下中恵子さんの読み聞かせ講座 第3回
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春に
谷川俊太郎
この気もちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが
大地からあしのうらを伝わって
ぼくの腹へ胸へそうしてのどへ
声にならないさけびとなってこみあげる
この気もちはなんだろう
枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく
よろこびだ しかしかなしみでもある
いらだちだ しかもやすらぎがある
あこがれだ そしていかりがかくれている
心のダムにせきとめられ
よどみ渦まきせめぎあい
いまあふれようとする
この気もちはなんだろう
あの空の青に手をひたしたい
まだ会ったことのないすべての人と
会ってみたい話してみたい
あしたとあさってが一度にくるといい
ぼくはもどかしい
地平線のかなたへと歩きつづけたい
そのくせこの草の上でじっとしていたい
大声でだれかを呼びたい
そのくせひとりで黙っていたい
この気もちはなんだろう
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今まで、こんなに丁寧に詩を読んだことがあっただろうか?
と思うほど、一言一言に込められた思いを確かめながら、声に出す。
「この気持ちはなんだろう」
この1行だけでも、実感を持って、自分の胸の中の気持ちと対峙しながら読もうとすると
本当に難しい。
「ぼく」の体を突き抜けてこみあげてくる気持ち
悲しみでもある喜び、やすらぎのあるいらだち、いかりを内包するあこがれ
そのどれもが想像するのが難しい。
たにかわしゅんたろう、今までもこの人について調べたこともあった。
「朝のリレー」とか「いるかいるかいないかいるか」など教科書に載ってたから。
でも、私は何を調べていたのだろうと思う。
ひとりっこの谷川俊太郎が、幼いころはひよわで孤独だったけれど
思春期の頃から、大きく変化したという。
「突如としてわいてきた意志の力」を自覚したと「ひとりっこ」という文章で書いているという。
私自身が読んだ文章ではないけれど。
そして、詩を書き始めた18歳ごろから学校が嫌いになり
成績低下、定時制に転学したという。
大学進学の意思もなかったと。
一方そのころ三好達治の紹介で詩壇に登場する。
この「春に」は1986年刊行の詩集、「どきん」に収められている。
このころ毎年詩集を出しているから、このころの作(55歳ごろ)だと考えられる。
今も詩集を出し続けている谷川俊太郎さん。
詩集だけではなく、絵本・脚本・散文・戯曲・映像など活躍分野はかぎりない。
言葉を紡ぎ、磨き、生み出していく原動力は
いったいどこから生まれてくるのかと思った。
今まで、何を調べていたんだろう?
何を伝えてこれたんだろう?
これじゃぁなと遅ればせながらの反省をした次第。