Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

初めてロシア文学を読む君へ(2)

2008-10-23 02:06:13 | 文学
最近、更新が滞っていました。ちょっと気分がすぐれなかったもので。

さて、今日は「これからロシア文学を本格的に読んでいこう」、と思っている健気な人に向けての講座、第二回目。前回は、ドストエフスキーとプーシキンについてでした。今回はトルストイとチェーホフ。

プーシキンを一通り読み終えたなら、次はトルストイに進むとよいでしょう。まず、『戦争と平和』にチャレンジしてみるとよいかもしれません。この小説は非常に長いですが、そのかわり、とてもおもしろいです。物語性が豊かで、起伏があって、話の中に引き込まれます。ただ、作者トルストイ自身の戦争論が随所で披瀝されるのには、閉口。

これを読み終えたら、『幼年時代』『少年時代』『青年時代』を立て続けに読みます。全部読むのが面倒、という人は、『幼年時代』だけでもよいかもしれません。『少年時代』と『青年時代』は、もっと後でも構いません。ただ逆に言えば、『幼年時代』だけは必ず読んでおくべきです。

それから『アンナ・カレーニナ』を読みます。非常に重要な小説ですので、丹念に読むことをお勧めします。これが終わったら、『光あるうち光の中を歩め』『クロイツェル・ソナタ・悪魔』を読むとよいでしょう。そして『イワン・イリッチの死』と『復活』。最後に、トルストイの民話集(『人はなんで生きるか』『イワンのばか』)。

トルストイは、宗教的に「転回」した作家で、途中から道徳的なメッセージ性が強くなりますが、その芸術家としての技は衰えていない、というようなことがどこかで言われていた、ような気がします…

さあ、トルストイを読んでしまったら、もう大作家の大作は終わりです。確かに長い小説は他にもありますが、残っているのはほとんど、『罪と罰』よりも短い作品です。
その「短い作品」ばかりを書いた作家、チェーホフが次のターゲットです。

まず、新潮文庫から出ている二冊の戯曲集、それに短編集を読んでみるとよいでしょう。つまり、『かもめ・ワーニャ伯父さん』『桜の園・三人姉妹』(以上が戯曲)、『かわいい女・犬を連れた奥さん』です。これらの作品を読んで、「あんまり好きじゃないな」と思った人は、チェーホフはこれでやめてもよいでしょう。できれば「六号室」や「無名氏の話」「退屈な話」も読んでほしいところですが、チェーホフがつまらないと感じられたら、これらの小説も、文字通り「退屈な話」だと思ってしまう可能性があります。そんなに無理して読むことはありません。

では、「チェーホフってすげぇおもしろいじゃん!」と思ってしまった人は、次に何を読めばいいか?ぼくは、松下裕個人訳、筑摩書房版の『チェーホフ全集』を初めから読むことをお薦めしたいと思います。もし、チェーホフを研究したいと思っているのなら、中央公論社版の『チェーホフ全集』を読んだ方がいいのですが、そうではないのなら、筑摩書房版で十分です。

両者の違いですか?中央公論社の方は、決定版で、ほぼ全ての作品が収録されています。それに対して、筑摩書房版は、多くの作品が割愛されています。特に前期の作品(一般にチェホンテ時代の作品と呼ばれる)は、大部分が選から漏れていると考えてよいでしょう。「じゃあ全然ダメじゃん」、と思ってしまうかもしれませんが、実はそんなことはありません。このチェホンテ時代の作品は、非常に短いものがほとんどで、チェーホフが家族を養うお金のために「書き散らした」作品です。中には優れたものも多くありますが、そういう作品は、筑摩書房版にも収録されています。つまり、筑摩書房版『チェーホフ全集』を読んでいれば、主要な作品はほぼ全て押さえることができるわけです。万歳。

しかも、この全集は装丁がきれいで、文字の組み方も非常に読みやすく配されており、また一冊の本の厚さは適度で、いかにも「全集」といった重々しさはありません。この本の体裁は、少年時代に「怪人二十面相シリーズ」や「ルパンシリーズ」を読んだ人には懐かしい、「あの感じ」を呼び起こします。

この全集を読んだ後で、中央公論社版にのみ入っている作品を興味に従って読む、というのが賢い方法と言えるでしょう。たとえば、戯曲は全部読みたいから戯曲だけ中央公論社版を読むとか(基本的に11巻と12巻の2冊にまとまっていますが、14巻に未発表の戯曲が入っています)。

初期の作品を読んだ後に後期の作品を読み返すと、別の世界が見えてきます。ぜひ全集を読んでほしいですね。全集を全部読むのはちょっと…という人は、全集の最初の方の巻と中頃の巻を適当に選んで読むか、岩波文庫の短編集を探して読んでみるとよいかもしれません。ちなみに、チェーホフ初期のユーモア短編は、『チェーホフ・ユモレスカⅠⅡⅢ』でも読むことができます。

思った以上に長くなってしまいました。しかし、これでロシアの「四大作家」(ぼくがいま勝手に名付けた)は攻略しました。ここからが、何を読むべきか、本当に悩むところです。第三回で、その道しるべを示したいと思います。ゴーゴリかな…

念のために言っておきますが、トルストイにはまってしまったら、全集を読んだって全く構いませんから。