AWA@TELL まいにち

南山大学で、日本語教育に携わる人材の養成を行っています。ホームページも是非ご覧ください。

「国際交流の扉を拓く」担当回を終えて

2008年01月10日 | 研究
今年度から、後期の共通教育科目に留学生センター教員が全員参加して「国際交流の扉を開く」という授業を開講しています。
12月12日から1月9日まで、私が担当しました。
それぞれの教員が、それぞれの専門性を生かして、お話をしたり活動をしたりしています。

私の担当回のテーマは、
 「価値観よりも知ること」、「まず知ることから始めよう」というものでした。

近代史にかかわる領域を研究していると、よく、近代日本の果たしてきた役割について善悪の評価を求められます。不思議なことだと思いませんか。他者とのかかわり方についての善悪を知りたいというのはわかるのですが。
たとえば、聖徳太子が隋に使節を送って手紙を書いたという話で、その行為の善悪について問われることはまずないと思うんですよ。足利義満が日本国王と称して明との貿易を行ったことに対して、その行為そのものの善悪を問われることもあまりないような気がします。それによって引き起こされた事件、社会変化などについても、善悪の尺度で判断をすることは、ふつう、研究者がすることではないと思うのです。
日本が朝鮮を植民地としたことについてどう思いますか、という質問は、私にとっては非常に困る質問です。よかった、と答えることも、悪かったと答えることも、正直できません。知らないことが多すぎます。知らないことについてどう思いますかといわれても、困るだけです。

ということで、授業では「知る」ということを眼目に据えて、もっている資料の中から、学生がおそらく知らないだろうというものを抜粋して、3回にわたって紹介しました。

1回目の授業では、NHKのETV特集を利用しました。「留学生が見た明治日本」という番組で、日清日露戦争に勝利した日本にアジア各地から合法違法を問わず、留学生が押し寄せたこと、アジアに対する日本の姿勢が次第に傲慢になり、留学生から敵と糾弾されるにいたるまでの流れを紹介したものです。
中国での反日デモは2005年のことでしかないのですが、受講した多くの学生が、番組の視聴後の感想を書くなかで、そういったことがあったことすら知りませんでした。中国がなぜ日本に対して好意的な対応をしないのか、その原因を知らない学生も多かったのです。
感想の中で気になったのは、「過去ばかり見ないで、今の日本を知ってほしい」というものでした。問題は、その発言をする側が「過去」をどの程度知っているのか、ということです。「過去」を共有してこそ、「いま」と「これから」があると思うんですが、まあ、押しつけても仕方がありません。
日本がアジア各国でどう思われているのか、ベトナムの例では、地方に残っている歌の中で日本がどう描かれているのかも具体的に見て、聞いて、つらく思った学生もいたようです。私にとってですら、祖父母の世代の戦争ですが、父母の世代でも、おそらく私の世代でも、風化しないまま残ると思います。次の世代を担う人たちの肩にかかっていると思うのです。

2回目の授業では、植民地で使用された教科書を学生の皆さんに実際に見てもらいました。古書や復刻されたものです。なかなか普通では手に取ってみる機会はないと思いますが、まあ、これも関心のある学生、ない学生で様子は違います。通時的にみる学生や、共時的にみる学生もいて、面白い質問が出ました。受講後のアンケートに、今でいう小学校1年生が、もう母語ではない日本語のみで教育を受けていたという事実を知ってショックを受けたというものがありました。自分に置き換えて受けたショックだと思いますが、子供を持つと、自分の子供が1年生になってこういう環境に放り込まれたら、ともっといろいろなことを考えるようになります。

3回目の授業では、日本がアジアに残したもの、を見てみました。前半は、戦前に撮影された画像を用いて、日本語教育の場面を見てみました。後半は、日本の統治下で、日本語教育が徹底した結果、その地域の言語がどのような形になっているのかという番組を見ました。この番組は、台湾の小島を紹介していますが、日本語と民族語しか話せない祖父母と、北京語しか話せない孫を描き、世代間で何も話ができないという様子を見せています。それをおじいさんは日本語で取材スタッフに話すのです。

学生の感想のほとんどがこの番組に関するものでした。

また、私が授業中に話した言葉を心にとめた学生もいました。私は、日本が植民地として支配したために、いろいろな圧力や負担が生じたという事実がある一方で、一部の人だけだったかもしれないけど、医療の発達により、それまで治らなかった人たちが治るようになったり、衛生観念の発達により病気が減ったり、流通が発達したおかげで「餓え」から解放されたりという事実もあるという話をしたのです。その話が心に残ったという感想がありました。

まだまだ知らないことが多くて。
学生とクラスでいろいろと意見が交換できるといいのですが、みんなおとなしいですね。挙手だけでもなんか恐る恐るで。そんなに怖い顔してたかなあ。

学生からレポートが届き始めています。
読むのがとても楽しみです。

授業に出て何かを知ったというのは、当り前ではあるのですが、それが意識化できたのであれば、今回の授業は良かったと思います。

せっかく大学にいるんですから、いろんなことを知りましょう。


えー、今回の授業で使った映像ですが、3日目のものは天理大学の前田均先生に頂いたものを抜粋編集したものです。貴重な資料を送ってくださって、本当にありがとうございます。私だけでなく、20名を超える学生が新しい気付きを得ることができました。
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