奥山に鹿ぞ鳴くなる
秋はくるなり
誰の句だったか.....
今年もまた、美ヶ原経由で鹿教湯(かけゆ)温泉に行ってきました。
電波もろくに通わないところです。
尾根道の千草もあらかた咲き終わって、花よりも実の美しき。
カラマツの紅葉ばかりが、やけに色鮮やかでした。
パソコンのデーター通信用に持ち歩いているPHSはもとより携帯も圏外で、静かな秋を満喫できますのよ。
気の早い秋の夕暮れが迫ってくると、山襞のおちこちで鹿の鳴く声が木霊します。
「万葉集: 鹿(しか)を詠んだ歌」ってのを眺めてみると、なんと68首もあるんですねぇ。
山彦の
相響むまで妻恋ひに
鹿鳴く山辺に
独りのみして
草枕
旅を苦しみ恋ひ居れば
可也の山辺に
さを鹿鳴くも
何とも、身につまされる句も。
さて、お不動さんをお参りするにはマジソン郡の橋を渡らなければいけませんが、実の妹との2人旅ゆえ大人の恋に現をぬかすわけにもいきません。
♪山がぁ~燃えるぅ~
戻れなくてももう良いのぉ~♪
ってな事言う以前に、散歩道の先の吊り橋も先月だかの豪雨で崩れかけて通行止めときている。
戻るどころか、イクにイケないってな始末。
温泉につかって大人しくするしか他ありません。
鄙びた湯治場では粋な男に巡り会えるはずもなく、ダシの出そうな爺の湯につかる以外は人間狩りならぬ紅葉狩りと洒落こむ他はありませんでした。
で、こいつは、日本海側に多いオオモミジです。
そしてこちらはイタヤカエデ。
ちなみに、カエデというのは、葉っぱの形がカエルの手に似ているところから着いたんだそうで、このイタヤカエデを見ていると、さもありなんと合点が行くのでありました。
と、まぁ、この湯治場、色っぽいところはまるでないんですが、そこはほれ、ちゃんと歴史のある湯治場だけのことはあって、軒下の傾いたようなそば屋にふらりと入っても、それはもう新蕎麦の薫り高い蕎麦掻きと蕎麦焼酎の蕎麦湯割りが格安で楽しめるあたり、なかなか素敵なのではないかしらん。
そのへんがね、都会やおちゃらけた観光地の気取ったそば屋なんかで見かけるところの、能書きと蘊蓄にまみれた高慢ちきな粗食とは一線を画した、実直な味わいの喜びをかみしめられる田舎町の良さなのではないでしょうかねぇ?