Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

アードマン・コレクション2

2008-10-30 01:49:53 | アニメーション
『アードマン・コレクション2』を観ました。アードマンというのは、『ウォレスとグルミット』シリーズなどを制作しているイギリスのスタジオのことです。質の高い作品ばかりを連発するスタジオは、他に日本のスタジオジブリ、ロシアのパイロットフィルムなどがありますが、アードマン・スタジオもその一つ。

このDVDに収められているのは、『ウォレスとグルミット』シリーズのような有名なものではない、短篇ばかりです。

このコレクションを観て驚いてしまいました。というのも、ぼくは「アードマン」と言えばやっぱり『ウォレスとグルミット』を想像してしまい、楽しげな作品を期待していたからです。しかし、ここに収められていた作品のほとんどは、そうではなかったのです。しょっぱなからブラックユーモア炸裂、最後はおどろおどろしい血の噴出。「コレクション1」が割と楽しい作品が多かったのに比べると、陰鬱さが際立ちます。もっとも、「コレクション1」にもきわどい作品はありました。そこでもやはり血の描写があったのです。けれども、それが間接的な描写だったとすれば、「コレクション2」は直接的。また、刑務所から仮出所した男の独白が延々と続くものもありました。こういう普通ドラマにはなりがたい作品を撮っている一方で、ドラマ性豊かな作品もありました。「舞台恐怖症」。

この作品によって、「コレクション2」は救われていると言ってもいい。舞台に生きていた男は映画の時代に取り残されてしまう。彼は犬を調教して、その犬を映画に出演させる。それは、ある横暴な役者の依頼によるものだった。やはり舞台人だった女性は彼の映画に出演するようになる。しかし、男は映画俳優の傍若無人さに怒り、対決する。だが、奈落へ突き飛ばされてしまう。そこへ女性がやってきて、男の見方をする。犬も役者に攻撃を仕掛ける。彼は不運も重なって命を落としてしまう。そこへ光り輝く存在が奈落から現れ、役者の魂を真の奈落の底へと連れ去ってしまう。舞台人の男は女性とともに外へ、「ショーのつづきをしよう」と言って、外界へと出てゆく――

希望を感じさせなくもない作品で、プロットも練られていて、「コレクション2」の中では最もドラマ性があります。しかし、そこにも影が忍び寄っていて、というのも、この舞台人の男の顔が醜く造形されているのです。それだからこそ、舞台の上でのパフォーマーとしてしか生きていけず、スクリーンの中では活躍できないのです。また彼は常に劇場で暮らし(そこに置いてあるバスケットの中に入っている)、外に出ることはありません。そのため女性と二人で外に出ようとするラストが意味を持ってくるのですが、しかしアニメーション全体の基調として明るさというものは抑えられていて、無気味さが漂っています。

けれどもやはり一番陰惨な作品は最後の「バビロン」でしょう。これは、戦争や紛争で金を儲けようとする人間たちを非難している作品なのですが、とにかく暗い。どんよりとした緑色の空の下、大きな屋敷で彼らの会議が開かれているのですが、その演説の最中にとんでもないことが起こる…

アードマンだったら愉快でスピーディなアニメーションを作るだろうと思っていたら、裏切られました。今度、「コレクション3」も観てみよう。

ちなみに、「コレクション1」には日本語字幕が付いていませんでした。台詞のない作品も多く、また英語を聞き取れなくても筋が分かる作品ばかりだったので、それほど問題ではなかったのですが…なんで字幕がないんだろう…