Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

極短小説

2009-12-27 00:36:08 | 文学
『極短小説』を読みました。
英語で55語で書かれた超短編小説のアンソロジーです。
これらは新聞が応募したコンテスト入選作であるため、基本的には無名の人々の投稿が多くなっているようです。中には有名な人も混ざっていますが。
157編収められていますが、中でもおもしろいと思ったもののタイトルを以下に。

「夜は更けゆく」31ページ
「ハリーの愛」109ページ
「ギター」143ページ
「夜の驚き」175ページ
「一代記」290ページ
「これまでのいきさつ」346ページ

これだけではないですが、とりあえず。
最初の「夜は更けゆく」は、全て単語から構成された実験的とも言える一編。名詞や形容詞をずらりと並べ、それだけで意味を醸し出しています。つまり、単語と単語をつなぐ接続詞はおろか、主語と述語さえも全て取っ払ってしまったのです。もはやセンテンスでさえない。ここまで切り詰めることによって、逆説的に巨大な意味が背後に立ち現れてきます。

「ハリーの愛」と「夜の驚き」は同一の趣向の作品で、意外なオチで笑える、というパターン。そもそもごくごく短い小説にはこの「オチ」すなわち意外な結末が備わっている場合が多いようで、それこそがキーであると考える人もいるようです。結末でいかに読者を裏切るか、そこに神経を集中させ、作者は知恵を絞ります。ですが、結末を放棄してしまう超短編小説の書き手というものもこの世には存在していて、『極短小説』には収められていませんけれども、そんな作家もいるにはいるのです。とはいうものの、結末の放棄も結局のところ、読者の期待を裏切る効果を上げているのですが。

「ギター」は非常によくできた作品。だとぼくは思いました。その悲惨な結末も見事ではありますが、人間がギターの中に入り込んでしまうという些か幻想的でさえある内容に新鮮な驚きを感じました。乱歩の「人間椅子」のような作品もありますが、そういう不気味さはなく、非常にからっとしていて、人間の消失が騙されたようにあっけなく実現してしまいます。単なる意外な結末で終わらない、剰余部分の豊かな滋味深い傑作です。

「一代記」は、たったの55語で人間の一生を語っている点がおもしろい。まあ思い付きやすいテーマではありますが、けっこう滑稽な会話から成り立っているので、愉快です。ものすごいハイスピードの人生。
「これまでのいきさつ」は、更にスピードを加速させ、地球の歴史をたったの55語で語ってしまいます。これもやはり滑稽で、愉快。
パテルの『ビーズ・ゲーム』も短い時間の中で進化の過程を物語るアニメーションですが、「これまでのいきさつ」はこの作品を想起させます。ただ、パテルの方が断然優れている・・・

傑作もそうでないのもありますが、暇つぶしとしても楽しめるアンソロジーです。入手しやすいと思うので、ぱっと手にとってぱっと読んじゃって下さい。


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