内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

いと面白き中世 ― 昨日購入した文庫四冊について

2019-12-28 23:59:59 | 読游摘録

 最近は、フランスでも日本でも、本屋に足を運ぶ回数がめっきり減った。書籍の購入はほとんどネットで済ませてしまうからだ。それでも、たまに本屋さんに行くと、以前そうだったように、店内を「散策」して時間を過ごす。
 昨日、御茶ノ水駅前の丸善にネットで注文して取り置きしてもらっていた本を取りに行った。その折、すこし店内をぶらついた。最近刊行(新刊・再刊)された文庫が平積みされている書棚の前で足が止まった。何冊か手に取り、買おうかどうか迷った。結果として、次の四冊を買った。
 阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男』(ちくま文庫、1988年)。言わずと知れた名著で、四十年近く前に知的興奮に駆られながら読んだのを覚えている。電子書籍版も持っている。でも楽しみながら再読するにはやはり紙の本がいい。それに電子書籍版には石牟礼道子の解説が付いていない。
 網野善彦・石井進・笠松宏至・勝俣鎮夫『中世の罪と罰』(講談社学術文庫 2019年。初版 1983年。戦後の日本中世史研究の革命者であるいわゆる「四人組」が揃い踏みした圧巻の一冊。これも電子書籍版は先月購入済み。電子書籍版は主に講義に使うためで、じっくり読むにはやはり紙の版がほしい。
 北川忠彦『世阿弥』(講談社学術文庫 2019年。今月の新刊。初版は1972年)。世阿弥を通して能を見るのではなく、能の流れの中に世阿弥をおいて、「なぜ彼はその後半生において世に捨てられたのか」と問う視点が面白い。
 佐藤正英校注・訳『風姿花伝』(ちくま学芸文庫)。これだけがほんとうに今月の新刊と言える一冊。『風姿花伝』はすでに六冊ほど注釈書を所有しているが、本書裏表紙の紹介文に「本書は『風姿花伝』を日本思想史の文脈のなかに位置付け、捉え直した画期的訳注書」とあるのに惹かれて購入した。まんまと出版社の術中にはまったわけである。こう言いたくなる理由について明日の記事で一言述べさせていただく。