内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

《 information 》をどう訳すか(承前)― ジルベール・シモンドンを読む(53)

2016-04-13 04:47:06 | 哲学

 シモンドンにおける « information » は、その原初的段階が問題であるときは、次のような事象を指していると私は考えます。
 個体化発生以前の或る緊張を孕んだ場に自己移相化が起こり、その場に極性が生まれ、その極性の両極とその間の関係が同時に発生する。このような関係とその関係項との同時形成が « information » の原初的段階である。一言で言えば、 « information » とは、関係形成そのものにほかなりません。
 生物レベルになると、個体化された生体がその内的環境と外的環境との間に成り立たせるコミュニケーション・システムの形成と稼働が « information » です。そこにおいて情報の発信者と受信者とがそれぞれそれとして形成され、両者はさらに互いにその役割を交換することができ、両者の間に情報交換が成り立つようになるような場所、西田的に言えば、そのような場所の自己限定が « information » なのです。
 心理-社会レベルになると、主体となった個体が己の抱える問題を解決するためにその問題を自己が帰属する社会の中に何らかの仕方で組み込み、その問題の解決を社会レベルで図ることができるようになることそのことが « information » です。
 いずれのレベルにも共通していることは、« information » は、関係の形成過程、形成された関係、その関係において或る形態・形式に限定された関係項、そして関係内容そのもの、関係項間のコミュニケーションの総体、これらすべてを指しているということです。
 これらすべての意味を一言で表現できる日本語があるでしょうか。残念ながら、これで決まりだと言えるほどの適語があるとは私には思えません。
 しかし、« information » は、シモンドン個体化理論の根本概念の一つとしてテキストのいたるところに出てきますし、近代になって生まれた新語ではなくラテン語起源の語彙の一つとして中世から使われてきた「由緒正しい」フランス語ですから、奇矯な訳語は避け、できるだけシンプルな日本語を充てたいと思っています。
 そこで暫定的な解決策として、「形が成る」「形に成す」「形を成す」という三重の動的意味を込めて、端的に「形成」と訳すことにします。こうすれば、フランス語では目に見える « forme » と « information » との共通項も「形」という漢字によって視覚化することができます。しかし、この訳語には難点も確かにあります。それは、 « formation » との区別がつかないということです。この語にこそ「形成」という訳語が相応しい場合が多々あります。そこで、補助的手段として、文脈に応じて、「形態形成」「関係形成」「個体形成」「情報形成」「自己形成」などのように限定辞を前に加えるか、あるいは、場合によっては、「形成過程の結果得られた形」という意味で、「形態(化)」あるいは「情報(化)」と単純に言い換えることにします。
 この解決策が妥当かどうか、それはテキスト読解を通じて検証されていくことになります。