SakuraとRenのイギリスライフ

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Vivien A. Schmidt, The Futures of European Capitalism (Oxford University Press, 2002)

2014年08月02日 | 
読んだのは少し前だけど、やっぱり重要な本だったので、内容を思い出すためにVivien A. Schmidt, The Futures of European Capitalism (Oxford University Press, 2002)を紹介したいと思います。



本書は、グローバル化及びヨーロッパ統合によって収斂するだろうと言われていた各国の経済体制が未だにそれぞれの特徴を保持していることを確認し、その理由を考察するとともに今後の展望を論じるものです。

著者によれば、グローバル化及びヨーロッパ統合にどの程度影響を受けるかは
(1)経済の脆弱性(経済危機の有無、競争力)、
(2)政治制度の態様(政府がどの程度政策変更を主導できるか)、
(3)これまでの政策(その政策変更がこれまでの政策実践にどの程度フィットするか)、
(4)政策選好(これまでの選好にどの程度フィットするか、新しい政策に対する開放性)、
(5)言説(経済の脆弱性やこれまでの政策についての認知に影響を与えることによってアクターの政策選好を変容させる能力)、
に依存します(pp.62-67)。
これらが各国によって様々であることにより、欧州においては3つ(2つではなく)の資本主義のモデルが並立していると主張されます。

3つのモデルとは、
①市場中心の資本主義(Market Capitalism):イギリス、アメリカなど
②管理された資本主義(Managede Capitalism):ドイツ、オランダ、スウェーデンなど
③国家主導型資本主義(State Capitalism):フランス、イタリアなど
です(p.113)。

グローバル化及びヨーロッパ統合によって、それぞれのモデルはより自由主義化しているけれど、まだそれぞれの特徴を保っていると著者は主張します(p.142, p.144)。

本書においては主にイギリス、ドイツ、フランスの3か国がケーススタディの対象とされ、上記の5つの関わりとともに論じられているものの、最も強調されているのが言説の重要性です。
そして、アイディアの政治学の文献において本書が必ずと言っていいほど引用されることにも示されているとおり、本書の最も重要な貢献もここにあると思われます。

僕の見るところ、本書における特に重要なところは以下の二点。
(Ⅰ)その国の政治制度によって言説がどう作用するかが異なることの理論化
著者は、言説の態様はcommunicative discourse(主に選挙民にアピールするもの)とcoordinative discourse(エリート間で交わされるもの)に区分できるとした上で、権力が執政部(政権中枢)に集中している国では公衆へのcommunicative discourseが、権力が様々なアクターに分散している国ではアクター間のcoordinative discourseがより重視されるとします(p.211)。

(Ⅱ)言説の内容をcognitive function(人々の認知に働きかけるもの)とnormative function(人々の規範に働きかけるもの)に区分し、後者の重要性を示したこと
前者(cognitive function)においては、その政策が他の政策に比べて優れていることを示すことによってその政策を正当化するのに対して、後者(normative function)においてはその国に根付いている価値観に沿っていることを示すことによってその政策の正統性を主張するとされます(p.213)。
著者は前者を「justifies through logic of necessity」、後者を「legitimizes through logic of appropriateness」とまとめています(p.218)。
そして、前者のみが存在したケースでは政策変更はうまくいかなかったものの、前者に加えて後者があったケースではうまく政策が変更されたと主張します。

本書の枠組みを取り入れている木寺元さんの本に熱狂した僕ですから、もちろんSchmidtさんのこの理論化にも感動するのですが、やっぱりまだ明晰に理解できないのは(Ⅱ)の区分。
necessityとappropriateness、あるいはjustifyとlegitimizeの区別は、観念としては分かるけど、現実の政治/政策の世界においてどれだけ分けられるのか。
appropriatenessはその国の価値観に照らして測られるとされるというけど、「その国の価値観」はどうやって知るのか(後付けにならないか)。
ものすごく可能性のある議論だと思っている(というか、僕はこれをもっと研究していきたい)ので、ちゃんと理解したいところです。


本書はアイディアの役割を重視する潮流の文献のイメージが強かったのですが、
・アイディアの政治
・資本主義の多様性
・ヨーロッパ統合の各国への影響
のいずれに興味がある読者にとっても得るところが大きいと思います。

(投稿者:Ren)

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