倉野立人のブログです。

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行政視察報告「奈良市子どもセンター」など =実効ある子ども支援=

2023-05-18 | 日記

所属する「長野市議会 福祉環境委員会」の行政視察に参加しています。

この日(5/16)は、奈良県奈良市の「奈良市子どもセンター」および「保育園のコットベッド」について調査研修を行ない、そこで〝現場の声〟を聴取する いわば醍醐味のようなものを実感することができました。

 

◇「奈良市子どもセンター」について

奈良市は、全国の自治体に先進して(3番目)子供を保護(庇護)する「児童相談所(児相)」を市独自に保有し、それを含めた総合的な子ども関連施設「奈良市子どもセンター」を管理運営しています。

児童相談所は「子どもに関する家庭その他からの相談に応じ、子どもが有する問題又は子どもの真のニ-ズ・子どもの置かれた環境の状況等を的確に捉え 個々の子どもや家庭に最も効果的な援助を行ない、もって子どもの福祉を図ると共に その権利を擁護する」ことを設置(活動)理念として運営されています。

しかして その(相談)内容は、児童虐待やDV(家庭暴力)など 子どもの生存権をも脅かす機微に触れたものになっており、その対応には関係者の綿密な連携と真摯な対応が求められています。

そのような中 奈良市においては、平成29年に「改正児童福祉法」が施行され これまで都道府県が設置主体であった児童相談所が「中核市(並びに特区)でも(児相を)設置できる」との附則が盛り込まれたことを契機に、当時の市長の指示で 奈良市として児童相談所を設置する運びとなったとのこと。

同年10月には 庁内に「県市児童相談所検討プロジェクトチーム」を設置、翌30年には「奈良市児童相談所等のあり方検討会議」を発足させ、市独自の児童相談所を含む総合的な子ども支援施設(機関)の設置に向けた検討を進め 令和4年4月に「奈良市子どもセンター」として供用開始されました。

 

(写真は資料)

 

 

「奈良市子どもセンター」には 前掲の「奈良市児童相談所」を初め、就学前の子ども(保護者)が自由に遊べる「キッズスペース」妊婦さんと0〜3歳児の 子どもと家族が集える「地域子育て支援センター」就学前の児童の発達障がい等に対応する「子ども発達相談(所)」家庭のさまざまな悩みについて相談を受け支援につなげる「子ども家庭総合支援拠点」さまざまな事情により 一時的に子どもが家庭から離れて生活する「一時保護所」が設けられています。未満児から未就学児とその家族・そして課題を抱える子どもの〝駆け込み寺〟ともなる施設(児相)の設置に伴い「奈良市子どもセンター」は、まさに実効ある子ども支援拠点として活用されているのでした。

 

 

 

このような総合的な機能を有する「奈良市子どもセンター」は、奈良市子ども未来部を筆頭に組織を成しています。

「子どもセンター」は、子ども未来部の中で独立した所管となっており、その中に「子育て相談」「一時保護課」「子ども支援課」の各課で業務を分掌しています。

 

 

 

 

その中でも、特に注目すべきは やはり奈良市が独自に運営する「奈良市児童センター」でありましょう。

前掲のとおり、児童(子ども)を取り巻く問題は 多岐に亘ると同時に機微(きび)に触れる内容が多く、それは例えば 大人の立場(所管)の解釈によっても対応が異なる場合が考えられます。

奈良市は、特に児童相談所に関する課題(問題)について その所管が市⇔県と異なるよりも、市が独自に児相業務を担った方が「子どもに寄り添う対応」ができるのではないかとの考えの下、児童相談所を市単運営することを選択したそうです。

そのうえで 奈良市子どもセンターの児童相談所は、下記に「めざす4つの視点」を設け事業に臨んでいます。

①子どもとその家庭に「寄り添う児相」

 ・共に考える「伴走型支援」・発達相談・権利擁護 等

②地域のさまざまな社会資源と連携して支援する「まちの児相」

 ・保健センターや保健所との連携・行政と一体となった支援・地域の支援者や里親との連携

③外部の声を聞く「開かれた児相」

 ・アドバイザーの活用・第三者評価の活用(意見拝受)

④気軽に寄って相談できる場所

 ・キッズスペース・地域子育て支援センター

 

また「奈良市児童相談所」が連携する機関は、下記に及んでいます。

奈良県庁・奈良県児相・市本庁・市教育委員会・保健センター・里親・乳児院・児童養護施設・児童虐待防止ネットワーク団体・社会福祉協議会・医療機関・民生児童委員・消防・警察・学校・中間教室・こども園・保育所・幼稚園・外部アドバイザー

子どもに関するあらゆる機関と連携して児童相談(保護・庇護)にあたっていることが分かります。

 

 

 

