「『苦い旋律』の最終場面ですごく昂奮しました」
梶山季之先生の愛読者だった方からコメントをいただきました。
主人公の一貫寺邦子はレズビアンの恋人・藤野登志子を交通事故で失います。
その傷心の邦子に対して、上司(社長)であり女装愛好者の曄道征四郎が社長室で愛を告白し、プロポーズするのです。
「ぼくを、きみの奴隷にしてくれないだろうかね?」嘩道征四郎は赧い顔で、早口に告げた。
「奴隷?」
「そうなんだ......。僕も努力するけれど、なんとか正常な結婚生活がしたいんだよ……」
彼はそう云って、邦子を凝視するのだ。火のように燃え上った瞳の色であった。
<まあ..... 結婚だなんて……〉
邦子は、まるで他人事のように、嘩道征四郎の言葉をきいた。
「はっきり云って、僕は、きみの脚に恋している。きみの脚を、愛しているんだ.......」
「まあ......私の脚を?」
「うん。女装して、きみの脚に、思いきりじゃれつきたい……」
嘩道征四郎は、邦子の手をつかんで、
「邦子さん。お互いに登志子の思い出を胸に秘めたまま、結婚しないかい?」
と強く揺さぶるのだ。
「もう少し……考えさせて……」
一貫寺邦子は呟いた。
「お通夜は、熱海のホテルだったね?」
嘩道は腕時計をちらッと眺め、不意に脆くと、邦子の膝頭に接吻した。
ナイロン・ストッキングを通して、男の熱い唇の感触が、なまなましく伝わってくる。
邦子は、ぞくりと背筋を頗わせた。
「ああ........女王さま!」
征四郎は低く呻いた。
「もし、登志子が、こんな綺麗な脚の持ち主だったら、弘は彼女と別れようなどとは、思わなかったろうに」
彼は狂おしく、邦子の両脚をかき庖いた。邦子は、またもや背筋を震わせる。
「奴隷に……なりたいのね?」
邦子はふッと泪ぐみながら呟く。
「奴隷にさせて……」
征四郎は、邦子を見挙げる。
その瞳は妖しく燃えていた。
「いいわ。奴隷にしてあげる」
「じゃあ----」
征四郎が声を歓喜で震わせるのに、邦子は冷たく、
「女におなり!」
と叫んだ。
「女装しろと、仰有るのね?」
嘩道征四郎は声を弾ませる。
『苦い旋律』(梶山季之著)集英社文庫から引用
この小説は1970年に書かれました。
ですからいま生きていれば、曄道征四郎は80代、邦子は70代後半です。
このカップルはどのような道を歩んできたのでしょうか......。
梶山季之先生の愛読者だった方からコメントをいただきました。
主人公の一貫寺邦子はレズビアンの恋人・藤野登志子を交通事故で失います。
その傷心の邦子に対して、上司(社長)であり女装愛好者の曄道征四郎が社長室で愛を告白し、プロポーズするのです。
「ぼくを、きみの奴隷にしてくれないだろうかね?」嘩道征四郎は赧い顔で、早口に告げた。
「奴隷?」
「そうなんだ......。僕も努力するけれど、なんとか正常な結婚生活がしたいんだよ……」
彼はそう云って、邦子を凝視するのだ。火のように燃え上った瞳の色であった。
<まあ..... 結婚だなんて……〉
邦子は、まるで他人事のように、嘩道征四郎の言葉をきいた。
「はっきり云って、僕は、きみの脚に恋している。きみの脚を、愛しているんだ.......」
「まあ......私の脚を?」
「うん。女装して、きみの脚に、思いきりじゃれつきたい……」
嘩道征四郎は、邦子の手をつかんで、
「邦子さん。お互いに登志子の思い出を胸に秘めたまま、結婚しないかい?」
と強く揺さぶるのだ。
「もう少し……考えさせて……」
一貫寺邦子は呟いた。
「お通夜は、熱海のホテルだったね?」
嘩道は腕時計をちらッと眺め、不意に脆くと、邦子の膝頭に接吻した。
ナイロン・ストッキングを通して、男の熱い唇の感触が、なまなましく伝わってくる。
邦子は、ぞくりと背筋を頗わせた。
「ああ........女王さま!」
征四郎は低く呻いた。
「もし、登志子が、こんな綺麗な脚の持ち主だったら、弘は彼女と別れようなどとは、思わなかったろうに」
彼は狂おしく、邦子の両脚をかき庖いた。邦子は、またもや背筋を震わせる。
「奴隷に……なりたいのね?」
邦子はふッと泪ぐみながら呟く。
「奴隷にさせて……」
征四郎は、邦子を見挙げる。
その瞳は妖しく燃えていた。
「いいわ。奴隷にしてあげる」
「じゃあ----」
征四郎が声を歓喜で震わせるのに、邦子は冷たく、
「女におなり!」
と叫んだ。
「女装しろと、仰有るのね?」
嘩道征四郎は声を弾ませる。
『苦い旋律』(梶山季之著)集英社文庫から引用
この小説は1970年に書かれました。
ですからいま生きていれば、曄道征四郎は80代、邦子は70代後半です。
このカップルはどのような道を歩んできたのでしょうか......。