内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「ポワッソン・ダヴリル」(« poisson d’avril »)

2016-04-01 00:00:19 | 雑感

 今日から四月ですね。フランスでは四月一日のことを「ポワッソン・ダヴリル」(« poisson d’avril »)と言います。「四月の魚」という意味で、鯖のことです。どうしてそれが四月一日を指すようになったかについては諸説あるようです。小学校などでは、クラスメートの背中に魚の形の紙切れなどを本人に気づかれないようにそっと貼り付けて、からかったりします(そういえば、娘も付けて帰ってきたことあったなあ。私も娘に貼られたけど)。魚の形をしたパイやケーキのこともやはり「ポワッソン・ダヴリル」と呼び、この日、お菓子屋さんの店頭に並びます(食べたことはありませんが)。
 だからというわけではありませんが、今日は、長期連載「ジルベール・シモンドンを読む」をお休みにして、肩の凝らない雑談をいたします(エイプリルフールだからといって、嘘は書きませんよ)。
 三月末が締切りだった原稿は、二十六日には一応仕上がりました。制限字数の倍以上の長さになってしまいました。それでもなお、原稿をより完全なものにするためには、書誌的情報に限っても、さらに加筆しなければなりません。そんなわけで、制限字数内に収まるように削ることは私自身にはとても無理そうなので、哲学の章担当責任者にそのまま送り、「あとは自由にカットするなり表現を簡略化するなりして編集してください。お任せします」とお願いしました。その責任者からは、一昨日、原稿への謝辞メールが届きました。まあ社交辞令でしょうけれど、 « votre beau texte, très riche et clair en même temps » ってありましたから、これで一応お役御免です。そのメールには、他のすべての原稿が集まり、同書の監修者とともに編集作業をこの夏の間に終えることができた後に、また連絡するとありました。執筆者たちは皆それぞれ自分のスタイルを持っているでしょうから、複数の他人の文章を編集して統一されたテキストにまで仕上げる作業は、全部自分で原稿書くよりかえって大変なこともあるだろうなあとその苦労が想像されます(よろしくお願い申し上げます)。
 四月に新年度を迎える日本とは違って、こちらでは今月末で後期の試験がほぼ終わります。今年は、四月十一日からの第三週が一週間の春休みです。学生たちにとっては、試験準備にちょうどいいタイミングです。教員たちにとっても、その間に試験問題をゆっくり作ることもできますから好都合です。この学年末試験に無事パスすれば、学生たちにとっては、八月末までの長~い夏休みが実質的に始まります。教員には、残念ながら、まだ仕事があります(って当然ですね、スミマセン)。今年度は、私個人としては、准教授の新ポストの審査委員長という重責があるし、パリのイナルコのポストの方は外部審査員だし、バカロレアの口頭試問試験官兼筆記試験採点官でもあるから、六月下旬まではあまり気が抜けません。
 でも、それらはそれらとして、それこそ「粛々と」と責任を果たしていくだけのことです。それ以上でもそれ以下でもありません。
 それらと並行して、連載「シモンドンを読む」は、たとえ細々とでも、蝸牛にも負けるようなペースになったとしても、とにかく続けていきます。先月末まで一月半ほどこの連載を続けてきて、私自身には、じわじわと「シモンドン効果」(って自分で勝手にそう言っているだけですが)が現れてきています。これまで考えてきた様々な問題を総合的・複合的・多元的に考える視座がシンモンドンの個体化理論のおかげで形成されつつあるのです。
 例えば、昨日の午後のことですが、若きフランス人同僚の金春禅竹についての日本語での見事な発表「金春禅竹の作品における登場人物の複層性:男性・女性・神性の融合をめぐって」とその後の質疑応答を聴いたのですが、そのときも「ああ、その問題ならシモンドンを使えば解けるなあ」って独りごちていました。とはいえ、さすがに場違いだろうなあと会場での発言は控えましたが(中沢新一なら、軽やかにそういうことやってのけるのでしょうけれど)。その会場にいらした日本人の能楽の先生に夕食の席でその話をしたら、とても関心を示してくださいました。
 その連載と同時進行で、六月末の日本での和辻哲郎ワークショップの発表原稿を準備し、七月下旬の五日間の集中講義の準備のために和辻哲郎の『倫理学』と三木清の『構想力の論理』を読んで、講義ノートを作成していきます。
 愉しみとしての読書としては、ここのところ、Brigitte Krulic, Tocqueville, Gallimard, coll. « folio biographies », 2016 と Chateaubriand, Mémoires d’outre-tombe, Le Livre de Poche, « La pochothèque », 2 tomes, 2003 とを読んでいます。前者は、コンパクトな伝記シリーズの一冊で、文章はとても読みやすいし、激動する19世紀前半の政治史の中にトクヴィルの生涯を手際よく位置づけています。後者については、朗読CDも購入しました(五枚組ですが、全作品のおおよそ十分の一程度の抜粋集)。風景と人物の描写において陰影に富み、憂愁に満ちた抒情性に濡れて光彩を放ち、類稀な美しさを湛えた名文によって綴られた、このフランス・ロマンティスムを代表する名作に聴き惚れています。こういう愉悦的読書によって、心の乾きがいくらかでも癒やされます。