内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

遠距離恋愛・「クリスマス・イブ」・一分間のドラマとしてのCM

2019-12-13 23:59:59 | 講義の余白から

 平成時代のいつのころからだろうか、「昭和のかおり」という言葉を頻繁に耳にするようになった。その多くの場合、なんとなく不愉快な気分になっていた。昭和生まれで昭和時代をよく知っている人たちが懐かしさを込めてそう言うのならともかく(私は絶対に使わないが)、昭和末期あるいは平成生まれの若造や小娘どもが「昭和のかおりがするねぇ」とかわかったような口を利いているのを聞くと、そんな簡単に言わないでほしいなあと思ってしまうのは、要するに私がそれだけ年を取ったということでしかないのかも知れない。
 携帯電話が日本で普及し始めるのは1990年代の半ばであるから、それ以前と以後というのは時代区分の一つの指標にはなると思う。「遠距離恋愛」という言葉がいつごろから使われるようになったのか詳らかにしないが、JR東海が88年から92年にかけて展開した「クリスマス・エクスプレス」というCMシリーズは、遠距離恋愛をテーマとしており、それは携帯というアイテムの登場以前のことであった。
 この五作のCMに山下達郎の「クリスマス・イブ」(1983年制作)が音楽として採用され、これが同曲を冬の定番曲にすることにもなった。五作ともCMとして名作(画質はよくないが YouTube で視聴可能)だと思うが、当時17歳の牧瀬里穂を起用した1989年(平成元年)版の出来は特にすばらしい。
 先週、すべて日本語で行っている火曜日の授業の導入として、まず「クリスマス・イブ」をスクリーンに歌詞を映しながら聴かせ、次にこの五作のCMを「一分間のドラマ」と題して連続視聴させ、「遠距離恋愛」という言葉をめぐって当時の「時代の空気」についてシャカイシンリガク的な話を少しした。
 スクリーンにCMを映しているとき、私は学生たちの方を向いたままなので、彼らのCMに対する反応がよくわかる。CMの主人公の女性たちに共感して思わず笑みがこぼれている女子学生が多かった。書き取れとは言っていないのに、画数の多い漢字が並んでいる「遠距離恋愛」を書き取ろうとしてる学生も多かった。彼らの関心の所在が如実にわかっておもしろい。