クロとぼく
まど みちお
学校から帰ってきた ぼくの
足音めがけて
クロが とっしんしてくる
めちゃめちゃなきの
めちゃめちゃかみの
めちゃめちゃなめだ
ぼくを待ちくたびれながら
そこらに書きちらしたらしい
でたらめの「すき」という字を
なん百 なん千
はねちらかし けちらかし
ぼくはクロをだいて
山のように どっかと坐って
世界中を にらみまわしてやる
もしも ライオンとトラとヒョウと
オオカミとワニが
一どに
クロにとびかかってきたいのなら
いつでもこい! というように
犬派かネコ派かと言われたら、僕は長いこと犬派だった。
小さいとき、僕は一度行方不明になったことがあって、家中が大騒ぎして探したって話を聞いたことがある。
その頃、両親は共働きだったんで、僕は母方の実家に預かってもらっていた。
保育園が終わった午後は、だから、おばあさんのところに帰って、そこで両親が迎えにくるのを待っていたのを憶えている。
行方不明になったのは、確かそんな頃の話しだったはずだ。
まだ明るい時間帯に、母が迎えにやってきたのだが、僕がどこにも見つからない。
おばあさんも真っ青になって探し回ったらしい。
父も帰ってきてさんざん近所を探した後、もう警察に捜索を頼まなくっちゃだめかと腹をくくった頃、裏庭の犬小屋の中で大好きな犬といっしょに眠っている僕を発見したんだそうな。
犬の名前がどうしても思い出せない。
ただ、茶色のむく犬だったことは憶えている。
そいつの背中にまたがったり、犬も大変だったろうなあって、今になって思うのだ。
僕が小学校5年生になるまで、学校が終わってから両親が迎えに来て我が家に帰るまでの間、妹たちといっしょに母の実家に預けられていた。
その間に、犬たちも何世代か入れ替わった。
予防接種はしていたんだけれど、ジステンパーやらなんやらで代替わりしたんだよね。
ポインターセッターとかも居たっけなぁ。
あいつはどうも好きになれなかった。
黒いのが居たと思うんだけど、そいつとは結構仲よくやっていたような気がする。
5年生になった頃、母が仕事を辞めて新築した家に移り住み、僕がひろってきたオスの柴犬の子を飼ったのが、本当の意味で僕たちが飼った最初の犬だった。
名前は、クロじゃなくてコロ。
国語の教科書に出てきた犬の名前なんだけどね、子犬ってやっぱりお腹がころっとしてて、だからコロって言う名前はホントにぴったりだと思ったんだよね。
......最後に飼った犬はスピッツだったなぁ。
その子もコロ。
何匹か子供を産んでね。
一番生長の後れていた子犬をみんなで面倒見て、やっと近所の人にもらわれていったときは、ほっとしたっけなぁ。
そんなこともあって、この前巣立った最後のカラスの子は、何だか気に掛かってたんだよね。
特に付き合いがあったというわけではないんだけれど、台湾の現場に1週間いっしょに居た犬。
いつの間にか居着いてしまった、野良犬です。
背中に木星の大赤点のような楕円形の茶色い斑点がある犬でね、だから僕は、声に出して呼びかけたりはしなかったけれど、名前をつけるならジュピターだなって勝手に思っていた犬。
今度会うときは、こいつは野良犬に逆戻りして居るんだろうなぁ。