報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

【ブッシュの罠】

2004年12月11日 23時16分32秒 | ■対テロ戦争とは
今回のアメリカ大統領選挙には、何の興味も持てなかった。
ブッシュ大統領には、石油産業と軍需産業の全面的バックアップがある。まともな選挙戦など最初からするはずがない。ブッシュ・シニアの苦い経験もある。何年もかけて勝つための万策を講じているに決まっている。
メディアは、あたかも大接戦かのような印象を与えていていたが、実に白々しい。

ジョン・ケリーは、電子投票のシステムに問題があることや、投票所での投票妨害の事実を知りながら、あっさり敗北を認め、さっさと舞台からおりてしまった。不正の痕跡があまたあるにもかかわらず、裁判で戦おうとはしなかった。ケリーの行動は、非常に胡散臭い。

そもそも、ケリーとブッシュは、エール大学の結社「Skull and Bones」のご学友だ。ブッシュが二年先輩にあたる。「Skull and Bones」は1832年設立という「由緒正しい」結社のようだ。毎年、15名だけが入会を許される。名門エール大学の中でも、将来アメリカの政治経済を担うであろう人物だけが選抜される。この特殊クラブで、ケリーとブッシュは二年間を共に過ごした。
ジョン・ケリーは、最初から勝つ気などなかったのだ。

しかし、そのように今回の大統領選挙を冷ややかに見ながらも、理解に苦しむことが多々あった。

──身内が暴くブッシュのウソ──

今年3月、前大統領特別顧問リチャード・クラークは、「911同時多発テロ調査委員会」の公聴会で、
「何十回もアルカイーダによるテロ攻撃の危険性があることをホワイトハウスに提言した」
「イラクは、同時多発テロとは何の関係もないと私が証拠を持って説明しても、ブッシュはそれを無視した政策を行った」
と証言した。

クラークは、テロ対策の専門家として、ブッシュ・シニア、クリントン、ブッシュ・ジュニアの下で働いた。ホワイトハウスを去ると、『爆弾証言 すべての敵に向かって』を出版し、ブッシュ政権の内情を暴露した。世界中で話題の書となった。常識的に考えると、この本の内容と公聴会の証言だけでも、大統領選挙を戦うブッシュにとって、勝ち目のないほどの打撃を与えるはずだ。

しかし、これだけではない。

続く4月に、同公聴会では、911テロの1ヶ月前に「航空機を使用したテロの可能性を指摘した報告書」が、ブッシュ大統領に渡されていたことを、ライス補佐官が認めた。

9月13日には、パウエル国務長官が、上院政府活動委員会で、「(イラクの大量破壊兵器の)いかなる備蓄も発見されておらず、われわれが発見することはないだろう」と発言した。イラク開戦の最大の理由を、「大量破壊兵器の存在」と言い続けてきたパウエル長官が、はっきり「なかった」と認めたのだ。

まだある。
10月4日には、外交問題評議会で、ラムズフェルド国防長官は「旧フセイン・イラク政権とアルカイダを結びつける確かな証拠はない」と発言した。ただし同日、「質問を誤解した」として発言を撤回したが。

いみじくも大統領選挙を戦う年に、政権中枢の人間がこぞって、「政府は航空機によるテロを知っていました」、「イラクに大量破壊兵器はありませんでした」、「フセインとアルカイダの関係はありませんでした」と次々と発言したのだ。選挙戦に不利になることを、ブッシュ陣営自らが公言するとは、いったいどういうことなのか。

さらに、アブグレイブ収容所での、「捕虜」や民間人に対する衝撃的な虐待写真が、兵士によって密かにメディアに渡され、世界中を駆け巡った。
(個人的な意見だが、一連の虐待の写真は、非常に不自然だ。メディアに流出させるために意図的に撮られた写真だと確信している)

ついでに言えば、ブッシュ大統領は、マイケル・ムーア監督の「華氏911」の全米上映にもまったく無関心だった。

一連の高官の「暴露」や「発言」や「失言」は、一般的には「ブッシュ政権のボロがでた」というような受け取られ方をした。しかし、パウエルやラムズフェルド、ライスが「ボロ」を出すようなマヌケかどうか、考えなくても分かることだ。

テレビ討論では、アホでマヌケに見えたブッシュだったが、決してアホでもマヌケでもない。大統領選挙に勝つだけなら、いともたやすいことだ。ブッシュは黙っていても勝てる。しかし、今回は単に勝つだけでは十分ではなかった。

──国民にすべての責任を転嫁する罠──

選挙前の一連の発言や「暴露」は、ブッシュ陣営の意図的な作戦だったと考えるべきだろう。

ブッシュ政権一期目は、アメリカ国民は真実を隠蔽され、欺かれたのであり、ブッシュの戦争とその結果に責任を負うべきものではない。大統領の陰謀など知らなかったのだから。

