報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

メディアのウソを見抜け(1)

2004年12月27日 17時26分07秒 | ■メディア・リテラシー
《湾岸戦争・イラク戦争編》

 日々洪水のように垂れ流されるニュース。
 しかしこれらは、単なる「事実の断片」にすぎない。
「事実」が『真実』を語っているわけではない。
「事実」は慎重に加工されている。 
 メディアは、国民に奉仕する機関ではなく、国家権力に奉仕する機関にすぎない。

──油にまみれた水鳥──

 メディアが大騒するニュースは、たいてい相当な悪巧みが隠されている。

 代表的な例が、湾岸戦争のときの「油にまみれた水鳥」の映像だ。
 石油の海と化した波打ち際に、全身石油まみれの真っ黒の水鳥が弱々しく立っていた。いや、呆然と立っていたといった方がいいかもしれない。
 当時、メディアはサダム・フセインの「環境テロ」だと大騒ぎした。フセインがわざと油田の油を海に「放出」していると報道された。環境は破壊され、海の生物が犠牲になっていると。油にまみれた水鳥の映像は、大きな訴求力を持った。水鳥の映像は世界中をかけめぐり、繰り返し放映された。世界中がフセインを「狂気の極悪人」として認識した。このたったひとつの映像が、永遠にフセインのイメージを世界に決定づけたのだ。

 しかし、後の検証によって、原油が海に流出したのは、米軍の爆撃が原因であることが明らかになった。アメリカは自らの爆撃の結果を、フセインの環境テロにすり替えたのだ。当時、世界のメディアは、油まみれの水鳥の映像を何ら検証することもなく、アメリカの大本営発表を世界に垂れ流した。

水鳥の命をダシに、イラク市民は爆撃された。

──証言──

 湾岸戦争時、もうひとつアメリカが仕組んだ大ウソがあった。
 クウェートから逃げてきたとされる少女の証言だ。そのクウェート人少女は、アメリカ議会の公聴会でこう証言した。

「私は病院でボランティアとして働いていましたが、銃を持ったイラクの兵隊たちが病室に入ってきました。そこには保育器の中に入った赤ん坊たちがいましたが、兵士たちは赤ん坊を保育器の中から取り出し、保育器を奪って行きました。保育器の中にいた赤ん坊たちは、冷たいフロアに置き去りにされ、死んで行きました」
ナイーラは「何百人」もの赤ん坊にたいして行われたと、涙ながらに説明した。
『メディアコントラール』P187 前坂俊之著 旬報社

 ところが、この公聴会での少女の証言は、真っ赤なウソだった。
事前にアメリカの広告代理店(ヒル・アンド・ノウルトン社)が綿密なシナリオをつくり、何度もリハーサルをした上での証言だった。ナイーラの父親は駐米大使であり、ナイーラはクウェート現地にはいなかったのだ。

──大量破壊兵器とアルカイダ──

 イラク戦争でも、このウソによるイメージ戦略は大いに発揮された。

 イラク戦争開戦の最大の理由は、
「大量破壊兵器の存在」
「フセインとアルカイダのつながり」
 だった。
 この二つの「事実」が、世界中のメディアを使って大宣伝された。狂人フセインを打倒しなければ、世界の安全は脅威に晒される、というように。フセインは世界の脅威、世界の敵になった。すでにフセインのイメージは湾岸戦争で定着している。

 しかし、「大量破壊兵器の存在」も「アルカイダとの関係」も、ウソだった。
 今年のアメリカ大統領選挙の数ヶ月前に、パウエル国務長官(当時)は、「イラクには大量破壊兵器はなかった。今後も発見されないだろう」と公式に発言した。ラムズフェルド国防長官は、「フセインとアルカイダの関係はなかった」と口を滑らせた。

──永遠のイメージ──

 これらは、メディアが騙されて「誤報」をしてしまったのではない。
 ウソを捏造する側とウソを報道する側とは、いつもグルなのだ。
 そしてすべてが終わった後、メディアは正義漢づらして「ウソ」を暴くのだ。

 ここで最も問題なのは、「ウソ」を暴いたあとだ。
 人はメディアの「ウソ」には簡単に騙され、簡単に煽られるが、それが「ウソ」だと発覚しても、ほとんど無関心なのだ。
 そして「ウソ」で植えつけられたイメージは、その後も残り続ける。
 つまり、「ウソ」を捏造する側にとっては、あとでバレても一向にかまわない。ウソがバレても、効果は半永久的に保たれるからだ。それこそが重要なのだ。フセインは永遠に狂気の独裁者として歴史に名を連ねる。そして、アメリカの行為も半永久的に正当化される。