私たちの視察に対し 説明者を担ってくださったセンターのH所長は、施設設置の際の苦労と 設置後のさまざまな機関との連携、それだけに それら関係機関との連絡調整の重要さと大変さを吐露してくださいました。

当然のことながら、奈良市独自の児童相談所の設置は(奈良市にとって)初めての事業であることから、市長の英断を受けた後は 議会対応や県との調整・奈良市職員が 児相の職員として適切に機能できるように職員研修・また 実際の相談事案(DVや虐待等)が発生したときの警察等への通報や送致などの難しさが、実感をもって伝えられました。

 

そのうえでH所長は「子どもの権利」について強調されておられ、そのことが強く印象として残りました。

すなわち、子どもに向き合う全ての大人は「子どもの権利」を尊重し、ときに「子どもの意思表示」を真摯に受け止めてゆかなければならない。

そのために奈良市では「アドボケイト」なる〝被相談者〟を設け、かかる子どもの意思表示を受け容れているそうです。

「アドボケイト」とは、権利表明が困難な子ども・高齢者・障がい者など、本来は個々人がもつ権利をさまざまな理由で行使できない状況にある人に代わり その権利を代弁・擁護し、権利実現を支援する人を指(さ)し、奈良市では 県弁護士会と連携し、弁護士の有志をもって その任に就いていただいているそうです。

〝奈良市版アドボケイト〟は、子どもたちから「アドボのおっちゃん」として親しまれながら、子どもの抱える「(H所長いわく)しょーもない相談」を聞きながら それを端緒に(子どもや家庭の抱える)本当の課題(深層)を明らかにしつつ、適切な解決を図る努力を重ねているそうです。

ここに「奈良市児童相談所」が市民(子ども)に寄り添う活動を実践している姿を垣間見たところでありました。

 

長野市においても、子どもを初めとする いわゆる社会的弱者の人たちを取り巻く問題や課題は多岐に亘っていることから、この奈良市の実践例を大いに参考にし 真に市民に寄り添える市政が為(な)されるよう計らってゆくべきと思いをいたしたところでありました。

 

◇奈良市保育園「コットベッド」配備事業

奈良市は、公立保育園について 園児を対象にした「コットベッド」を配備しています。

「コットベッド」とは、子ども(園児)のお昼寝(午睡)に用いられる 個別に配備される簡易ベッドのことを指(さ)します。

 

 

 

硬質プラスチックのフレームに、園児が横になる面はポリエステルのメッシュが施されており、そこに敷布(シーツ)を敷いて子供を寝かせ 敷布のみを交換(洗濯)するものです。

フレームの支柱が約10cmほどの高さがあるため、子供が横になる際の敷布が床に直接触れずに済み 埃(ほこり)が人体に付着する率が著しく低下、またアレルギーの原因となるダニの繁殖も防ぐメリットがあり、また かかる(床上10cmの高さを伴う)三次元構造や一人一台の個別利用に伴い、頭ジラミやノロウイルスに代表される感染性胃腸炎など、様々な感染症が毎年度発生している中、集団保育における様々な感染症の拡大を防止できます。

さらに ベッド面はネットのため、汗などで湿ってもすぐに乾くとともに、おねしょなどで汚れても水洗いができ、さらに座面がネットのため 子供が横になると身体を包み込むように凹(くぼ)むことから、お母さんのお腹の中にいるような安心感と心地よさが感じられます。また、自分のスペースが確保できるため睡眠が安定します。そのうえ、床とベッドの間に空気の層ができるので 夏は涼しく冬は暖かい保育環境を提供できるとのことです。

また コットベッドは重ねて収納することができるため、お昼寝の準備や収納も簡単かつ効率的にでき、さらに綿入れのお布団が要らなくなったことで 持ち帰りの際の保護者負担も大きく軽減されているとのことです。

 

 

 

 

奈良市のこの事業で特徴的なのが〝財源〟でありました。

「コットベッド配置事業」の財源について、コロナ禍で国から交付された 支弁に自由度のある「持続化給付金(10/10)」を活用し、市の負担ゼロで 全ての園児にコットベッドをあてがうこととしたそうです。

(コットベッド自体が、園児同士の距離を保つこととなり〝コロナ対策〟の効果は大きかったようです)

「持続化給付金」については 自治体ごとにさまざまな用途があったところですが、こんな使い方があったのか、と 目からウロコの支援金の活用でありました。

「コットベッド」の導入で、なかなか寝付けなかった園児も「自分のベッドだ」との歓心をもって午睡することから〝一石二鳥〟の効果があるとのことでありました。

 

さまざまな面で子どもに寄り添う施策を展開する奈良市。

その具体的内容と共に、説明に当たってくださった職員の熱意や思いが直(じか)に伝わり〝子ども行政かくありなん〟を実感させてくれたのでした。