田園都市の風景から

筑後地方を中心とした情報や、昭和時代の生活の記憶、その時々に思うことなどを綴っていきます。

旧暦で季節を感じる

2018年07月02日 | 話の小箱

 6月末日、各地の神社では夏越の祓が行われた。筑後一の宮である高良大社でも雨のなか、神事が執り行われた。歳時記を見ると、夏越の祓は半年間の穢れを祓う行事だとある。また、これからの暑い夏を無病息災で過ごせるようとの祈りも込めている。

 ただ例年この時期は梅雨の真っただ中で、暑い夏に向かうという季節感はない。インターネットの旧暦カレンダーを見ると(以下同じ)、今年は8月10日頃が旧暦の6月末日にあたる。これなら夏越という言葉が実感として迫ってくる。今年、関東地方では夏越の祓神事に合わせて梅雨明けしたようだ。

 旧暦と新暦の季節の違いを書いた本に、千葉望著「旧暦で日本を楽しむ」がある。太陽暦で育った私達には、理屈では分かっていても、違和感がある季節行事や時候が例に引かれていて、分かりやすい。以下、同書を参考にしながら。

 松尾芭蕉の「奥の細道」に

 五月雨ののこしてや光堂

 という句がある。私は長い間、これを新暦の5月という明るい感覚で受け止めていた。しかし芭蕉が平泉に着いたのは旧暦5月13日。今年は6月26日にあたる。五月雨は梅雨のことである。雨に降りこめられる梅雨だからこそ、「光」という言葉がいきる。もう一句。

 五月雨をあつめて早し最上川

 詠んだ日は旧暦5月29日。今年では7月12日。梅雨末期の豪雨の時期である。増水した最上川のイメージが目の前に広がってくる。実際、芭蕉も川の増水で日和まちをしていたらしい。

 こういう季節感のずれは多い。年賀状には新春や初春と書くが、いまから寒くなるのにと、子どもの頃から思っていた。旧暦の存在を知ってからも、春が来たと言う気分にはならない。やはり旧正月の方が迎春という言葉にふさわしい。

 9月9日は重陽の節句である。めでたい数字が並ぶ日であり、菊の節句とも呼ばれる。しかしまだ日中は暑い盛りである。今年は10月17日にあたり、その頃ならば菊の節句にふさわしい。華道をたしなむ人には大切な日だそうだが、まだ菊の季節には早いような気がする。

 赤穂浪士の討ち入りは12月14日。今年は旧暦では11月8日になる。雪にはまだ早い。新暦でいうと来年の1月19日が討ち入りの日に当たる。この日ならば、夜半から雪がしんしんと降り積もる光景も様になる。

 西行法師の歌より

 願わくは花のもとにて春死なんそのきさらぎの望月のころ

 花は桜、きさらぎは2月。新暦の3月半ばから4月半ばにあたる。西行は望み通り釈迦入滅の翌日、2月16日に73歳で没した。現代では新暦で季節行事をすることが多いが、著者によると、新暦の2月16日に西行忌にまつわる法要や行事をする人はいないそうである。理由は、この時期に桜は咲かないから。

 旧暦は太陰太陽暦である。月の満ち欠けを基本にしながら、太陽の運行との誤差を数年に一度、閏月をもうけて修正する。天文学にうとい私は、時代小説に出てくる閏何月というのがよく理解できなかった。旧暦の日は、年によって違うが新暦より1か月半程度あとになる。

 満天の星空という言葉が遠くなり、いまでは月を仰ぐことも少なくなった。まだ幼いころ、通っていた幼児園で月見の会があった。その夕、母と園庭で見た、大きな黄色い満月が今でも目に浮かぶ。

           フリーフォトより

 

 

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