くろたり庵/Kurotari's blog~since 2009

総務系サラリーマンの世に出ない言葉

ある老後の話

2012-03-04 15:51:52 | つれづれなるまま
ある知り合いの仕事仲間から聞いた話です。
彼の会社には、毎朝、始業時刻になると来社する老人男性がいたそうです。
その老人の正体は、定年退職した元社員。

彼は超一流の国立大学を卒業して入社し、
現役時代はバリバリのやり手営業マンとして活躍。
最後は営業部長を務めて定年退職したそうです。

もちろん、それは後で調べてから判明したこと。
退職してから何年も経っているので、
当初は、呼び止めた受付の女性も、
応対した総務の社員も、彼のことはまったく知りませんでした。

「おじいちゃんは、もう退職したんだから会社に来なくてもいいんだよ」

対応に出た総務課の社員がそう説明すると、
老人は、「ああ、そう・・・」と言って帰って行くのですが、
次の朝も、その次の朝も、彼は会社の玄関に現れたのだそうです。

帰り道を心配した社員が、その老人の後をつけてみると、
彼は駅の自動販売機できちんと切符を買い、
電車に乗り間違えることもなく、自宅まで帰っていったといいます。

歳をとって、退職したことがわからなくなっても、
通勤経路はしっかりと記憶に刻まれていたのでしょう。

そんな日がしばらく続き、現れる回数が次第に減り、
やがていつしか老人は、二度と姿を見せることはなかったそうです。

彼が毎朝会社に現れるようになった、その心中は誰にもわかりません。
せめて、彼の現役時代は充実したビジネスライフだったのだろうと信じたいものです。

何か考えさせられる話しでした。