クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

夢で“松”を植えたら何を意味する? ―はにゅうの勘兵衛松―

2010年11月06日 | 歴史さんぽ部屋
かつて旧利根川(会の川)沿いには河畔砂丘が連なり、
その上には数多くの松が生えていた。
高度経済成長期に砂に高値がつき、
砂丘は削り取られ、松もその姿を消す。

現在は、加須市志多見にその松の名残を見ることができる。
ただ、松はあれど名前のついた松はないだろう。
羽生市内では、「須影の黒松」(枯死)や
上杉謙信にゆかりのある「旗かけの松」と呼ばれる松があるが、
人の名前はついていない。

ところが、“勘兵衛松”と人の名前のついた松がある。
それは、羽生市上新郷の“日光脇往還”沿いに立っている。

寛永5年(1628)、時の忍城主が勘兵衛に命じ、
150本の松を植えさせたという。
以来、この松は「勘兵衛松」と呼ばれ、
往来を行く者たちを見続けてきた。

現在も通りに松が並んでいるのだが、
寛永5年当時から残っている松は、
実は1本だけとなっている。
いわば最後の砦である。

松並木を見ていくと、ひときわ太く、
威厳の漂う松に出会うことができるだろう。
それが初代勘兵衛松だ。

実は、この勘兵衛松の次世代を育てようというプロジェクトが、
数年前に発動した。
この松からとれた種を採取し、
地元の高校の協力を得てこれを栽培。
そしていま、植栽できるほどの大きさに成長したという。

新聞記事によると、
この勘兵衛松2世は、地元小学生や住民らと一緒に植樹するとのこと。
未来に向けて、若い松が羽生の土に根を下ろす。

ところで、松の“俗信”は多い。
羽生から近い妻沼では、聖天様が松の葉で目を傷つけたため、
信者の家では松を植えないとされている。

また、京都では松を南に植えると栄え、
西に植えると屋根の高さまでは栄えるが、
家を超すと衰えると言われているという。

墓に松を植えるとよくないとも言うし(群馬県)、
家の中に二俣の松があると、双子が生まれる(香川県)なんていう俗信もある。

では、松を植えるという行為について何か俗信はないのだろうか?
現実世界ではないのだが、
植樹する夢は吉とされている。
そもそも、松の夢は吉夢である。

松は「神聖」や「不死」のシンボルとされる。
夢に見ると、男は栄達、女は良縁をもたらしてくれるらしい。
「松の実」もよく、幸運の訪れや健康回復の暗示がある。

したがって、松が夢に出ると長生きをしたり、
家が栄えるという俗信がある。
松を植える夢も、長生きをするという吉夢だ。
木に登るのも、良いことが起こるとされている。

これらに根拠はない。
あくまでも俗信である。
しかし、松の夢を見たら、なんだか良いことがありそうな予感はする。
ただし、夢に出る松が枯れていたりした場合は要注意。
「神聖」「不死」のシンボルに翳りが見える。

勘兵衛松は歴史ある松である。
もしこの松が夢に出てきたら、
幸せをもたらしてくれると信じたい。

そして、現実世界では2代目勘兵衛松が植樹される。
順調にすくすく伸び、
400年後には見上げるほど大きくなっているだろう。
夢に見た者だけでなく、
多くの人に幸せを運ぶ松として育ってほしい。



勘兵衛松並木(埼玉県羽生市上新郷)



新郷の宿場
八王子千人同心が往来する日光脇往還でもある。


参照文献
『日本俗信辞典』鈴木棠三、角川書店
『細密 夢占い辞典』秋月さやか、学習研究社


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