田園都市の風景から

筑後地方を中心とした情報や、昭和時代の生活の記憶、その時々に思うことなどを綴っていきます。

手紙というものは

2018年06月27日 | 話の小箱

 小山慶太著「漱石先生の手紙が教えてくれたこと」(岩波ジュニア新書)を読んでいる。中高生向けの平易な内容であるが、夏目漱石の人物像が分かるなかなか楽しい本である。弟子だけではなく、見知らぬ読者にも丁寧に応対する漱石の生真面目さが伝わってくる。

 漱石は手紙が好きで、門下生の森田草平にあてた手紙で「小生は人に手紙をかく事と人から手紙をもらう事が大すきである」と自認している。漱石全集には2,500通を超える手紙が収められているそうである。

 私は悪筆だったこともあり、手紙(葉書を含む)を書くことが億劫だった。大学に進学し下宿生活を始めて3か月ばかりたったころ、関東地方で就職していた兄から葉書が来た。母から手紙が来たが、私が京都に行ってから大分たつのに何の音沙汰もないと書いてある、連絡くらいしたらどうだと叱責する文面だった。
 
 ついこの間、母は下宿に一泊して入学式に参列したばかりである。それに、この夏休みには帰省する予定である。何をそんなにという気がしたが、親から授業料と生活費を出してもらっていることを思い出し、元気にしています、あなたの拵えた漬物が食べたいと葉書に書いて投かんした。
 
 それから毎月届けられる現金書留には、便せん1枚ほどの手紙が添えられるようになった。いま思えば我が子が手元から巣立って心配でもあり、二人兄弟の兄も遠くにいて寂しくもあったのだろう。母の書いた字は女らしい優しい字だった。
 
 手紙は用件だけではなく、書いた人の人となりを伝えてくれる。学生時代には郷里にいる親友と手紙のやり取りをしていた。彼は詩も書いて送ってくれたが、文芸調の封筒と便せんに書かれた武骨な文字が、何ともいえない味わいを出していた。
 
 字は人をあらわすという。さらに言えば手紙自体が書いた人の分身であると思う。だから一度読んだ手紙は後でまた読み返し、大切にとっておいた。若い時分の手紙は引き出しにしまっておいたが、母が実家を建て替える際に机は処分されてしまった。手紙の行方は聞かなかった。
  
 手紙を書くことは久しくなかったが、この春に遠方にいる高校の同級生と手紙のやり取りをした。彼とは卒業以来会ったことはない。手書きの温かみのある文を読んでいると、高校時代の面影が立ちのぼってきて、ちょっと青春の味がした。
 
 
 
      フリーフォトより
 
 
 
 
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4 コメント

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手紙 (takezii)
2018-06-27 15:58:14
電話で済ませる時代になり 携帯電話やスマホの メール LINEで 繋がる時代になり 本当に 手紙を(はがきもですが) 書かなくなってしまいましたね。
書いても パソコンで打ち込んでプリントしたりして 自筆で 出したのは もう何十年も前までのような気がします。
親からの手紙、友からの手紙、その書体から その人柄、温かさが伝わってきたものですが もうそんな時代は 昔話になってしまうんでしょうか。
だからこそ 手紙(はがき)に拘ってみるのも いいかも知れませんね。
若い子には 紙の無駄!、ゴミ!、料金もったいない、等と言われてしまいそうですが。
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takezii様 (九州より)
2018-06-27 19:22:28
パソコンと携帯の普及が、コミュニケーションのあり方を劇的に変えました。
私もメールを使いますが、用件のみを伝えています。
無機質な文字では、なりすましも可能です。
中学進学の祝いに安い万年筆を買ってもらい、大人になったような気がしました。
今どき手紙を出すと、変な人だと不審がられるかもしれません。
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手書き (tango)
2018-06-28 18:29:54
私は字は下手ですが、年賀状はもちろん必ず
言葉を入れます
お礼物には電話でなく必ず、はがきか手紙を
投函します
お中元にも今回、メッセージを入れました
手紙書くこと大好き人間です
ブログはそういう意味では字を書くことを大儀にさせないと思いますね?
手紙をいただくのも大好きです
大学時代の最初のラブレターは<英語>でした
これにはビックリしましたが、、、
若いエピソードです<わらい>
返信する
tanngo様 (九州より)
2018-06-28 20:54:52
ラブレターが英語とは素敵ですね。
私は悪筆で、人前に字を晒すのが恥ずかしい思いをしていました。
しかし自筆の手紙を貰うのは楽しみでした。
リアルタイムでメールが届く現在とは、私信の有難味が違っていましたね。
無機質なパソコンの文字で、しかも短文では誤解を招くことがあるので、
ブログの文章には気を使っています。
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