「その華を
摘み取っては
いけないよ」
そのヒト
は
静かに
諭した
まだ
幼かった
ワタシは
膨れっ面
を
した
胸いっぱいに
燃えるような
花束を
抱きしめたかった
だけなのに
腕の中で
夏に
見損ねた
大花火を
見たかった
だけなのに
哀しくて
俯いたら
涙で
よけいに
その華は
美しく
見えた
手に入らないモノ
ほど
美しく
見えた
「其処は
お釈迦さまの
通り道
それを
縁取る華
だからだよ」
そう
優しく
微笑んだ
そのヒト
は
果たして
誰方だったの
だろう
怖がらせず
傷つけず
それが
オトナのセオリー
だと
悟らせてくれた
そのヒト
は
知っていたのだろう
か
ホントは
毒を持つ
コト
を
いまでも
その華
を
見かけると
触れたい
衝動に
駆られる
けれど
我にかえり
あの
コトバ
を
憶い出す
どうすれば
終わるのか
知っているのが
オトナ
ならば
ワタシは
ずっと
子どものフリ
を
していよう
腕を掴み
引き留めてくれる
そのヒト
が
其処に
居てくれるの
ならば
身を委ね
今日も
胸に
小さな
曼珠沙華
を
刻みつけて
もらおう
閉じた瞼
の
裏側
に
浮かぶ
その華
の
花言葉
など
うわ言のように
呟いてみよう
〜オモウハ アナタ ヒトリ〜
〜オモウハ アナタ ヒトリ〜
曼珠沙華 〜阿木燿子〜
涙にならない
悲しみのある事を
知ったのは
つい この頃
形にならない幸福が
何故かしら重いのも
そう この頃
あなたへの手紙
最後の一行
思いつかない
どこでけじめをつけましょ
窓辺の花が咲いた時
はかなく花が散った時
いいえ
あなたに愛された時
曼珠沙華
恋する女は
曼珠沙華
罪作り
白い花さえ
真紅に染める
あてにはならない約束を
ひたすらに待ち続け
そう 今でも
言葉にならない優しさを
ひたむきに追いかける
そう 今でも
あなたへの想い
どこまで行ったら
止まるのかしら
そんな自分を
もて余す
机の花が揺れた時
ほのかに花が匂う時
いいえ
あなたに愛された時
曼珠沙華
恋する女は
曼珠沙華
罪作り
命すべてを
もやし尽すの
曼珠沙華
恋する女は
曼珠沙華
罪作り
白い夢さえ
真紅に染める