秒 | ●パキスタン地震

「いまの音がなんだか解るかい?」

パキスタンとインドの停戦ラインに位置する山深い村を歩いていたとき、ドーンという大きな音が静かな谷に響いた。
「ダイナマイトだろ」
と僕は答えた。
地震による土砂崩れで塞がれた道路を拓くため、巨石を爆破する大音響をあちこちで聞いた。
「違うよ」
とサディク氏は言った。
「じゃあ、シェル(砲撃)?」
と僕は冗談を言った。
この村(カタ・チュグリ)は、国境紛争が起こるたびにインド側から砲撃を受けていた、という話しをサディク氏から聞かされていた。
「シェルじゃない。地震だよ」
「地震???」
揺れはまったく感じなかった。
発破のダイナマイト以外僕には考えられなかった。

我々はしばらく急峻な斜面に作られた段々畑を歩き、サディク氏の親戚の家に着いた。そこでチャイをいただき休息していたとき、また、ドーンという大きな音が谷いったいに響いた。
そこにいた男たちは、僕のほうを見て手をゆすってみせた。
明らかに地震という仕草だ。
しかし、今回も揺れはなかった。
やはり道路工事の発破だろう。

その日に村を出てムザファラバードにもどった。
テントで寛ぎ、子供と話しをしていたとき、
「今日、地震があったよ。女の人がみんな叫びながらテントから飛び出してきたんだ」
とその子が言った。
比較的大きな余震だったようだ。
別の少年から、学校の壁が倒れて、何人かの生徒が軽傷を負ったと聞かされた。

村で聞いたあの怪音は、地震と関係があるのだとようやく理解した。
そして、日本でも同じ音を聴いたことがあったのを思い出した。

阪神淡路大震災の時、僕は京都にいたのだが、震災の一週間くらいのちに、大音響を聞いた。しかしその音が話題になることはなく、謎のまま僕の記憶から消えていた。あれも神戸での余震による音響だったのだ。
怪音は、大地が揺れていることを知らせていた。
地球のいとなみの不可思議さを感じる体験だった。

壮大な地球のいとなみに対してわれわれは成す術を持たない。
それを操ることなどできない。
それに比べれば、われわれが協力し合うことはそれほど難しいことではないはずだ。
しかし、それを阻んでいるものがどこかにあるのだ。