しかし、二期目の今回は、ちがう。
選挙前にほぼすべてを、高官の「発言」や「失言」、「暴露」という形で、国民は知らされたのだ。
要するに、ブッシュ政権は、
”我々は、事実を隠し、国民を欺いて戦争を始めた。アフガニスタンとイラクを不法に攻撃し、占拠した。そして大勢の市民を殺した。そしてこの政策を止める気は毛頭ない”
とアメリカ国民にあらかじめ「宣言」したも同じなのだ。

アメリカ国民は、そう宣言された上で、ブッシュを大統領に選んだ、ということになる。つまり、今後、ブッシュ政権が行うあらゆる犯罪行為に対して、ブッシュを選んだ「アメリカ国民」が責任を負わなければならないことになる。

別に理屈をこねているわけではない。
ブッシュは、大統領選挙に勝っただけでなく、今後彼が行う「人道に対する犯罪」の責任まで、アメリカ国民に押し付けることに成功した。ケリーに投票したことは、何の免責にもならない。ブッシュの大統領就任式を見送った時点で、歴史は、「アメリカ国民」がブッシュとブッシュの政策を「信任」したと記する。

ブッシュの戦争と侵略は、アフガニスタンとイラクで終わるわけではない。今後、中東全体が、血の海になるかもしれない。もはやブッシュには、躊躇する理由は何もない。

アメリカ国民から、侵略や虐殺の信任を得たブッシュは、大統領選挙に勝利した数日後には、ファルージャへの容赦ない攻撃を開始した。町は廃墟と化すほど破壊され、女性も子供も老人も虐殺された。その数はすでに2000と伝えられている。しかし、抵抗軍の捨て身の攻撃に米軍も少なからず死者をだしている。激しい抵抗に恐怖したのか、米軍は女性や子供を戦車に縛り、盾に使っている。僕が知る限り、こんなマネができるのは、アメリカ映画に出てくる架空の悪党だけだ。

イスラム・メディアが伝えるファルージャの惨状は、ベトナム戦争の比ではなくなった。
ブッシュ政権が望むのは、はてしない憎悪の連鎖だ。
テロとの戦いではなく、テロの拡散だ。
ブッシュ二期目は、史上類を見ない暗黒の四年となるのかも知れない。

【アブグレイブ収容所虐待写真はニセモノだ】

2004年12月11日 23時04分44秒 | ■イラク関連
アブグレイブ収容所の衝撃的な虐待は、はやくも過去の事件となってしまった。
しかし、若干なりとも写真を撮っている者として、一言、あの一連の写真について触れておきたい。

あれは、ニセモノだ。

正確に言うと、虐待はホンモノだが、「記念写真」はニセモノだ。

【ブッシュの罠】で少し触れたように、あれは、政治的な目的で意図的に撮影されたものだ。そして、「意図的に流出」させたものだ。
虐待写真の「暴露」は、ブッシュ政権から米国選挙民に対するメッセージ(罠)だ。
「わが軍隊はこんな非道な虐待もしています。いやならケリーに投票してください。私を再選させたら、今後も起こります。そしてその責任は、私を選んだアメリカ国民にあります」と。
もちろん、ブッシュは大統領選挙に勝つための、あらゆる対策ができあがっていたから、こういう離れ業ができた。(評論【ブッシュの罠】参照)
また、アラブやイスラム教徒の憎悪を煽るのにも、たいへん効果的だ。怒りを増幅させ、どんどんテロを広げて欲しい。そういうブッシュ政権の計略もこもっている。

あの「記念写真」のどこがニセモノなのかを、はっきり証拠を示すことは無理だ。あくまで僕個人の直感だ。

ただ、あのような「記念写真」には、ベトナム戦争で数多く接してきた。
アブグレイブの写真は、衝撃的だが「臨場感」がない。虐待をしている人間の、荒んだ腐臭が写っていない。抽象的だが、そう言うしかない。
いわば素人モデルを使った、にわか写真だ。非道な虐待があったことは、まぎれもない事実だが、一連の写真は虐待の現場写真ではない。全体があまりにもちぐはぐな印象を受ける。虐待を受けるイラク市民の極度の緊張感にくらべ、虐待する兵士に余裕がありすぎる。確かに、虐待する側は余裕だろう。しかし、人間が他者に虐待や拷問を加える時は、少なからず異常心理状態になっているはずだ。あの虐待兵士二人は、どう見ても「平常心」だ。
事実、あの一連の写真に写っている二人の兵士は、『命令されて、そこに立った』と証言している。
訳も分からず、ただ単に命令に従っただけだから、あのような表情になるのだ。

徹底的な「報道管制」を敷いてきた米軍内部から、虐待写真が流出するなど、絶対にありえないことだ。
暴露したつもりが、実は暴露させられていたに過ぎず、「ブッシュの罠」のお手伝いをしただけの結果になってしまったのだ。
ブッシュの足をすくったつもりが、実はこちらがころころ手玉に取られていたにすぎない。一事が万事そんな調子だ。ブッシュ政権のメディアコントロールは実にきめ細かい。

セイモア・ハーシュにCD-ROMを渡した兵士は一体誰なのか。
軍内部で問題にされたのかどうかも、伝わってこない。
ジョージ・W・ブッシュと彼の政権を侮ってはいけない。